「我らがサムライだぞ!」恩師ハリルが激怒した、マルセイユ酒井宏樹への猛バッシング。サポーターの想いは…【現地発】

「我らがサムライだぞ!」恩師ハリルが激怒した、マルセイユ酒井宏樹への猛バッシング。サポーターの想いは…【現地発】

不調をきっかけに、一部のメディアから批判を受けている酒井。 (C) Getty Imaegs



「サカイが批判されている???? 彼とサンソンとマンダンダは随分前からレギュラーで最も活躍している選手じゃないか」
「我らがサムライだぞ、サカイに触るな、彼を批判する奴らは愚か者だ」

 マルセイユの日本代表DF酒井宏樹がやや調子を落として酷評された問題をめぐって、こんな憤激と激励の声が上がり始めている。

 昨年10月のパリ・サンジェルマン戦(0−4で敗北)でイエローカードを食らった酒井は、累積による出場停止処分で、今季最大の山場だったリヨン戦(2−1で勝利)に出場できなかった。さらに、年明けのフランスカップの・トレリサック戦(1−1でPK戦の末に勝利)でもイエロー2枚を食らい、退場となってチームを窮地に陥れたため、批判の的となってしまった。

 このため、「どうしたのだ?」という雰囲気は確かに立ち昇った。なにしろ、フランク・パシ、リュディ・ガルシア、そして現監督のアンドレ・ヴィラス・ボアスと、すでに3人もの監督の下でマルセイユの危機を救ってきたのが酒井だからだ。

 守備があちこちでがたついても、常に献身的に走り、守り、奮戦してきた。そのおかげでマルセイユはチャンピオンズ・リーグ(CL)を狙える位置まで辿り着いたと言っても過言ではない。それだけにファンは、このSBの不調に首を傾げたのだった。

 プレミアリーグのトッテナムが関心を示したとの報道があった時も、「マルセイユへの愛が揺らいだか?」と一部ファンに疑念を抱かせた。フットボールが宗教のごとく君臨するマルセイユだけに、「心離れ」は何より重大だからだ。

 だが、ほとんどのマルセイユ・サポーターは、とくに大きな批判を噴出させたわけではなかった。だからこそソーシャルネットでも「????」がついたと言える。

 地元以外のマルセイユ・ファンも同様だった。パリ近郊でも、「サカイに批判?」、「たしかにこのところのプレー疑問だが、サカイのような選手を非難するなんてあり得ない!」、「いくらマルセイユ人は忘れっぽいと言っても、サカイの貢献を全員が忘れるなんてことはない!これから試合はいくらでもある。少し休んでリスタートだ」といった声が相次いでいる。

 批判はむしろメディアから出たもので、それも酒井の不調という「意外性」が「売れるネタ」だったからだろう。絶不調だったジョルダン・アマヴィが問題のパリSG戦から絶好調となり、対照的な活躍を見せていたことも、好奇心をそそったかもしれない。まポジションを争うブナ・サール支援派がいるのも確かだが、ビッグクラブであれば、健全な競争は当然だ。

 そんななかヴィラス・ボアス監督は1月27日の定例記者会見で酒井について質問され、このように返答している。

「今の彼に足りないのは(負傷で戦線離脱しているフロリアン・)トバンとの関係性だと思う。実際彼も私にそう言った。トバンとの連係に代わるものを、我々はまだ見つけ出せていないのかもしれない」

 それでも、憤激を隠さなかったのは、元日本代表監督ヴァイド・ハリルホジッチだ。

 地元紙『La Provence』に登場した“コーチ・ヴァイド”(フランスでの愛称)は、「いくらサカイだって常にトップ・コンディションでいることはできない。資金もかけさせずにやってきてクラブに多くをもたらしたんだぞ。ただ、マシンじゃないのだから、スピードが落ちることだってある。彼のような人間を非難するなんて反吐がでる!」とヴァイド節でぶちまけ、酒井ファンの喝采を浴びた。

 そして、SNSでも、激励の声は続いている。

「フランスでこれほど真面目でこれほど心優しい選手が一人だけいるとしたら、それがまさにヒロキ・サカイだ」
「(批判するにしても)絶対に彼じゃないだろ!! サカイはトップもトップ(最高も最高)、頼れる男、最初の1分から最後の1分まで全てを出し切る男だぞ」
「いまの選手たちを批判するなんて、気が狂ってなきゃ、できないよ」

 もっとも、妬みを買った可能性も否定はできない。酒井は2019年のマルセイユ最優秀選手に選出された。こうした報奨と喜悦の後にこそ、実は落とし穴が待っている。本人は変わらなくても、周囲の目が変わるからだ。メディアはより厳しく一挙手一投足を観察しはじめめ、チームメイト、監督、ファンからの要求はさらに高くなる。「成功の代償」と呼ばれるものである。

 酒井はファンの激励に応えて、ここからレジリアンスを発揮しなければならないだろう。

 現チームは攻撃面の創造性に欠けており、ディミトリー・パイエットがいなければ(いても)機能していない状況だ。ダリオ・ベネデットもフィットしないまま苦戦し、ヴァレール・ジェルマンもゴールできずにいる。

 ならば、どう攻撃を作るかを考えるしかない。トバンがいなくてもどうゴールにつなげるか。どうチームを勝たせるか。司令塔やゴールゲッターになることはできなくても、酒井の果敢な動きと判断とビジョンから何かを創り出すのだ。ヴィラス・ボアス監督が言いたいのも、そこではないだろうか。

 マルセイユが勝利した1月29日のラウンド・オブ16で、酒井に出番は訪れなかった。中継局『France 3』のカメラが、ベンチに座ったままのサムライ戦士を何度もアップで映し出たが、気にすることはない。重要なボルドー戦(2月2日)も近づいている。敵地でボルドーに勝利すれば、チャンピオンズ・リーグ出場権獲得に向けて大きな一勝となる。スランプに陥っている場合ではない。

 オランジュ・ヴェロドロームは、ヨーロッパで最も人種差別のないスタジアムと言われている。したがって批判が出るとすれば純粋にピッチに起因する。しかもマルセイユ人はすぐ「変われる」。

 つまり、マルセイユのために貢献すれば一気に激励されるのだ。ボールは酒井に渡された。「C’est dans l’échec que l’on doit agir(失敗のなかでこそ行動しなければならない)」。ジャン=ポール・サルトルの言葉である。

取材・文/結城麻里
text by Marie YUUKI

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