「延期したくても…」ドイツでも無観客マッチ開催へ。ファンの想いを知る現場のリアルな声は?【現地発】

「延期したくても…」ドイツでも無観客マッチ開催へ。ファンの想いを知る現場のリアルな声は?【現地発】

ボルシアMG対ドルトムントは観客入りで行なわれたが…。 (C)Getty Images



 新型コロナウイルスの猛威は、一体どこまで広がっていくのだろうか。

 ドイツでは感染者数が1100人を超えた(10日次点)。隣国スイスでは、早々に4月3日まで国内のリーグ戦は中止を決定。しかしドイツでは先週まで、試合スケジュールを動かさないまま開催しようと苦慮していた。

 例えば、感染者が増えているノルドラインベストファーレン州は、このテーマに敏感だ。8日に行なわれたブンデス第25節ボルシアMG対ドルトムントは、無観客で行うべきかの議論があった。最終的には「屋外でのイベントなので、ウィルスが広がる危険はそこまで高くない」という当局からの“オッケー”を取り付け、開催にこぎつけた。

 その一方で、当該地の住民には、所持しているチケットをほかの試合と交換するという措置を講じ、自粛しやすいような対策も取られた。関係者は可能な限り安全性を確保すべく務めてたと言えるだろう。

 実際にこの日、スタジアムはほぼ満員。上位2チームの対決にふさわしい白熱した試合が繰り広げられ、多くのファンが喜んだ。

 だが、事態はそれで収まりそうにない。

 すでにブンデスリーガの各クラブは手洗いとうがい、握手の禁止を徹底している。そのほか、大迫勇也が所属するブレーメンなどは、公開練習をしばらく行なわないことに決めた。サインやセルフィー写真といったファンサービスも禁止されている。

 加えて、週明けにドイツの連邦保健省大臣イエンス・シュパーンは新型コロナの感染拡大を抑制するため、「1000人以上の人が集まるイベントは中止することを推奨する」と発言。当然、ブンデスリーガもこの対象に当てはまる。

 これを受け、同州保健省長官のカール=ヨゼフ・ラウマンは「我々はシュパーン氏の勧めを受け入れようと思っている」とコメント。「今後どうすべきかの指針をはっきり明示してくれたという点において、彼の発言はうれしいものだ」とし、ついに無観客試合が開催される可能性が高まってきた。

 誰もが、いずれこうした対策を実施せざるを得ないことをうすうすと感じてはいた。しかし、「なぜこの時期に?」というのが、ファンの正直な心の叫びだろう。優勝争い、残留争いがこれから佳境に向かう、大切な時期だ。


 しかも、よりによって無観客試合が適用される可能性が高い最初の試合には「母なるダービー戦」と呼ばれる、シャルケとドルトムントのルール・ダービーが含まれている。

 このダービーは、両チームのファンだけではなく、ドイツ中のサッカーファンが楽しみにしている。観客ナシのダービーマッチなど、想像することもできない。

 ファンの複雑な思いを知る関係者も、現場で悲鳴を上げている。

 ドイツサッカーリーグ機構(DFL)の代表取締役クリスティアン・ザイフェルトは、「我々はみな、サポーターで溢れた、普段通りのブンデスリーガを願っているさ!」と語ったうえで、冷静な判断が必要と語った。

「最終的な決定をするのは行政だ。これは、クラブやDFLがどうこうできる問題ではない。次節も満員のスタジアムでブンデスリーガが開催されてほしい。だが、残念ながら現実的な話ではない。試合は行なわれる。観客アリかナシか、どのくらいの人数ならば大丈夫なのか、当局の判断を待つしかないんだ」

 そしてザイフェルトは、現時点で「無観客試合を回避するために試合を延期するという選択肢は無い」とも語った。

 ブンデスは5月半ばまでにリーグの全試合を消化し、1部2部の入れ替え戦も実施しなければならない。州における試合予定もある。6月からはEURO2020も開催される。

 ただでさえスケジュール調整が難しいなか、いつウイルスの感染が収束するのか予想できない状況では、試合延期の決断は不可能なのだ。

「(無観客を)回避したいという意見は理解できる。でも今は、自分たちがこれまで直面したことがない、極めて例外的な状況だ。ドイツはこの局面をうまく回避する方法を探すべきだ」

 国内にとどまらず、国際親善マッチも見直しを迫られている。3月31日にニュルンベルクで開催予定のドイツ対イタリアは、ホストシティのニュルンベルク市が、イタリアサポーターの来訪を危惧し、中止の要請を出した。

 欧州サッカー連盟(UEFA)も、今夏開催予定のEURO2020の通常開催が難しい場合、無観客試合や開催都市の変更といった措置もない話ではないと明らかにしている。

 ドイツ、そしてヨーロッパのサッカー界、スポーツ界において、この一件が、前代未聞の事態になっていることは確かだ。だが、一刻も早く平穏が訪れ、ファンが何事もなくサッカーを楽しめる日が来ることを願わずにいられない。
 筆者プロフィール/中野吉之伴(なかのきちのすけ)

ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「サッカー年代別トレーニングの教科書」「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」。WEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)を運営中

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