「もうミスする権利はない!」CL無観客試合の日、“スタジアム外”に3000人が集結! パリSGサポーターの奮起は、なぜ起きたのか?【現地発】

「もうミスする権利はない!」CL無観客試合の日、“スタジアム外”に3000人が集結! パリSGサポーターの奮起は、なぜ起きたのか?【現地発】

無観客試合となったスタジアムの周囲に集ったサポーターたちは、試合後も花火を打ち上げ続けた。 (C)Getty Images



 パリジャン(パリ人)がまたひとつ新しいものを創り出したと、現地では喝采と感動を呼んでいる。

 あらゆる災厄がべったり纏わりつき、「呪われた試合」になりそうだったチャンピオンズ・リーグ(CL)のパリ・サンジェルマン対ドルトムント戦。思えば、冴えない内容でファーストレグに敗北してからこの3週間というもの、パリSGをめぐっては異様なニュースばかりが報じられていた。ざっと書き出すだけでも、これだけある。

・ネイマールが自分の体調管理に関してクラブを批判
・プレスネル・キンペンベの兄がトーマス・トゥヘル監督を侮蔑
・敗北48時間後に、南米選手3人の合同誕生パーティーで上半身裸のバカ騒ぎ
・パーティーをめぐって、選手たちがレオナルドSDとトーマス・トゥヘル監督に猛反論
・トゥヘル監督が提案したスペイン合宿を選手たちが拒否
・ボルドー戦でチアゴ・シウバが負傷、ネイマールもレッドカードで1試合出場停止に
・ストラスブール戦が新コロナウィルスの影響で延期、飛行機でとんぼ帰り
・新コロナウィルスの影響で、ホームでのセカンドレグが無観客試合に
・キリアン・エムバペが発熱

 最後のふたつは、残酷な「トドメ」としか言いようがなかった。シュールな空っぽのパルク・デ・プランスで、一昨年と昨年に続き、またしても無残にCLから敗退するパリGSの姿が、人々の脳裏を暗く塗り潰した。

 ところが――。サポーターたちは負けなかった。数日前から密かに準備していた計画を実行に移したのである。それがスタジアムに入ることができなくても、スタジアムの周りで大応援を繰り広げる、という前代未聞のプランだった。

 最もコアなサポーター集団CUPが呼びかけた集合時間は19時。これに3000人以上が応じ、パルク周辺は発煙筒と爆竹で真っ赤に燃え上がった。すぐ近くのカフェは臨時店員を複数雇ってフル稼働し、嬉しい悲鳴をあげた。一方の当局は、街頭デモを禁止しないという民主主義の原則にのっとり、機動隊を派遣しつつも、サポーターの行動を見守ったのだ。

 やがて選手たちの公式バスが到着すると、サポーターたちはさらに一層発煙筒と爆竹を炸裂させた。真っ赤な列を2つに割ってバスを歓迎し、同時に車体を激しく叩きまくった。

 これは「もうミスする権利はないのだと選手たちに知らせる手段だった」とサポーターは言い切った。驚愕のあまり、バスの窓に顔を張りつけてこれらを見つめたのは、ネイマールら外国人選手だ。

 いよいよ、キックオフが迫る。スタジアム内は空っぽで静寂。ただ、ところどころに横断幕が貼ってあった。「俺たちの“ウィルス”、それはパリSG」「エムバペよりハーランド」。シュールかつ静寂、といった穏やかな雰囲気である。ところがキックオフと同時に、空気が一転した。

 なんとスタジアム上の夜空に、轟音とともに美しい花火が次々打ち上げられたのだ。場外に詰めかけたサポーターたちが、すぐそばから打ち上げた花火だった。花火の音と光に込められたサポーターたちの怒りと熱狂のエールが、選手たちにひしひしと伝わり始める。花火はその後も続き、選手たちの背中を押し続けた。

 外ではサポーターたちも新たな発見をしていた。「すごくいいのは、外にいると発煙筒も花火も問題なくできることだね!」。確かにスタジアム内部では禁止されてしまったが、外なら自由だ。

 こうしてパリ高級住宅街の人々は、まるで7月14日の革命記念日かと見まがうようなお祭り騒ぎに遭遇することになった。

 そしてパリSGは、チーム精神を発揮しながらドルトムントを下し、悲願だった準々決勝進出を達成。試合後には選手たちがピッチを抜け出して階段を駆け上がり、スタジアムのバルコニーに姿を現すと、仕切りによじ登り、上半身裸になってユニフォームを振り回した。

 外で待ち構えていたサポーターと一体化し、みなが飛び跳ね、勝利に陶酔し、感激の涙を流すという、前代未聞の光景が完成。勝利の立役者のひとりであるネイマールは、しばらく幼児のように泣きじゃくっていた。本当の意味で、パリSGが団結した瞬間だった。

 その後しばらく、パリ地方一帯には、夜中すぎまで車のクラクションが鳴り響き、「まるで2018年か1998年のよう」「明らかにパリSGの歴史に残る試合」(現地紙『L'Equipe』)になった。

 マンオブ・ザ・マッチに選ばれたファン・ベルナトは、「パルク・デ・プランスに到着したときのサポーターの歓迎が、僕らに特別なモチベーションを与えてくれた。僕らに力を追加注入してくれたんだ」と告白。同じく大活躍したキンペンベも、「最も美しい手法で応援してもらった。僕のパリSGでのキャリアでも、最も美しい瞬間になった」と感慨深げに感謝を述べていた。見事にキャプテンシーを発揮したマルキーニョスは、「僕らはパーソナリティーを見せた」とコメントした。

 そしてトゥヘル監督はと言えば、こう語っている。「みなで、一緒に苦しんだと思う」――。

 苦境や危機のなかでこそ、一緒に苦しみ、そこから団結し、前に進む。これが全てに共通する教訓かもしれない。CLにおいて「厄払い」に成功したかどうかは後になってみないと分からないが、今はウィルスの脅威にも負けなかったパリジャンたちに拍手を送りたい。

取材・文●結城麻里
test by Marie YUUKI

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