ハーランド、マネ、そして南野拓実…レッドブル・ザルツブルクが有望選手を続々と輩出できる秘密とは?

ハーランド、マネ、そして南野拓実…レッドブル・ザルツブルクが有望選手を続々と輩出できる秘密とは?

近年ザルツブルクへビッグクラブへ送り込んだ(左から)南野、ハーランド、マネ。(C) Getty Images



 欧州サッカーの最先端で“メイド・イン・ザルツブルク”が大きな存在感を放っている。

 ドルトムントで眩いばかりの輝きを放つアーリング・ハーランドをはじめ、世界王者のリバプールでプレーするサディオ・マネ、ナビ・ケイタ、南野拓実は、いずれもレッドブル・ザルツブルク出身だ。

 チャンピオンズ・リーグ(CL)やブンデスリーガで躍進中の“姉妹クラブ”RBライプツィヒを支えるDFダヨ・ウパメカノやMFコンラート・ライマー、アマドゥ・ハイダラなどもオーストリアの強豪で技を磨いた経歴を持つ。

 いまや欧州有数の人材供給クラブと称されるザルツブルクは、なぜ次々と優秀なタレントを輩出できるのか。その秘密はスカウティング戦略と若手逸材の才能を伸ばす育成力にある。

 スカウティングの大きな特徴は、ターゲットの年齢制限を設けていること。基本的には16〜20歳の有望株しか狙わない。欧州のトップクラブに比べ、強化予算が5分の1程度に過ぎないため、いわゆるスタープレーヤーを獲得できる可能性が低いのが大きな理由だ。
 

 ビッグクラブが目をつけていないか、将来性を見極めきれずに獲得を悩んでいる有望株を素早く手中に収め、育てて売るシステムを機能させている。

 とはいえ財政面に余裕があるビッグクラブなど少数であり、ザルツブルクのような持たざるクラブの方が圧倒的に多い。つまりは同じ戦略のライバルが無数に存在するわけだ。

 では、いかにして“違い”を作り出すのか。ザルツブルクの方針は実にシンプルで、それは若手有望株の発掘およびサインをできるだけ迅速に済ませることだ。

 そのためにスカウト部門は、常日頃からチームスタイルに合いそうな選手を探している。監督が代われば、往々にして補強候補も変わってくるものだが、ザルツブルクにはその類の心配はない。

 かつてのスポーツディレクターであるラルフ・ラングニックが植え付けたアイデンティティーが変わることはないからだ。それはハイプレス、素早い攻守の切り替え、縦に速い攻撃を重視する戦術であり、若手中心のチーム編成などもそうである。これに共鳴できない監督はそもそも招聘されない。

 では、ザルツブルクが具体的に補強候補を絞り込んでいく過程を見ていこう。まずはスカウト部門が40万人の情報が詰まった独自のデータベースから、チームスタイルに合致しそうなタイプを割り出す。

 次にビデオチェックを通じて、ボール保持時のプレーやオフ・ザ・ボールの動きなどを確認。実際に視察するスカウトは、インプレーではない際の振る舞いやウォーミングアップの仕方などに目を光らせる。そして両方をパスした選手を補強リストの上位に載せるのだ。

 監督やスポーツディレクターから補強を求められた後に、その長いプロセスを消化していては他の機先を制するのは困難だ。

 しかし、ザルツブルクには不変のアイデンティティーがあるゆえ、スカウト部門は事前に踏み込んだ作業をこなすことができ、すぐに補強候補を提案できる態勢を整えている。

 ただし、チームスタイルにフィットしそうな資質の持ち主でも、獲得に乗り出さない場合もあるという。2006年からチームマネジャー、12年からスポーツコーディネーター、15年からスポーツディレクターを務めるクリストフ・フロイントはスカウト部門に周知徹底している事柄として、現地メディアにこう話している。
 

「選手のメンタリティーが非常に重要です。いつも才能より重要だと言っています。ピッチの外ではどうしているか、トレーニングにはどう取り組んでいるか、敗戦時にどう反応するか、チームメイトとどう接しているか」

 こうした条件に合ったヤングタレントを見つけても、ターゲットを口説き落とせないようなら意味がない。ここでザルツブルクの強みになっているのが、欧州でもトップクラスの育成環境だ。

 1年9か月の工期を経て、14年に竣工したトレーニング施設では、20人のフルタイム指導者を含む120人のスタッフが働いている。フルコートは屋外に6面、屋内に1面あり、もちろん最先端のジムも完備。トレーニング結果はすべてコンピューターで管理されており、各分野の専門家が個々に適した練習メニューを組んでいる。

 メガクラブに勝るとも劣らない環境があるうえ、ビッグクラブに比べれば、トップチームでチャンスを得られる可能性もはるかに大きいザルツブルクは、だからこそ堅実なキャリアアップを望むティーンエージャーたちにとっての理想的な新天地となっている。

 いわばスター候補の登竜門となりつつあるザルツブルクから、新たなハーランドやマネは生まれるだろうか。もちろん、ダイヤモンドの原石には事欠かない。

 なかでも覚えておいて損がないのは、ハーランドと同じ大型CFのベンヤミン・シェシュコだ。

 もっとも、このスロベニアU-17代表はまだリーフェリンク(ザルツブルクの事実上のセカンドチーム)で研鑽を積んでいる16歳に過ぎない。UEFAユースリーグのナポリ戦で2ゴール・2アシストを決めた大器だが、さすがに今夏のビッグクラブ行きはないだろう。

 ステップアップの時が近づいているのは、今冬にハーランドと南野が去った前線で気を吐いているパトソン・ダカか。

 爆発的なスピードとしなやかなバネを誇るザンビア代表の点取り屋で、オーストリア・リーグで19試合・16得点とブレイクしている(昨シーズンは15試合・3得点)。まだ具体的な噂は浮上していないものの、4大リーグのビッグクラブからいつ声がかかってもおかしくない21歳の大器だ。
 

 ダカとは対照的に、すでにメガクラブからの関心が報じられるのはドミニク・ショボスライ。

 高精度の右足キックと卓越したテクニックが売りのサイドアタッカーで、中央でも機能する汎用性を持つ。ハンガリー代表のこの19歳にはアーセナルやRBライプツィヒが強い関心を抱いているようだ。

 他にも非凡なダイナミズムとボール奪取力を誇るザンビア代表のMFイノック・ムウェプ(22歳)や育成の名門パリ・サンジェルマンの下部組織で育った左利きのプレーメーカー、アントワーヌ・ベルネド(20歳)あたりも遠くない将来にビッグクラブへの扉を開くかもしれないし、まだトップチームで活躍していない選手が大化けする可能性もあるだろう。

 なにしろハーランドがザルツブルクのトップチームで輝いたのは半年だけなのだから。

 ヨーロッパでも指折りの育成型クラブという地位を確立した感のあるザルツブルクが、次にどんなビッグタレントを輩出するか。欧州中のビッグクラブが注視しているはずだ

文●遠藤孝輔
※『ワールドサッカーダイジェスト』2020年3月19日号より転載

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