「やっと、光が見えてきた」苦しみ続けたハノーファーの“背番号10”原口元気が、息を吹き返したきっかけとは?【現地発】

「やっと、光が見えてきた」苦しみ続けたハノーファーの“背番号10”原口元気が、息を吹き返したきっかけとは?【現地発】

ニュルンベルク戦の原口。背番号10を背負った日本人プレーヤーに対する声は、今は期待に満ちている。 (C) Getty Images



 昨シーズンにヘルタ・ベルリンからハノーファーに完全移籍した原口元気は、今と全く別のイメージを描いていたはずだ。背番号10にふさわしい活躍をして、チームを上位に導き、さらにステップアップしていく。ところが、チームはスタートから不振が続き、原口自身もリーグ戦ノーゴールに終わった。

 最終的には2部へ降格となり、原口への風当たりは強かった。移籍金450万ユーロ(約5億6250万円)に見合う活躍をしたのか。ファンやメディアからの期待が高かった分、批判も強くなったのは仕方のないことかもしれない。

 今季も序盤は散々だった。ミルコ・スロムカ監督とかみ合わず、衝突するシーンがしばしばみられていた。トレーニング中にプレーを止めて修正しようとするスロムカに対して、原口も真っ向から自分の意見をぶつける。

 スロムカ監督は、「私はとにかくハイスピードでのプレーを求め、そのために多くのダッシュをするところに価値を見出している」と常に強調し、納得いかない部分は、とにかく指摘し続ける。トレーニングのミニゲームでは「ゲンキ、守備だ、守備だ!何をしてる?」と檄を飛ばすことも少なくなかったという。

 監督は、決して原口のポテンシャルを疑っていたわけではない。「トレーニング中のプレーを見たら、ハラグチの才能のすばらしさを見て取れるはずだ」と地元メディアに語っていたほどだ。その一方で「それなのになぜどの試合でもプレーして、どの試合でもゴールを決めないのか、全く持って不思議だ」ともらすこともあった。言わんとすることはわかる。だが、そのアプローチにズレがあったのかもしれない。

 ある試合で、スロムカ監督は、原口を左MFでスタメン起用し、後半は右MFに変更したことがあった。ベンチサイドでプレーさせることで、指示を届けやすいからという理由だったという。

 そういえば、原口に対して同じことをヘルタ・ベルリン所属時にパル・ダルダイ監督も行なっていた。だが、それはブンデスリーガにきたばかりの選手に対してだからこそ、意味があるものだった。主力のひとりとしてチームにいるはずなのに、まるで新人のように扱われて、果たして信頼を肌で感じることができるだろうか?

 会長のマルティン・キントは「ゲンキは素晴らしい選手だ。だが信頼が必要だ。最初のゴールを決めたらそれが自信となり、押し上げてくれるはずだ」と話していたことがあったが、まさにその信頼を届けることができなかったのではないだろうか。

 

 だからこそ、11月の監督交代は原口にとって間違いなく転機となった。新たに就任したケナン・コチャク監督は就任後から原口を中心選手に据えた。コチャク初陣となった14節ダルムシュタット戦では、原口が14分にCKからの流れから先制ゴールをマーク。実はこれが、原口にとってハノーファーでの初ゴールだった。

 第16節アウエ戦では、後半アディショナルタイムに逆転ゴールを決め、チームを今季ホーム初勝利に導いた。コチャク監督就任後は、累積警告で出場できなかった1試合を除き、12試合中11試合にフル出場。4ゴールをマークし、上昇気流に乗っている。ポジションも起用法も試合ごとに代わるなかで、本職のサイドハーフのほかにも、ボランチやトップ下でチームのために重要な役割を担っている。

 転機となった監督交代について、原口は『Bild』紙のインタビューに次のように語っていた。

「新監督が発表された時、僕は日本代表チームで活動中でした。ハノーファーに戻った後、コチャク監督は僕をすぐオフィスに呼んで、ポジションとしてボランチ、インサイドハーフ、トップ下としてみていることを伝えてくれました。最初はできたらサイドの方がいいんですが、ということも言ったけれど、監督は自分の思いを貫いた。正しい判断だったのかなと(笑)。それと、監督は僕とたくさん話をしてくれるんですね。それが僕にはいいことなんです。監督交代は僕らにポジティブな効果を与えてくれたと思います」
 

 ふたりの信頼関係は深い。第24節ホルシュタイン・キール戦では累積警告で出場停止となったが、コチャク監督は「ハラグチの穴を埋めるのは非常に難しい。特別なプレーヤーで、本当に重要な選手なんだ。チームにとっての損失だ」と欠場を嘆くほどに原口のことを信頼しているのだ。

 復帰戦となった第25節ニュルンベルク戦では、90分間ゲームをコントロールして3−0で快勝。今季2度目の2連勝に貢献した。原口は攻守にバランスの取れたプレーをみせた。

 試合後、10番を背負った彼は「前回(出場停止で)出てなくても試合に勝って3ポイントを取ることができていた。なおさら、今回自分が出てる時にもきひんと勝たないといけないと感じていた」とホッとした様子で勝利を喜んだ。そして、チームがどんどん安定してきたことに対して、「やっと、やっとチームとして先が見えてたかな、という感じ」と手応えを口にしていた。

 監督の信頼が、原口本来の力を解放したといえるだろうか。新型コロナウィルスの影響でシーズン再開の見通しはまだ立っていない。自粛期間のコンディション調整も簡単ではないだろう。だが、せっかくみんなで掴んだいい流れを手放すつもりはないはずだ。チームの主軸として原口の活躍に、今後も期待が集まる。
 筆者プロフィール/中野吉之伴(なかのきちのすけ)

ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「サッカー年代別トレーニングの教科書」「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」。WEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)を運営中

関連記事(外部サイト)