【岩本輝雄】あの“伝説のFK”をプレーバック。「助走した時に前を見たら…」

【岩本輝雄】あの“伝説のFK”をプレーバック。「助走した時に前を見たら…」

途中出場でピッチに立った市原戦、FKのチャンスを得ると、迷いなく左足を一閃。強烈な一撃がゴールネットに突き刺さった。(C)J.LEAGUE PHOTOS



 あの伝説のFKの舞台裏を当事者が明かす――歴代最多のFK弾を記録する中村俊輔(横浜FC)、2001年のリーグ優勝を鮮やかな一撃で手繰り寄せた小笠原満男(元鹿島アントラーズ)、予測不可能なブレ球を放つ三浦淳寛(元神戸など)と、錚々たる顔ぶれが並ぶが名手の系譜に、岩本輝雄もその名を連ねるのは間違いない。

「テル」の愛称で親しまれ、日本代表では10番を背負ったレフティが“ぶち込んだ”歴史的なゴールは、2003年10月18日、仙台スタジアム(現ユアテックスタジアム仙台)で行なわれたベガルタ仙台対ジェフユナイテッド市原戦の55分に生まれた。

 ゴールに向かってほぼ正面、距離にして約40メートル。当時はベガルタ仙台の一員だった31歳のテルは、どんな狙いで、どんな想いであのFKを決めたのか。本人に改めて振り返ってもらった。

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 ちょうど監督が代わった時期で、それまでレギュラーだった自分は、その試合、ベンチスタートだった。あの時のジェフは監督がオシムさんで、すごく強くてね。前半もベガルタはけっこう押されていた。
 
 試合前日にはセットプレーの練習もしていて、自分は壁に入る役目。もしかしたら、ちょっと不貞腐れていたかも(笑)。強化部長からは「テル、ちゃんと聞いておけよ。明日、もしかしたら出るかもしれないんだから」とも言われて。たしか、遠目からのFKは、味方に合わせる作戦だったはず。

 でも自分としては、もうワガママでしかないけど(笑)、強化部長には「チャンスがあれば、思いっきり直接狙いますから!」とか言って。選手としては絶対にダメだし、真似してほしくないけど、もう来たボールは全部シュートしてやろうとも思っていた。

 こういう言い方が良いか悪いかは、分からないけど……まあ、良くはないんだろうけど、やっぱり先発を外されて、正直、ムカついていた。監督がベストだと思って選んだ11人。それはもちろん尊重していたし、自分の代わりにスタメンで出た選手に対しても、頑張ってほしいと思っていた。でも、とにかくめちゃくちゃ悔しかった。ピッチに立って結果を出すのがプロだし、最終的にそのシーズンはJ2に降格してしまうんだけど、なんとかチームの力になりたかった。その想いが強かったね。

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 前半はベンチで悶々としていたけど、後半の頭から途中出場。その10分後、FKのチャンスが訪れる。ゴールまで約40メートル。CKで言えば、ファーサイドのゴールネットぐらいかな。普通は狙わない距離だけど、味方に合わせるとか、そんな考えは一切なかったね。ボールの側に立っていたシルビーニョからは「どうする?」的なことを聞かれたけど、ほとんど無視(笑)。ゴールしか見ていない。「いや、打つよ」とか「俺が蹴るって言ったら、蹴るんだよ」とか言いながら、助走を取った。

 直接狙う。頭の中はそれしかなかった。迷いなし。バックステップしながら前方を確認。壁は2枚だけど、まさか打ってくるとは思っていなかったんだろうね。その2枚の壁は割れていて、隙間ができていた。

 狙うならここだ。駆け引きはいらない。カーブをかけたとしても、この距離だとおそらく失速する。枠に飛んでも、ゴールライン手前で相手GKにパンチングされるのがオチ。後半から出た自分と、そしてチームを勢いづけるためにも、思い切りぶち込むだけ。

 だからといって、力いっぱい蹴ったわけではない。インステップで軽く。フルスイングしているように見えるけど、コンパクトなキックを心がけた。力はそんなに入れていない。ただ、身体の体重がすべてボールに乗るようにとは意識した。力任せに蹴るだけだと、上に行っちゃうからね。うまくミートできたと思う。
 
 結果的に、向かってゴールの右側に決まったけど、そんなコースは狙っていない。GKの位置とかもまったく考えていなかった。ゴールに向かって一直線。ストレート。そうしたら良い具合にホップして、グンと伸びてくれた。

 むしろあの距離を逆手に取った感じだよね。小細工しないでしっかりと蹴れれば、あの距離だとボールはどっちかにブレると思った。そういう計算もあった。

 改めてあのFKを振り返ると、まさしく“神が降りてきた”っていう風にも思う。目に見えない力が背中を押してくれたような気もする。誰かに押し出されるような感じだね。
 

 なによりも、繰り返しになるけど、先発を外されて「なにくそ!」という悔しさがあった。自分はまだまだできる。そういう意地もあったし、これまで主力としてやってきた自負もあった。それが一番大きいかな。今でもあの時の悔しさは、リアルに思い出せるから。

 コンディション的にも良かったと思う。その年の夏に肉離れをして、1か月ぐらい、筋力トレーニングや走りのメニューを増やしていたんだよね。秋口は、その効果がちょうど出始める頃でもあった。

 決まった瞬間は……やっぱりプロは結果だと再認識した。サポーターの中には「テルなんて、もういらない」と思っていた人もいたかもしれない。そういう人たちを見返してやったとか、そんな負の感情はなかったかな。映像を見返せば、ゴールが決まった瞬間、多くのベガルタサポーターは飛び上がって喜んでくれている。もう、最高だよね。

「神が降りてきた」とか「見えない力」とか言ったけど、間違いなく、ベガサポの後押しがあったからこそ、でもある。いつだって良い雰囲気を作ってくれるし、選手とサポーター、一緒に生み出したゴールだと思う。

 ガッツポーズは誰に向けて? いや、よく覚えていないけど(笑)、スタジアムに集まって、自分を応援してくれているみんなに対してじゃないかな。

 試合はその後、2失点して逆転負け。勝点をもたらせなくて、その点は申し訳なかったけど、あのFKの場面だけを切り取れば……うん、良いシュートだったかな(笑)。
 

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