震えた大逆転劇、バルサ対パリSGの「6−5」は奇跡か必然か――。スタンドで感じた“雰囲気”【CL回顧録】

震えた大逆転劇、バルサ対パリSGの「6−5」は奇跡か必然か――。スタンドで感じた“雰囲気”【CL回顧録】

0-4からの逆転劇というCL史上初の快挙を成し遂げたバルセロナ。はまったときの破壊力は半端ではなかった。(C)Getty Images




 テレビの前で崩れ落ちた。「何をやってんだよ!」と思わず愚痴がこぼれる。

 2017年2月14日、チャンピオンズ・リーグ(CL)決勝トーナメント1回戦のバルセロナ対パリ・サンジェルマンを観戦しようと、まずは第1レグを自宅のテレビで見た。大学卒業旅行の一環で第2レグは生観戦する予定で、チケットは購入済み。絶対に失敗したくないから早期に買い、しかも手配業者を通したから金額は約9万円だった。

 そんな背景もあったので、パリSGがバルサを4−0で粉砕した第1レグを見て、怒りが込み上げてきた。ビッグマッチと目されるカードだからこのゲームをチョイスしただけで、どちらのファンというわけではないが、不甲斐ないバルサに対してパリSGが完勝でほぼ勝負を決してしまい、第2レグは「面白くないだろう」と思ったのだ。アルバイトでこつこつ貯めた9万円が……。まさに水の泡だ。
 
 失意のままバルセロナに飛んだ。第2レグの3月8日になると、スタジアムから離れているのに、市内の中心地で意気揚々と騒いでいるパリSGのファンがちらほらいる。反面、バルサのオフィシャルショップに行くと、優しく声をかけてくれたスタッフに「今夜、試合を見に行く」とつたない英語で伝えると、「さすがに勝つのは無理じゃないか」と言わんばかりの哀れみの目で見てきた。

 パリSGサポーターの盛り上がりはカンプ・ノウに近づくほど色濃くなる。「それはそうだよな」と試合前からパリSGのベスト8進出の確信に同意しつつ、高揚感のないまま会場へ向かったのだが、場内に足を踏み入れると、気持ちは変わった。

 まだキックオフまで相当に時間があるのにチャントが鳴り響き、少なくとも視界の範囲内のすべての席にはバルサの旗が置かれていた。「もしや」という想いがかすかに湧き上がるが、根拠が少なすぎるので「いや勝てないでしょ」と自制する。

 キックオフが近づくほどチャントのボリュームは大きくなり、旗を振る人が増え、それは幻想的な光景だった。特大のコレオグラフィーも掲げられる。コレオの前の席だったので視界を遮られたが、それでも音で雰囲気を感じた。コレオが下ろされ、さあキックオフとなる時には、雰囲気だけを頼りに「ひょっとしたら逆転もあるかもしれない」というマインドに変わっていた。

 開始3分にバルサは幸先良くルイス・スアレスが先制点を決め、約9万9000人で埋め尽くされたホームスタジアムが盛り上がる。ただ、あと3点。時間とともに試合は落ち着き、40分の追加点でバルサは勢いを取り戻すも、すぐさまハーフタイムに入った。

 落ち着きのないハーフタイムはあっという間に過ぎ去り、50分にバルサはリオネル・メッシがPKを決める。場内には「いけるぞ!」という雰囲気が漂うも、62分にエディンソン・カバーニにアウェーゴールを許してしまう。これでバルサが勝ち抜けるにはあと3点が必要となり、ゲームは「終わった」と思ったし、スタンドの一角のパリ・サポーターが騒いでいるだけで、カンプ・ノウはまるでお通夜のような雰囲気だった。

 印象的だったのは、88分にバルサのネイマールがFKを決めた後のプレーだ。84分に途中出場したアンドレ・ゴメスが中盤に降りてGKへ安パイなバックパスをすると、耳をつんざくようなブーイングがスタジアムに鳴り響いた。視界に入る目の前のサポーターのほとんどが腕をフルスイングしてパリSGのゴールを指す。たしかに、「時間がないし、後ろを向いている場合じゃないだろ!」と思った。

 そこからバルサのベクトルは一直線にパリSGゴールへ向かった。後半アディショナルタイム1分、メッシが中盤に降りてボールを受けてゴール前へ長い浮き球のスルーパスを送り、反応したスアレスが相手DFと交錯してPKを獲得。これをネイマールが決めると会場のボルテージは上がり、それはアディショナルタイム5分に最高潮に達した。ネイマールのアシストでセルジ・ロベルトが逆転弾を奪ったのだ。

 アグリゲートスコア「6−5」。普段は控えめなほうだが、この時ばかりは気づいたら隣の知らない中年男性と抱き合っていた。荷物を置いた自分の席からもそこそこ離れている。
 
 劇的弾の直後に終了のホイッスル。身体は震え、鳥肌が立ってしばらく収まらない。ホテルまでの道中も勝利に酔いしれてどんちゃん騒ぎのバルサ・サポーターがたくさんいたのに対し、レストランで見かけたパリSGファンの男性は、目の前に食事があるのにテーブルに突っ伏してしばらく立ち上がれないでいた。

 サッカーファンの心に響き、後世に語り継がれる伝説の逆転劇。様々なメディアがその要因を分析した。評論は千差万別あっていいと思うから、そのすべてを尊重する。そのうえで、”観客”として個人的な意見を挙げるなら、ポイントとなったのは”雰囲気”だ。

 特に象徴的だった88分からの8分間、バルサをパリSGゴールへのベクトルを強くさせたサポーターの声援は、大きな勝因になったと思う。残念ながらまだ学生で取材をしたわけではないから、裏を取れていないものの、おそらくバルサの選手のプレーに影響したのではないだろうか。奇跡か、必然か、と聞かれれば、歴史的な大逆転劇なのでさすがに前者だろう。ただ、その奇跡を起こすための後押しを、バルサのサポーターは十分にしていたのだ。

文●志水麗鑑(サッカーダイジェスト編集部)

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