かつてのライバルと笑顔を交わし合う飯倉大樹が頑なに守る「俺の中の“筋”」

かつてのライバルと笑顔を交わし合う飯倉大樹が頑なに守る「俺の中の“筋”」

PK戦の直前、談笑する飯倉(左)と朴(右)。Jリーグの舞台ではまだ相まみえていない両者の対決が楽しみだ。(C)SOCCER DIGEST



 リーグ王者の横浜F・マリノスと天皇杯覇者ヴィッセル神戸が激突した2月8日のFUJI XEROX SUPER CUPは、90分を戦って3-3と決着が着かず、勝負はPK戦に突入。前代未聞の9人連続失敗、14人が蹴り合う死闘の末、最後は神戸の山口蛍が確実に決めて、3-2のスコアで神戸に軍配が上がった。

 そのPK戦の直前、両チームの守護神が楽しそうに言葉を交わし合っていた。神戸の飯倉大樹、横浜の朴一圭。ふたりは昨季の途中まで、横浜でチームメイトだった。開幕から4試合は飯倉がスタメンに名を連ねたが、5節・鳥栖戦から朴がレギュラーを奪取。その後、朴はトリコロールの正守護神の座を守り、飯倉は出場機会を求め、神戸に完全移籍する。

 かつては同じチームでライバル関係にあったふたりが、笑顔を見せながら歩く姿を見て、ある光景がフラッシュバックする。控えGKに回っていた飯倉が、一番手に名乗りを挙げた朴と、練習中に仲良く会話しているシーンだ。

 さらにさかのぼり、まだマリノスタウンがあった頃のある練習では、ともにユース出身で、先輩の榎本哲也はレギュラー、後輩の飯倉は二番手という位置付けだったが、やはり飯倉はピリピリした態度を見せることなく、榎本とともに汗を流していた。休憩の際、ピッチに並んで座り、柔らかい表情を浮かべながら榎本に話しかけている。

 たったひとつのポジションを争う両者。一方がベンチに座らされれば、面白くないだろうし、悔しいはずだ。ともすれば、敵対心剥き出しで、口も利かない関係性になるのかと思ったが、飯倉は常に自然体で相手と接しているように見える。邪念を抱かず、切磋琢磨する。

 なぜ、そんなことができるのか――飯倉の答は明確だったし、この男の生き様やポリシーを示すものだった。2019年7月27日に行なわれたマンチェスター・シティとの親善試合、飯倉の横浜でのラストマッチの後、静かに紡がれた言葉がよみがえる。
 
「自分が上手くいかない時に、何ができるかが一番大事。その考えが、そういった行動に表われているのかもしれない。自分自身、人にされて嫌だなと思ったことは、他の誰かにしたくない。当たり前のことなんだけど、でもそれを当たり前にやるのは簡単じゃないし。

 みんな頑張っているなかで、自分も頑張っているのになんでだよって不貞腐れたら、誰もついてきてくれない。別についてきてほしいわけじゃないけど、自分が思う正しいこと、真っすぐなこと、ちゃんとしたことをやっていれば、後ろ指をさされたりはしない。堂々と生きていける。俺はただ、そうしたいだけ。それが俺の中の“筋”というか、生き方だから。

 だからパギ(朴)にもちゃんと接するし。ただ、哲っちゃん(榎本)の時よりも、自分が年上になったからかな。哲っちゃんとの関係性では、いつも笑っていて、でもいつか追い抜いてやる、とか思っていたけど、自分が年長者になって落ち着いたのか、パギに対しては、もっと上手くなってほしいなって。昔みたいに“火がつく”という感じよりも、いろいろと学んでくれればそれでいいし、彼の中で肥やしにしてくれればいいなって」

 後進の活躍を期待し、泰然として見守る。ともに戦った盟友でもある朴の成長は、飯倉にとってさらなる飛躍の活力となるはずだ。

取材・文●広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)

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