【番記者コラム】チームの“最適解”を導き出した扇原貴宏の進化

【番記者コラム】チームの“最適解”を導き出した扇原貴宏の進化

独善的なプレーには走らない。フォア・ザ・チームの精神で、今季も戦う覚悟だ。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)



 自慢のサイドチェンジが、ここのところ影をひそめている。

 扇原貴宏のプレーである。

 セレッソ大阪に所属し、ロンドン五輪世代として脚光を浴びた20代前半から、正確な技術とスケールの大きな展開力を武器にしてきた。相手のプレッシャーをものともせずに前を向き、糸を引くような球筋で40〜50メートル先で待つ味方の足もとにボールを届ける。戦況をガラリと変え、攻撃を加速させていく様子は、日本人ボランチの進化形に見えた。

 それが最近はどうだろう。横浜が15年ぶりにリーグ優勝した昨季、扇原は喜田拓也とともに中盤の底を担い、あくまでも黒子の役割に徹した。守備意識を高く保ち、チームが攻撃している場面でもリスクマネジメントを優先。得意のロングキックよりも丁寧なショートパスで攻撃を組み立てていった。

 以前、聞いたことがある。ロングキックを蹴りたくならないのか?と。ストライカーならゴール、GKならファインセーブ、扇原なら正確無比なロングキックによるサイドチェンジだろう、と。

 すると、こんな答えが返ってきた。

「蹴りたいですよ。ロングキックや展開力は自分の持ち味でもあるので、狙える場面では積極的に狙いたい。でも、それがすべてではない。自分が満足するためだけのプレーでは意味がないし、チームのためにならないプレーならやりません」
 
 自身の欲求を満たすだけのエゴイストにはならない。どんなプレーがチームに利益をもたらすかを冷静に判断し、フォア・ザ・チームを貫くのがプロ10年目で28歳の扇原だ。

 きっかけはひとつではないが、横浜が残留争いに巻き込まれた2018年途中から主将を任されたことは大きな転機となった。歴戦の雄である中澤佑二の負傷離脱を受け、チームは緊急事態に陥った。そこでアンジェ・ポステコグルー監督は扇原にキャプテンマークを託したのである。

「正直、ものすごく重圧を感じていました。F・マリノスというクラブに長く在籍している先輩がいるなかで、副主将でもない自分がいきなりキャプテンマークを巻くことになって……。F・マリノスは一度もJ2に降格したことのないクラブで、その価値も理解していたつもりです。チームとしても個人としても、もがき苦しんだシーズンでした」

 横浜は辛くも最終節に残留を決めた。不本意な結果に終わったのは間違いない。だが、扇原にとってはかけがえのない経験を積む時間となった。
 

 思い返せば優勝した2019シーズンも平坦な道のりではなく、開幕当初はベンチスタートの日々を過ごした。喜田という最良の仲間は同じポジションのライバルでもあり、最後まで安泰を手にすることはなかった。

 そんな刺激的な日々が、自身を成長させた。試合出場のチャンスが巡ってきた際のパフォーマンスは飛び抜けて目立っていたわけではないが、チームの潤滑油としての働きを着実にこなす。いつしか横浜の中盤に欠かせない存在となった。

 仲間には優れたアタッカーが数多くいる。MVP&得点王の仲川輝人を筆頭に、その仲川と得点王の座を分け合ったマルコス・ジュニオール、東京五輪代表の遠藤渓太などなど。加えて言えば両SBが中央寄りにポジションを取り、時にはトップ下のような位置取りにもなる。ならばボランチの選手が過度にリスクを冒す必要はない。

 するとシステム論に興味がないと言い切るポステコグルー監督は、扇原のパフォーマンスと全体のバランスを踏まえ、中盤の形をあっさりと逆三角形から正三角形に変えた。チームの最適解を扇原が作り出したといっても過言ではなかった。

 迎えた今シーズンも、立ち止まるつもりは毛頭ない。
「優勝したことでもっと貪欲になっていて、もっと勝ちたいと思うようになりました。チーム一丸になる大切さを知ったし、成功体験によってチームはもっと強くなれる」

 シーズン初戦の神戸とのFUJI XEROX SUPER CUPで反撃の狼煙となるゴールを決めたように、今季はゴールへの意欲も増している。成長し続けることで価値を高める。

「今シーズンは高い位置に出ていくことを意識しています。そうすればゴールやアシストも自然と増えていく。個人的にも数字を残したいし、最低でもリーグ戦で3点は取りたい」

 プレーだけでなく発言もアグレッシブに。「メンタル面が自分の課題でした」と話したのは昔のこと。今季も引き続き主将を務める背番号6は、さらに進化していく。

取材・文●藤井雅彦

【インタビュー未掲載PHOTO】大公開スペシャルPart7|愛らしい笑顔は必見!横浜FM移籍後初ゴールを決めたばかりの扇原貴宏にインタビュー!(2017年9月撮影)





 

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