【福岡】存続の危機に直面した2013年の経営危機が、理念実現へと邁進させる転機に

【福岡】存続の危機に直面した2013年の経営危機が、理念実現へと邁進させる転機に

J1昇格プレーオフのC大阪との決勝戦、中村北斗が右足を一閃し、同点弾を突き刺す。スタジアムは歓喜の渦に。(C)J.LEAGUE PHOTOS



 アビスパ福岡の25年の歴史を振り返る時、決して忘れてはならない出来事が2013年10月に発覚した経営危機であることに異論をはさむ者はいないだろう。資金繰りが滞り、11月末には運営資金約5000万円が不足することをはじめ、14年1月期の決算で2年連続の赤字と、約2780万円の債務超過が発生することが明らかになり、チームは存続の危機に立たされた。

 しかし、福岡の老舗企業『株式会社ふくや』による支援をはじめ、地元サポーター、さらには全国のJリーグサポーターの多大なる支援により、当面の運営資金不足を回避。翌年8月には株式会社アパマンショップホールディングス(現APAMAN)グループの株式会社システムソフトが1億円規模の出資を行なって債務超過を解消し、2015年にはアパマンショップホールディング社が新たに経営に参画してクラブ再建に乗り出した。この一連の流れで、アビスパは生まれ変わった。

 新たにクラブ経営の責を担った川森敬史代表取締役社長が最初に着手したのは、経営体制の改善だ。それまでの問題点にひとつずつ取り組み、丁寧に、そして迅速に改善を図った。また、行政は地域の誇りとしてアビスパを位置づけ、従来から活動を続けるアビスパ福岡後援会に加え、福岡青年会議所の会員、OB、地元企業経営者らが中心となったAGA(アビスパ・グローバル・アソシエイツ)が新たな支援組織も発足した。そしてもちろん、地元ファン、サポーターたちのクラブを支える意識も以前にも増して高まりを見せた。
 
 そして迎えた2015年シーズン、行政、地元企業、そして福岡の街を愛する人たちに支えられたチームは、確実に成長を遂げていく。開幕3連敗と最悪とも言えるスタートだったが、4節から11戦負けなしとV字回復を果たすと、その後も順調に勝ち星を重ね、31節からは12戦負けなし。最後は8連勝を飾ってJ1昇格プレーオフに進出。その戦いぶりはクラブと行政、地域企業、地域住民が一体となったことを示すものだった。

 その象徴とも言える試合が、ホーム扱いでありながら対戦相手のC大阪のホームスタジアム、ヤンマースタジアム長居で行なわれたJ1昇格プレーオフ決勝戦だ(試合会場は事前に決定)。ゴール裏に結集したサポーターは約9000人。クラブを愛する気持ちがスタジアムをホームに変えた。その想いを背負って戦う選手たち。C大阪に先制点を許すも、J1昇格への想いは揺るがない。

 そして1点ビハインドで迎えた終了間際の87分、右サイドの角度のないところから中村北斗が右足を一閃し、ゴールネットを揺らす。スタジアムは歓喜の渦に包まれた(試合は1-1のドローだが、大会規定により年間順位が上のアビスパがJ1に昇格)。
 

 J1に導くゴールの“起点”となったのは「J1に連れて行くために戻ってきた」と7年振りにアビスパに復帰した中村だ。ゴール裏で熱い声援を続けるサポーターの声に応えるように、自陣の深いところでボールを奪い返して前線へとフィードする。そしてリーグ前半戦の立役者となった中原貴之、攻守にわたって献身的にチームを支えてきた坂田大輔、成長著しい金森健志、亀川諒史とつないで、最後は長い距離を駆け上がってきた中村が仕留めた。

 2015年シーズンをともに戦ってきた行政、地元企業、ファン・サポーターと、チームを中心となって牽引してきた若手とベテランがつないだゴール。それは福岡の街がひとつになったことで生まれたゴールだとも言える。

 残念ながら、J1への定着はならず、1年でJ2に降格し、今もその状態が続いているが、アビスパは確実に成長を続けている。過去の歴史を振り返れば、降格するたびにJ2下位に沈んでいたが、2017年、2018年と最後までJ1昇格レースに絡んだ。

 さらなる成長を求めて、クラブとしての変わらぬ戦い方である「アビスパ・スタイル」を確立するための元年と位置付けた2019シーズンは、様々なアクシデントに見舞われて不本意な成績に終わった。だが、成功の記憶も失敗の記憶も貴重な財産にして、新たな歴史を積み上げていくのが今のアビスパだ。クラブ史上最強とも呼べるメンバーで臨んだ今季の開幕戦では、長谷部茂利新監督が目指す攻守にわたって連動するアグレッシブなサッカーでギラヴァンツ北九州を1-0で下した。
 
 2015年以降、アビスパが経営、チーム強化の原点にしているのがクラブ創設の理念だ。「子どもたちに夢と感動を、地域に誇りと活力を」という言葉も、「攻守にわたって連動するアグレッシブなサッカー」も、そして「感動と勝ちにこだわる」姿勢も、すべてはアビスパがクラブ創設時に掲げたもの。

 Jリーグ参入以来、クラブの構造上の問題や、それに伴う経営難に悩まされ続けてきたアビスパは、2013年に発覚した経営危機をきっかけにして、いま改めて創業以来の理念の実現に向けて一歩ずつ進んでいる。決して簡単な道のりではないが、その先にはクラブが、福岡に住む人たちが、そして福岡の街が望む未来が待っている。

取材・文●中倉一志

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