【W杯アジア予選を突破した日】南ア行き決定の試合後、本田圭佑は言った「持ってるよな、あいつ」

【W杯アジア予選を突破した日】南ア行き決定の試合後、本田圭佑は言った「持ってるよな、あいつ」

南アフリカ、ブラジル、そしてロシアとともにW杯の舞台を経験した岡崎(左)と本田(右)。(C) Getty Images



 過去6度のワールドカップに出場した日本代表は、これまで5度のアジア予選を突破してきた。本稿ではそれぞれの最終予選突破を果たした試合にスポットを当て、そこにまつわる舞台裏エピソードや関係者たちの想いに迫る。(文●佐藤 俊/スポーツライター)

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 岡崎慎司は、この試合から1年後、自分がベンチスタートになるとは思っていなかっただろう。

 本田圭佑は、途中出場だったが、1年後には自分が主役になる道が見えていたように思える。

 2009年6月6日、南アフリカ・ワールドカップ・アジア最終予選、ウズベキスタン戦がアウェーのタシケントで行なわれた。それまで日本は3勝2分け、このウズベキスタン戦に勝てば4大会連続でのワールドカップ出場が決められるという状況だった。

 岡崎は右MFでスタメン出場。1トップには大久保嘉人、トップ下には中村憲剛、左MFには中村俊輔が入り、攻撃的な布陣で試合に臨んでいた。

 9分に挙げた決勝ゴールは、岡崎の良さが凝縮されたゴールだった。

 中村憲の浮き球のパスを相手DFの裏に抜け出して受け、右足でトラップしてから左足でシュート。一度は相手GKにはじかれたが、その跳ね返りに頭から突っ込んで先制点を叩き込んだ。背後に抜ける巧さ、そして最後まで諦めない岡崎らしい泥臭いゴールだった。そして、このゴールが決勝点になり、日本は南アフリカ行を決めたのである。

「ワールドカップ出場を決めるゴールを取れてよかったし、自信になった」
 岡崎は、顔をくしゃくしゃにして喜んだ。

「持ってるよな、あいつ」
 北京五輪から岡崎と共闘し、この試合で途中出場を果たした本田は、決勝ゴールをそう祝した。そして、続けてこう言った。
「これからが勝負やと思う」

 両者の言葉は、当時のそれぞれの立場を鮮明に表わしていたと言えよう。このシーズンの岡崎は、南ア行きを決めたゴールを含め、国際Aマッチ16試合で15得点と爆発し、チームのエース格に成長した。

 一方、本田はキャプテンとしてVVVフェンロで1部昇格を実現させたが、まだブレイクの夜明け前だった。
 

 そして、2010年南アフリカ・ワールドカップ本大会直前、ふたりはレギュラーとなる。本番前の親善試合のイングランド戦、コートジボワール戦では岡崎が1トップ、本田は右MFに入り、4-1-4-1のシステムで行くことが決まった。

 ところが大会初戦のカメルーン戦、岡崎の名前がスタメンになかった。本田が1トップに入り、岡崎は自分のポジションを最後に失ったのである。

 なぜ、岡崎はレギュラーの座を僚友に奪われたのか。岡崎は、冷静に自己分析をしていた。
「チームとしては、自分が裏に抜けていくプレーではなく、引いて来てボールをキープして、他の選手が前に出て行ったり、裏に抜けて行くのを助けることを要求された。受けてもボールの出しどころがよく分からなかったし、自分は今までそういうプレーをやっていなかった。1トップで、それまでやってきたようにいかなくなって、自分の持ち味が出せなくなってしまった。だからなのかなって思うけど、自分のプレーが落ちたとは思っていない」

 ウズベキスタン戦でのゴールは裏に抜けるタイミングとパサーとの呼吸がピタリと合致したゴールだった。病で倒れたオシム監督の後を引き継いだ岡田武史監督は、南アフリカ・ワールドカップ・アジア最終予選で攻撃的なサッカーを展開していた。その軸になっていた岡崎は相手と駆け引きしながら常に裏を狙っていた。それがあの攻撃的なチームの主な点の取り方のひとつであり、だからこそ岡崎は自分の良さを出すことに集中し、点が取れていた。

 だが、ワールドカップでこのままでは強豪国に勝てないと判断した岡田監督は、それまでの戦い方を180度転換させた。そうなれば役割も異なる。強靭な肉体を持つ本田のようにボールを収め、味方の押し上げを助ける仕事は、岡崎がそれまで求められていた仕事とは異なった。そのため、レギュラーポジションを失った。しかし、求められているものが違うだけで能力が劣っているわけではない。岡崎の選手としてのプライドが、このコメントから窺えた。
 

 本田にポジションを奪われたことに対しても冷静だった。
「圭佑に1トップを取られたのは悔しいですし、欲を言えば試合に出たい。いろいろ思うところはあるけど、チームが勝つためには仕方がない。スタメンじゃないけど、圭佑に負けたという気持ちはないです。ポジティブに考えれば、力をためて途中から出て、爆発させてやろうと思っているんで」

 カメルーン戦で決めた決勝ゴールについても「あそこで冷静に決めるのは凄い。ワンチャンスで決めるのはFWの一番理想的なゴール」と、ストライカーとして結果を出した本田を認めていた。

 ふたりがともに結果を出したのは、デンマーク戦だった。

 その試合、本田はシュートを撃たずに岡崎にパスをして、3点目のゴールをアシストした。友情のゴールに見えたが、本田は「あそこでパスを出してしまうことはストライカーとして、どうか。当然ダメでしょう」と試合後、厳しい表情を見せた。のちにモスクワで、本田に「なぜ、あそこで岡崎にパスを出したのか」と聞いたことがあった。本田は「それを話すと長くなるんで、また今度」と言ったが、その答えはまだもらっていない。

 岡崎は、ウズベキスタン戦でヒーローになり、「ワールドカップでは自分が中心になって戦いたい」という決意表明もした。中山雅史以来の泥臭いゴールが似合う男のプレーに、多くのファンが期待した。しかし、指揮官の大胆な決断によってエースの座を失った。一方、本田は南アフリカ・ワールドカップで大活躍し、一気に日本のエースになった。

南アフリカでの戦いが終わった後、岡崎はこう語った。
「圭佑は、何か持っている。ただ、俺もこのままで終わらない。ここからが大事だと思う」

 奇しくも、それはウズベキスタン戦で本田が語ったのと同じ言葉だった。

 そして、これから4年後、ふたりはブラジル・ワールドカップでともに主力として戦うことになる。

文●佐藤 俊(スポーツライター)

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