【ルヴァンカップ決勝|回顧録】起死回生の一発を放った深井一希の交代が取り下げられた理由と、その熱き想い

【ルヴァンカップ決勝|回顧録】起死回生の一発を放った深井一希の交代が取り下げられた理由と、その熱き想い

深井一希(写真中央/8番)の同点ヘッドで試合は延長戦へ。写真:田中研治



 埼玉スタジアム2002に響いた札幌サポーターの割れんばかりの大歓声。記者席の札幌メディア陣の握りしめた拳にも、力が入る――。

 2019年10月26日、ルヴァンカップ決勝の札幌対川崎は、アディショナルタイム4分のラストワンプレーで飛び出した深井一希の同点ヘッドにより、決着は延長戦へ持ち越された。

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 1-2で迎えた後半アディショナルタイム。ボードに示された残り時間4分台に差し掛かり、主審も時計を気にしかけた時、鈴木武蔵のシュートが相手DFに当たり右CKを獲得。これがラストワンプレーとなった。キッカーの福森晃斗が左足でクロスを上げると、ボールはゴールエリア付近へ走り込んだ深井のもとへ。相手のマークを外して走り込んだ深井がヘッドで叩き込み、土壇場で同点に成功したのだ。

 試合は延長戦へと持ち込まれ、110分を過ぎた頃、札幌ベンチに動きがあった。

 4人目の交代として、ベンチの中野嘉大が準備を始める。交代相手としてボードに示されたのは「8」。深井の背番号だ。

 しかし、なかなか試合が中断されず交代の機会を窺っていると、ボードに示されていた「8」は菅大輝の「4」へと変えられた。117分、試合は中断し、菅がピッチを去り、中野が入った。この交代の“変更”が気になり、試合後、ペトロヴィッチ監督に理由を訊いてみた。

「非常に難しい質問をするね」

 指揮官は苦笑いを浮かべながら、こう述べた。

「中野はサイドからスペースにとれる動きができる選手、脅威となる動きができる選手。だから菅に変えて中野を入れた。川崎が真ん中をしっかりと締めていたので、サイドを攻略したい、サイドから崩したいという想いがあり、フレッシュな中野をサイドに入れた。そして……」

「深井がそろそろ厳しいかなという状況を見て、本人に確認をしたら『大丈夫だ』ということだったので、深井を残した」

 たしかに、深井は昨季リーグ出場回数は札幌で1位タイの33試合だが、出場時間は1位の5人中(ク・ソンユン2970分、進藤亮佑2970分、福森晃斗2970分、鈴木武蔵2875分)最も少ない2448分。過去に3度、膝の十字靭帯断裂という大怪我を負ったこともあり、ペトロヴィッチ監督は、深井の起用時間には特段配慮していたように思える。

 深井本人にもこの時のやり取りについて訊いてみると、「たぶん、(僕が)膝をちょっと触った時にもう苦しいっていう風に監督が思ったのか、それで通訳のかたが『大丈夫?』と訊いてきたので。僕はぜんぜん大丈夫だったので、そう伝えました」と答え、また次のようにも話した。
 

「今こうやってユース出身、北海道出身の選手がレギュラーで出るというのは道民の人たちもみんな応援してくれていると思いますし、その分責任をもってやらなければいけないなという風に思います。

 僕に関してはずっと怪我で、プロに入って5年間はほとんど怪我だったので、こういう大事な試合に限らず、一試合一試合、本当に幸せで、サッカーができていることだけでも幸せだなっていう風に毎日感じながらプレーしています」

 90分、そして延長、PK――この試合をフルで戦い抜いた深井の想いの強さが、その言葉から感じ取ることができた。

「最初負けた時は『よくやったな』という想いもあったんですけど、いざ、ああやって自分たちの前でカップを掲げられると、やっぱり悔しいなっていう気持ちですね。サポーターは温かいので、怪我をした時もすごい励まされて……。なんとか恩返ししていきたいと常に思っています」

 ルヴァンカップ決勝から窺えた、感謝の気持ちを常に忘れず戦うこの男の姿を、今後も追い続けたいと思った。

取材・文●佐藤香菜(サッカーダイジェスト編集部)

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