「今なら分かる。サッカーをできる幸せが」【大久保嘉人インタビュー】

「今なら分かる。サッカーをできる幸せが」【大久保嘉人インタビュー】

今季から東京Xの一員になった大久保は、異例な自粛生活の中で何を思ったか。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)



 1993年5月15日、世界の舞台で戦うために発足したJリーグが国立競技場でスタートし、この日は「Jリーグの日」として記念日に登録されている。日韓W杯の日程によって試合が行なわれなかった2002年以外では初めて、リーグ戦が実施されない中で迎える28回目の記念日となる。

 村井満チェアマンは15日、「多くのファン・サポーターの皆さまの期待に応えるべく、選手たち、クラブ関係者、リーグスタッフ、パートナーの皆さまなどと手を携え、ワクワクするようなサッカーをお届けする日を目指して、全力で準備を進めています」と、再開への期待を込めてメッセージを発表した。14日には、新型コロナウイルス感染防止のために発令された緊急事態宣言の一部解除を受け、3月に専門家会議が提言していた感染予防のガイダンスを拡充した。21日の政府専門家会議(予定)、22日にはNPBとJリーグの第8回対策連絡会議、その後の臨時実行委員会で事態が前進する可能性もある。

 無観客試合での再開が決定しても、選手、家族、スタッフ、ボランティアなど全ての関係者の健康と安全の確保、地域による感染者数の大きな違い、都道府県間の移動の規制を自治体とどう調整するか、ブンデスリーガが全選手に行ったPCR検査に代わる検査の実際など、再開にはあと少し時間と段取りが必要だろう。

 出口の見えないトンネルで2か月以上を過ごしてきた選手たちは、「15日」をどう迎えたのか。2001年セレッソ大阪への加入から、マジョルカ、ヴォルクスブルク在籍中を除き、記念日を象徴するストライカーとしてリーグをけん引してきた大久保嘉人(37歳=東京ヴェルディ)は、困難と率直に向き合い、考え、トンネルの向こうに光を見つけている。

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――トレーニングさえできない厳しい状態が、ほぼ2か月続いています。

大久保 本当に難しいね。想像していた以上に本当に難しい。最初の頃は、高いモチベーションを持って、家の周りをランニングし、それから公園でサッカーボール使ってドリブルとか、小学校の頃に1人でやっていたような練習を思い出しながら動いて、また家に帰って筋トレと、ハードにこなしていたんだけれど、あまりにも休止が長い期間になり、1人でできる限界が見えて来たところかな。

──前を向いて乗り越えましょうと言っても、そもそもどの選手も初めて直面する困難で、乗り越えられるのかは、今後にかかっています。限界と感じる点は?

大久保 例えば筋トレ。地味だけどキツイ練習だから、もし隣に誰かいれば、頑張っているからオレもやらなければ、とか、負けられないと気持ちが沸いてくる。でも、静かな中で、たった1人で同じ負荷をあげるのは本当にキツイ。誰も見ていない、そこで止めても何も言われない。じゃあ止めようかと思うと、今度はそういう自分が許せなくなる。逆に追い込んでやる、と考えるけれど、本当に難しい。
 
――メンタルも一定ではなくて揺れがあるんですね。休止期間中に変化したんでしょうか。

大久保 最初はモチベーション高めてずっと走り続けてきたけれど、それだけで最後までは無理だった。そうすると今度は1人でやれる限界が分かってきた。どんなに練習を続けても、本当にこれで大丈夫なのかな、これが試合で何につながるんやろう、と思ってしまう瞬間がある。でもここで止めてしまうと、再開した時に怖いな、試合で動けなくなるんじゃないか、という気持ちもあって、そこでものすごく葛藤した。

――そうした葛藤も前進なんでしょうね。高いモチベーションを維持した時期から葛藤期があって、次はどんな時期に?

大久保 今は、再開した時を強く考えてイメージしながらやろうと思っている。これまでケガをした時なら、リハビリでチームに合流するとか、目指している場所ははっきり見えていた。でも、先が見えないなか、これだけサッカーを離れてみて、初めて気付かされたものがあった。

――01年にセレッソ大阪に入って19年もプロでやってきた37歳でも初めて?

大久保 今までサッカーをやっていた毎日って当たり前じゃなくて、どれだけ幸せだったんだって。もし練習が始まったら、今までとは全然違う気持ちでトレーニングに取り組めるだろうし、試合にも挑めると思う。怪我で離脱した時って自分が早くみんなに追いつかなきゃと思っているし、試合に出られなかった時は『何で?』と不満も持つ。今は、どれとも違う気持ちで、幸せなんだ、と分かる、そういう思いはプラスになったかな。

――暗闇だから、気が付かなった光も見えるかもしれない、とよく言われますね。

大久保 今は再開が明日、と言われてもいいように準備している。さっき言ったようにそれはほんとに難しいし、1人の練習はきつい部分が多いけれど、そうなると、今度は1人で妥協しないためのメンタルを作る大きなチャンス。自分には絶対負けないように、と、最初の頃とは違う気持ちで追い込んでいる。
 

――今年のインターハイ(高校総体)は中止が決定しました。大久保選手、国見高校3年時には、高校3冠を成し遂げて、それがプロ入りにもつながりました。

大久保 もし自分が国見の時にその状況だったら、もの凄いショックを受けていたと思うし、悔しさと不安でいっぱいだったでしょうね。きつい練習をやってきたので、なんのために、どうしたらいいんだろうとただ茫然としたんじゃないかな。でも、前を向いて、次は選手権だ、そう切り替えるしかないだろう、って。

――もし小嶺(忠敏)先生(当時は国見高の総監督)だったら、こんな時、なんとおっしゃったと思いますか。

大久保 そりゃもう絶対……。

――今もそうやって笑ってしまうほど、こう言われるだろう、と確信が?

大久保 もちろん。小嶺先生だったら何か言う前に絶対、普通に練習していたと思いますね。中止なったって、だから何だって、休みなしでバンバン練習していたでしょうね、間違いない。多分、落ち込んでる時間も与えられないくらい。はい、今日もいつも通り練習だ、って。
 
――やっぱり休まないんですね。

大久保 今、やれることをやりなさい、それは練習しかないだろう、と言われるに違いないから。なんか壁であったり、うまくいかなかった時、先生にはよく、自分の長所を磨きなさい、と指導された。それは高校の時も常に考えて自主練をやっていたし、この休止期間中も、ひたすら同じ練習の繰り返しだったけれど、言われたように続けていたんだと思う。

――苦しい時、辛い時に長所を磨け、との言葉はハッとさせられます。

大久保 まずは色々な感情を受け止める。次に、この経験が後々自分のためになったな、と思える日が必ず来ると信じて、それをモチベーションに前を向いて欲しい。
 

――6月で38歳です。プロ20年目になりますが、フィジカルコンディションをどうやって整えてきましたか?

大久保 若い時は全く、何もしなかった。マッサージもしないし、練習だって始まる直前に行って、終わったら速攻、帰る。

――セレッソ大阪に加入したばかり頃のインタビューで、駐車場からまっすぐ練習行く、って答えていましたよ。

大久保 そうそう、そんな感じだった。でも今は、そうはいかないから。

――若い頃は試合を考えて、年齢を重ねると準備を考える。ベテランの多くがそんな風に言います。

大久保 その通り、やっぱり準備が必要になってきますね。セレッソ大阪時代は練習直前にクラブハウスに行って、すぐ帰っていたのが、今では、練習が始まる2時間半前に行って準備している。自分でも信じられない。

――自分で笑わないで。では3時間前には家を出るんですね? 帰りは?

大久保 練習が2時からだと、練習後にケアを入れるから8時過ぎるかな。マッサージは練習前と練習後にやってもらって、身体が早く回復できるようにしている。疲れが出やすいな、というか、ここに来たらブレーキかけなきゃ、と注意しているのはもも裏の張りです。自分の走り方で、もも裏にはすごく負担がかかっている。張ってきたら、ちょっと疲れがあるかな、とケガの予防のバロメーターにしている。

――マッサージにも練習前、試合前など強弱はあるんでしょうか。

大久保 練習の際には、本当に強く押してもらうほうが感覚的にいいんですが、反対に試合の時はほぐさない。筋肉が硬く、むしろ筋肉痛があるくらいのほうが試合前はいいんです。

――ひと言でベストコンディション、と表現しても、色々細かいパーツの積み重ねですね。

大久保 「よくモチベーションは?」と聞かれるけれど、試合前とか特定のゲームじゃなくて、いつでも一定に保てるようにしていますね。練習から試合を考えながらシュートを打ち、これを試合で絶対に決めてやるって考えている。
 
――食事は奥様の全面的なバックアップで?

大久保 食事は奥さんに任せています。ただ食事は多く摂るほうで太りやすいので、意識してバランスよく、体重には気を付けている。ベストは70キロくらいかな。一番よく動ける。寝るのは9時頃、下手したら子どもたちより早く寝ている時もあるけれど、睡眠は本当に大事ですね。

――これから再開が予定されるとすれば、梅雨で湿度が高い季節や、気温が一気に上昇する夏になりますね。

大久保 その点が再開の難しさのひとつ。もちろんウイルスとどう付き合って試合をするか新しい課題だけれど、基本的な部分もいつもとまったく違う。いつもなら夏になる前から、試合を続けているからそれなりに暑さに順応している。それが何か月ぶりか、いきなり試合となって、高温で湿度も高いなかで試合をするのは、ベテランだけじゃなくても体力的にかなりきついでしょう。再開が決まって、練習を始めるとモチベーションとかコンディションも高くなる。でもいきなり上げ過ぎて、逆に疲れてしまうなんて状態にならないようにしないと。そうなるとケガもしやすいし、そこは慎重に、どの選手も、どのクラブも考えていると思う。

――長いキャリアの中でも後半に、今回のような難しい壁と向き合った経験は特別なものになるでしょうか。

大久保 この年齢になると、若い時の1年分が1日くらいに重くなる。ベテランみんな同じように感じているんだと思う。だから休止のこの期間、もったいないな、という気持ちにもなるけれど、これだけ長くトレーニングや試合ができなかった分、ベテランだからこそ、今まで長く使い込んできた身体を休められたのかもしれない。この期間でちゃんと癒してあげて、痛みが全部消える。休みはベテランにとって有利で、きっと身体が完璧な状態になって再開できるんだと自分に言い聞かせ、プラスになったと捉えています。誰も経験していない難しい状況になったけれど、別にサッカーだけの話ではない。色々な仕事で大変な状況、辛い思いをしている人たちがいて、みんな一緒。サッカーがあって、プレーできて、そういう人たちとも一緒に喜ぶ。そういう幸せを味わえる日が今は楽しみになってきた。

取材・文●増島みどり(スポーツライター)

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