11年前のCL決勝で見せたイニエスタの「ビッグプレー」と「隠れた闘争心」【現地発】

11年前のCL決勝で見せたイニエスタの「ビッグプレー」と「隠れた闘争心」【現地発】

11年目のCL決勝で先制ゴールを演出し、ビッグイヤーを引き寄せたイニエスタ。(C) Getty Images



 ヨハン・クライフは生前、「どんなマイナスの事象においてもプラスの要素を見出すことができる」とよく口にしていた。このコロナ禍にある中で同じマインドを持つのは極めて困難であるが、フットボールファンがこの期間を有効利用できるものがあるとしたら、それは過去の名勝負を見ることだろう。

 もちろんノスタルジーに浸って悲しい気持ちにもなるし、幾度も繰り返し見るとマンネリ化にも陥る。ただ自身の意見を見つめ直し、深め、改善し、新たな考えを確立する良い機会になっているのは間違いない。

 先日、『モビスター・プルス』で放映された2008−2009シーズンのチャンピオンズ・リーグ(CL)決勝のバルセロナ対マンチェスター・ユナイテッド戦を見た。バルサが2-0で勝利を収め、クラブ史上初のトリプレーテを達成したわけだが、終始優位に試合を進められたわけではない。ピッチ上で繰り広げられたフットボールの美しさという点では、2年後にウェンブリー・スタジアムで実現した同一カードの決勝(バルサが3-1で勝利)に及ばない。ただ、序盤に苦戦を強いられたが、そこから巻き返しを見せた反発力が、当時上昇気流に乗っていたチームの勢いを物語っていた。

 ただそうした試合展開は全て記憶に残っていた。わざわざテレビで再確認する必要はなかった。何人かの選手たちの貫録溢れるプレーぶりについてもそれは同様だ。
 
 アンドレス・イニエスタもそのひとりで、この大一番でも彼は彼にしかできないプレーで勝利に貢献した。とりわけ試合の流れを一変させた先制点をお膳立てしたアクションは、重要な局面でチームを救う働きを披露するイニエスタの真骨頂を見た気がした。

 序盤、相手の勢いに気圧され、バルサは攻めあぐむ時間が続いた。その時だった。イニエスタがビッグプレーを見せたのだ。ボールを受けると鋭い加速で相手選手2人を置き去りにし、絶妙なタイミングで前線のサミュエル・エトーにスルーパスを配給。カメル―ン人FWはネマニャ・ビディッチを鋭い切り返しでかわすや、つま先でシュートを放ちバルサが先制した。

 改めて認識させられたのが、劣勢に立たされていたチームに活力を与える力であり、エレガントなプレーをいとも簡単にこなす技術の高さであり、そしてCLの決勝という大舞台に動じずに、ワンプレーで試合の流れを変えてしまう気持ちの強さである。
 
 もともと目立つことを嫌う謙虚な性格や地味な風貌も重なり、イニエスタと情熱や競争心を結びつける評価は思いのほか少ない。実際、いつも強調されるのは華麗なテクニックである。しかしそうしたステレオタイプな見方が不当であることはこのマンチェスター・U戦を見ても明らかだった。

 イニエスタは威厳を前面に押し出すような選手ではない。しかしその風貌や振る舞いに、我々もまたポジティブな意味で騙されているのだ。

 さらに留意すべきは、イニエスタは怪我を押してこのファイナルに出場した点だ。欧州ナンバー1クラブを決するこの大舞台でプレーするには、最大限の勇気と限界まで戦う責任感が求められる。そのことを誰よりも知る指揮官、ジョゼップ・グアルディオラはリスクを承知で先発起用に踏み切った。
 
 そしてイニエスタはペース配分に気を配りながら、時には大胆にドリブルを仕掛け、時には冷静にゲームを落ち着かせと局面に応じて常に最適なプレーを選択し、百戦錬磨の猛者をキリキリ舞いさせた。しかもそれをいつものように眉一つ動かさずさらりとやってのけた。

 次第に苛立ちを募らせた相手守備陣は“8番”を格好の標的に定め、あからさまに激しく当たる場面もあった。しかし最後には、イニエスタの迫力を前にして逆に威圧させられる格好となったのだ。

 イニエスタはその繊細なプレーの陰に、猛々しい闘争心を宿らせている。試合を支配したこの一戦で、それを再認識できたのは幸運だった。缶詰め状態の中でフットボールを見るのも有意義な時間になりうるのだ。

文●サンティアゴ・セグロラ(エル・パイス紙)
翻訳●下村正幸

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙の記事を翻訳配信しています。
 

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