「要求などしていないのにボールのほうが寄ってくる。革靴シュートの時もそうだった」。今なお心に響くストイコビッチの名言(後編)

「要求などしていないのにボールのほうが寄ってくる。革靴シュートの時もそうだった」。今なお心に響くストイコビッチの名言(後編)

独自のサッカー論を語ってくれたストイコビッチ(2013年当時の写真)写真:サッカーダイジェスト



 これまでインタビュー取材したなかで、特に記憶に残っているのがストイコビッチのそれ。2013年8月、当時名古屋グランパスの監督だったストイコビッチのウィットに富んだコメントに取材をしながら楽しませてもらったのを今でも強く覚えている(このシーズンを最後にストイコビッチは名古屋の監督を退任)。

 当時の記事を引っ張り出して改めて目を通してみると、所々に“ピクシー節”が散りばめられていることを再認識できた。今なお心に響くストイコビッチの名言──。名古屋のファン・サポーターにとって興味深い内容のインタビューではないだろうか。今回は前編をお届けする。

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──09年の横浜戦では革靴シュート(怪我人が出てピッチの外に蹴り出されたボールを、スーツ姿のストイコビッチ監督がダイレクトボレーでゴールに沈めた伝説の一撃)を決め、先のC大阪戦では矢野選手が決定機を外した直後に仰向けの状態で寝転がるなど、監督はテクニカルエリアでも最高のパフォーマンスを見せてくれています。

「ベンチに座ってゲームを観るのは性に合いません。やはりアクションを起こさないと。それをサポーターの皆さんも望んでいるはずです。不思議なのは、要求などしていないのに、ボールのほうが寄ってくることです(笑)。それも一度や二度じゃありません。革靴シュートの時も、そうでしたよね。向こうからボールが飛んでくるから、なにかサービスしないといけない気持ちになる。私はボールに愛されているのかもしれませんね。アーセナルとの親善試合(7月22日)でも、そういうシーンがありましたし(笑)」

──スーパースターの宿命ですね。

「その通り(笑)」

──アーセナル戦では、ヴェンゲル監督と再会しましたね。

「5日間ほどですが、貴重な時間をシェアできました。個人的な話はもちろん、サッカーについてもいろいろ意見交換ができて良かったです」

──監督という同じ立場で恩師のヴェンゲルと戦えたのは、感慨深かったのでは?

「素直に感激しました。私たちは昔グランパスで良い関係を築いていましたから、敵として戦うのは少し奇妙な感じでしたけど(笑)」

──理想の監督像は、やはりヴェンゲルさんですか?

「いや、違います。サッカーに対する考え方は似ているので彼のスタイル、トレーニング方法は参考になりますけど、理想というわけではありません。私は私で、彼は彼。オリジナルを目指しています」
 
──グランパスの未来について、どう考えていますか? クラブをより発展させるための方法は?

「(少し間を置いて)いつまで監督としてグランパスにいるかは、分からない。これから先もクラブに携われるのなら、すべてを投げ打つ覚悟がある。たとえ私がいなくなっても、重要なのは今までのやり方を変えないことだと思います。もちろん、選手の入れ替えは多少なりとも必要でしょう。誰がダメとかではなく、チームを成長・進化させるうえで、それは避けられない作業なのです」

──つまり、「継続」と「刷新」を上手く融合させていくということでしょうか?

「そうやって突き進むのがベストでしょう。選手は変わっても、グランパスのフィロソフィは変えてはいけない。サッカーで成功を掴むためには、ひとつの考え方をチームでシェアする必要がありますから。私も自分のスタンスをコロコロと変えたり、クラブを渡り歩くような人間ではないと思っています」

──「グランパスのフィロソフィ」とは、具体的になにを指しますか? 戦術面に限れば「攻撃サッカー」と捉えていいのでしょうか?

「美しいサッカーを見せたいですよね。ゴールを奪い合うというサッカーの基本原則を、しっかりとピッチで表現しないといけません。ボールは必ず前に運ぶ。後ろに置く時間は極力減らす。リスクは承知のうえで、責任を持ってボールを前進させる。そういうサッカーを、これからも追求したいと思います」
 

──練習を見ても、内容の濃いメニューが多いです。

「私の考えを把握してもらううえで、トレーニングは重要。アイデアを具現化して説明できる最高の機会ですからね。練習の意図を理解し、グッと集中力を高めて取り組んでほしい。『強いチームになるんだ!』という信念を持ってやってほしいです。もっとも、選手をその気にさせるのは監督の仕事ですけどね」

──戦術をチームに浸透させる作業は、見た目以上に難しいと思います。

「サッカーは、見方によってはシンプルなスポーツです。11対11で、ふたつのゴールがある。シュートの難易度に関係なく1点は1点で、より多くの得点を決めたチームが勝つ。しかしシンプルなように見えて、実はそうではない。むしろ複雑だと思います。野球もそうですよね。ピッチャーとバッターがいて、打たれたボールを野手がキャッチする。一つひとつの動作は単純ですが、これらを複合して試合を成立させるとなると、そう簡単にはいかない。サッカーも、ディテールが求められます。セットプレーひとつとっても、やり方はいろいろ。攻撃や守備の方法も決まった正解があるわけではないし、そこで問われるのが監督のセンスです。なにをどう組み合わせれば強いチームを作れるか。それを見つけるのが、私の仕事なのです。繰り返しになりますが、目指すのは美しいサッカー。このスタンスは変えるべきではありません」
 
──美しいサッカーで思い出されるのが、90年イタリア・ワールドカップのユーゴスラビア代表です。10番を背負ったあなたを中心に、パンチェフ選手(元インテル)、サビチェビッチ選手(元ミラン)などテクニカルなタレントが揃っていました。

「忘れられない想い出です。私のキャリアの中でも、(ベスト8まで勝ち進んだ)あのワールドカップは間違いなくハイライトのひとつと言える大会でした」

──スペイン戦(決勝トーナメント1回戦)の延長戦でFKを直接叩き込んだ決勝ゴールは、テレビで観ていても鳥肌ものでした。

「最初のゴールも美しかったでしょ?(笑)。FKにはFKの良さがありますが、(カタネッチがバックヘッドで流したボールを巧みにトラップし、そのまま冷静に右足で流し込んだ)1点目こそアート。芸術的な先制点だったと思います」

取材・文●白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)

※『週刊サッカーダイジェスト』2013年9月24日号より転載。
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