【広島】兄のゴールにも「なんか、むかつく」。浅野雄也が抱く拓磨へのライバル心

【広島】兄のゴールにも「なんか、むかつく」。浅野雄也が抱く拓磨へのライバル心

鹿島との開幕戦に途中出場した浅野雄也。リーグ再開後も活躍が期待される注目株だ。写真:滝川敏之



 タクマとユウヤは、走り方が違う。
 
 森崎和幸と森崎浩司は特長のある走り方で、言葉どおりの瓜ふたつ。普通に走っている姿を見たら、まったく見分けがつかない。しかし、浅野家の三男・拓磨(現パルチザン)と四男・雄也は、手の使い方が違う。弟・雄也のほうが手を水平に使いがちでフォームが明確。拓磨もやや横方向に腕が広がるが、どちらかというとオーソドックスだ。

 プレースタイルも違う。兄・拓磨はまさにストライカー。50メートル5秒台という超絶なスピードが目立つが、本質的にはゴール前で勝負する。彼のスピードを活かしたいと欧州の指導者はサイドで使おうとしたが、彼にチャンスメーカーは似合わない。クロスやパスよりも、やはりシュート。ゴール前での駆け引きを楽しみ、ペナルティエリアの幅の中で勝負するタイプで、本質的には佐藤寿人(現・千葉)のスタイルを受け継ぐ選手である。

 一方の弟・雄也は、紛れもなくチャンスメーカーだ。サイドにポジションを取ってボールを受け、兄と遜色ないスピードを活かして突破し、大阪体育大時代はプレースキックも任されていた得意の左足でクロスや決定的なパスを出す。

 もちろん、得点を狙いに行く迫力もあるが、それは彼の魅力のひとつに過ぎない。「雄也がボールを持つと必ず突破してくれるし、良いクロスを流してくれる。FWの僕からすれば、サポートする必要もないし、ゴール前でクロスかパスを待てばいい。一緒にプレーするのが楽な選手ですね」と永井龍は語る。

 四日市中央工高で活躍し、高校選手権では得点王にも輝いて、リオ五輪代表からA代表へ上り詰めた兄と違い、弟は遅咲きである。大阪体育大から水戸にプロ入りした時も「拓磨の弟」という注目のされ方はするものの、彼のプレーそのものに光が当たることは少なかった。

 しかし、彼はずっと自分を見失っていない。少年時代から拓磨と切磋琢磨し、「俺のほうが上手い」と言い合いながら、激しい兄弟喧嘩も厭わずに育ってきた。拓磨がプロで活躍しても、「タクには負けたくない」という気持ちが消えることはなかった。

 セルビア・リーグのバルチザンで拓磨がゴールを決めても「なんか、むかつく」。広島時代の兄の活躍についても「特に興味はなかった」と嘘ぶく。兄と弟というよりも、絶対に負けたくないライバルという意識の方が常に勝っていた。

 今季から兄が飛躍した広島で、雄也はプレーする。背番号29はかつて兄が背負い、G大阪とのチャンピオンシップで優勝を決めるゴールを叩き込んだ時の番号である。この番号に決まった時、当初は「最悪や」と雄也は思っていた。

 しかし、すぐに切り替えるポジティブシンキングは、兄以上かもしれない。「タクのユニホームを買ってくれたサポーターが、俺のサポになってくれるかも」。こういうことをスラッと口に出せるメンタルは、プロとして大きな武器となる。

 ルヴァンカップの横浜FC戦では左サイドで強烈な突破から見事なクロスを供給し、レアンドロ・ペレイラの決定的なシュートを導いた。緊急事態宣言前のトレーニングマッチ・鳥取戦でも、1得点1アシストと存在をアピール。

 左ワイドとシャドー、どちらでもプレーできるユーティリティ性は、過密日程と1試合5人交代制の今季の戦いには間違いなくメリット。スピードと左足という明確な武器を持つ浅野には、大きなチャンスが待っているはずだ。

「どこでプレーしても、攻撃で結果を出したいし、守備もハードワークしていきたい。ゴールを決めてヒーローになりたいんですけど、それもチームのために頑張って初めて、ゴールにもつながっていく。広島のエンブレムを見ると鳥肌が立つし、このチームの一員だと自覚してプレーしたい」
 
 2024年、広島には新スタジアムが開業する予定だ。その時には雄也がチーム屈指のチャンスメイカーとして君臨し、欧州で結果を残した拓磨が凱旋復帰して弟のラストパスをゴールする。新スタジアムで浅野兄弟が火花を散らしながら紫のサポーターの熱狂を誘う。そんな姿をずっと、夢見ている。

取材・文●中野和也(紫熊倶楽部)

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