【THIS IS MY CLUB】「野人」から「何でも屋」に――。鳥取・岡野雅行GMが語る“ガイナーレイズム”「レオナルドの言葉に涙が…」

【THIS IS MY CLUB】「野人」から「何でも屋」に――。鳥取・岡野雅行GMが語る“ガイナーレイズム”「レオナルドの言葉に涙が…」

自粛期間中は鳥取に行けず、東京の自宅で過ごしていたという岡野氏。※写真は取材時のスクリーンショット



 Jリーグ加盟10年目の節目の年にJ2昇格を目指しているのが、ガイナーレ鳥取だ。今回、サッカーダイジェストもその一員となっている「DAZN Jリーグ推進委員会」では、「THIS IS MY CLUB – FOR RESTART WITH LOVE - 」と称して、各クラブのフロントスタッフにインタビューを実施。快足ストライカーとして日本代表で活躍し、鳥取で引退後はGMとしてクラブの「顔」となっている岡野雅行氏にご登場いただき、ガイナーレへの想いを語ってもらった。

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――現在、GMとして具体的にどのような仕事をされていますか?

「何でも屋ですね。もちろん選手の契約や現場にも関わりますが、営業に行ったり、接待したり、設営もやったり。地方クラブなので、ビッグクラブのGMとは役割が全然違うと思います。平日は営業に行ってガイナーレを知ってもらうという仕事をずっとやってきたので、鳥取の社長さんはほとんどと言っていいくらい知り合いになりましたね。なので、いまは全国を回ってガイナーレに興味を持っていただくために、講演やイベントに出たりしています。お魚売ったり、お肉売ったり、プロレスに出たり、サッカーに関係のないことばかりやってますね(笑)。最近は、現場はあまり見れていないので、そこは強化部長に任せてます」

――補強に関しても関わっている?

「もちろん、そこにも関わっています。忙しくてインターハイや選手権とかを見に行くことはなかなかできないですけど、監督、コーチ、強化部長とは頻繁にコミュニケーションを取って、ガイナーレにはこういう選手が良いよね、というような話をしています。強化部長や監督を信頼していますし、スカウトに行って『この選手が良かった』と報告があれば、『じゃあ、どうしようか』と相談して決めています」
 
――外国籍選手の獲得なども関わっている?

「17年にガイナーレが最下位になったんですが、ファン・サポーターもスポンサーさんも離れてしまうんじゃないかと、すごい危機感を持ったんです。その時に、2泊4日でブラジルに飛びました。ペレやネイマールを輩出したサントスに、日本に来たがっている選手が4人いるということで見に行ったんです。僕は映像じゃ嫌なので、実際に現地に行って、どういう環境でサッカーをやってるのかを見てみたかったんですよね。驚いたのが本当にスラム街なんですよ。この時代にこんなところがまだあるのかと。

 サントスの練習場に行って、僕の目の前で点を取ったのがヴィートル・ガブリエル(18年に在籍)でした。『あの選手は良いね』となって、練習場の外で待っている時に出てきたのが、いま浦和レッズのレオナルド(18年に在籍)だったんです。『ぜひ日本に行きたい』と言っていて、その時の立ち振る舞いや目つきを見た時に『彼はできるな』と直感で思ったんです。僕も、カズ(三浦知良)さん、ゴン(中山雅史)さん、福田(正博)さん、ラモス(瑠偉)さんとかを見てきたんで、オーラが分かるんですよ。レオナルドは当時20歳だったのかな。コイツはやるんじゃないかって雰囲気があったんですよ」

――すぐに獲得を決めたんですね。

「彼に『J3なんだよ』と話したら、『ボールがあればいい』と言ったんですよ。涙が出そうになっちゃって。日本の選手は恵まれているんで、『こんな環境でやるんですか』とか、すぐ言うやつもいるじゃないですか。彼は『サントスのあるのはスラム街なので、僕が活躍して家族を日本に連れていきたい。頑張るから面倒を見てほしい』と。もうそれで獲得決定ですよ」
 

――実際、レオナルド選手はJ3、J2(新潟)で連続得点王になって岡野さんの古巣の浦和レッズにステップアップして行きました。

「最初は怖かったですよ。シーズンが始まらないと分からないじゃないですか。コケたら終わりだなと思いながら……。まさかあんなに点を取ってくれるとは思わなかったです。すごく心配だったのが、海外でプレーするのが初めてだったという点です。ましてや鳥取の冬は寒いし、その年は大雪が降ったりして。雪を見るのも初めてだったみたいで、雪を食べているんですよ(笑)。そうやって環境にすぐ慣れてくれたのは良かったですね

 実際にブラジルまで足を運ぶGMというのも、あまりいないかもしれませんが、現地に行って、こういう環境でやってるんだと知ったのは、すごく勉強になりました。レオナルドはもう息子のような存在ですよ。僕が育ててもらったレッズでやっているのは、ものすごく嬉しいですし、いきなり点を取った時は、ガッツポーズしましたね(笑)。

 彼だけじゃなくて、ガイナーレに来てくれた選手はみんな息子ですよね。来てくれた限りは責任持って面倒を見なきゃいけない立場だし、すべての選手に頑張ってほしい。彼らがスタジアムで力を発揮できるように、少しでも環境を良くしてあげたいなと思って、営業をしたり、GMの仕事を一生懸命やっているつもりです」
 
――選手時代を含めると、鳥取県に来て11年ほどになります。魅力は?

「高校の時は、隣の島根に3年間いましたけど、寮生活で、お金もないし、練習もあるのでどこかに遊びに行くことはほとんどなかった。鳥取は何もないっちゃないんですけど、本当に自然がすごい。人口は57万人ぐらいで、全国で一番少ないんですね。

 最初の頃は、『野人が来たな』『どうせお前なんかすぐ出ていくんだろ』という感じで、なかなか受け入れてもらえなかった。意見をずばっと言ってしまう方なので。でも、今の仕事をさせてもらって、色々な人とお会いするようになると、こんなに温かい人たちがいるのか、と思いましたね。一度懐に飛び込めば、もううるさいくらい応援してくれるんですよ。いまは、『ずっといてくれてありがとう』みたいに言ってくれる人もいて、それを聞いた時は嬉しかったですし、やってて良かったなと思いましたね」
 

――超人気クラブの浦和レッズでプレーされていたので、ギャップも大きかったのでは?

「浦和以外でもいろいろな経験をしましたからね。ヴィッセル神戸では、当時はまだ胸スポンサーもない時代で、選手が営業に行ってました。その後、香港でもプレーして。レッズのクラブハウスは、食堂もあって、ジャグジーがあって、ビリヤードもできてもうすごいわけですよ。香港に行ったらなんにもない(笑)。雨が降ったら、すぐ練習が中止になるし。でも、楽しかったですよ、学生時代に戻った感じで。僕は高校時代、まずサッカー部を作るところから始まって、その環境からプロになったんです。普通はありえないじゃないですか。だから、ガイナーレに来た時も、環境とかは気にならなかったですね」

――当時はまだJリーグに加入する前でした。

「まだJFLで、アマチュアだったので、練習する場所も毎日違うんですよ。芝生じゃないし、1時間以上かけて普通の公園に行ってやったり。着替えるところもないので、公衆トイレに荷物を置いて。冬はすごく寒くて、雪や雨も降るし大変でした。泥だらけになっても、シャワーはないので、公園の水道で水をビューって出して、みんなでうわーって言いながら浴びて、車の暖房をガンガンにして、そこからまた、時間をかけて鳥取市に帰って、温泉に飛び込むんです。鳥取はけっこう温泉が多いんですよ。

 そんな経験が僕には貴重でしたし、そこからJ2に上がりましたからね。だから、環境のせいにしたくないんですよ。環境が悪いから勝てないんじゃないか、という人もいますが、環境が良くても勝てないチームもたくさんありますよね。お金をかけたって勝てないチームは勝てないし、環境じゃなくて自分たち次第だと思うんですよ。ビッグクラブだろうが小さいクラブだろうが、大事なのは規模ではなく、何を誇りにやるのかなんです。だから、不利な環境でも、アイデアを出し合ってどうやって盛り上げていくかにやりがいを持っています」
 
――加入当初からここまでのクラブの成長をどう感じていますか?

「クラブの成長というか、僕がGMになった時、右も左も分からないときに、選手目線でまず思ったのが、元気がないなと。勝負の世界なんで、勝ち負けに左右されるじゃないですか。勝てば称賛されるけど、負けたらボロカスに言われる。もちろんプロなのでそれが当たり前なんですけど、スポーツクラブというのは明るくないだめだと思うんですよ。例えば、クラブハウスにグッズを買いに来たファンの方に、前日に負けていたとしても、明るく挨拶する、そんなクラブにしたかった。そこで沈んでいるようなチームを、誰が応援するんだよ、と。スポーツなんて結果が出ないことのほうが多いし、批判されることのほうが多い。でも、たまに喜びがあるから頑張れるんです。僕は難しい事は分からないので、メンタルの部分だけは、ずっと言ってきましたね」

――それこそ、レッズ時代は厳しい批判を浴びたことも少なくなかったのでは?

「いまはSNSとかで不満を発散できるかもしれないですが、当時は普及してなかったんで、行動に出るわけですよ。バスを囲まれたり、卵を投げられたり、唾をひっかけられたり。家のガラスを割られたことも2回ありました。ただ、試合に負けて、社長が出て行ってブーイングされてるのを見るのは、すごく嫌だった。選手に給料を払ってくれている方じゃないですか。プレーしているのは選手だし、負けたらクラブみんなの責任なんです。クラブというのはみんなで作っていくべきで、例えばフロントと現場がバラバラじゃ絶対に上手くいかない。

 レッズが優勝した時は、現場とフロントが一致団結していた。みんなが同じ方向に向かっていたんです。ファン・サポーター、スポンサーの方もみんなが目指してるのは優勝だった。バルセロアやレアル・マドリーを倒すクラブになろうと。バカげてると思われようが、何を言われようが、みんながひとつになれば勝てるんです」
 

――鳥取は比較的感染者が少なかったですが、コロナ禍ではどう過ごされてましたか?

「最後に鳥取行ったのが、ちょうどJ3の開幕予定日の2週間前ぐらい、2月の末でした。公開練習試合があって、数日後に出陣式もやる予定だったんですが、コロナの影響で中止になってしまった。それから、東京の自宅に戻って、4か月近く東京にいます。鳥取は感染者が少ないですし、東京からは行けないですよ。イベントや講演もなくなってしまったで、家で自粛していましたね。でも、こうやって家にいる時間も大事だと思いますし、家族とゆっくりできた。ずっと『あつまれどうぶつの森』をやってました(笑)。

 J3開幕が何度か延期になって、選手は難しかったと思います。日ごろ練習しているのは、試合で、スタジアムのピッチの上で活躍するためなので、それが見えないなかで、トレーニングをするのはきつかったと思います。これまでも、震災など大変なことはありましたけど、再開時期が見えていた部分があった。でも、このコロナに関しては日本だけじゃなく世界的な問題だし、開幕が見えない中で過ごすというのは、選手の気持ちになったら大変だろうなと。

 その中でも、うちも含めて選手たちは各自でできる事を考えてやっていたのには、感心しましたね。だから僕は自粛しなきゃいけない、選手が頑張ってるのに余計なことはできないと。今度はホームゲームが7月にあるんですけど、その前にPCR検査を受けてから鳥取に行くことになると思います」

――苦しんでいるスポンサーさんも多いのでは?

「幸い鳥取は感染者が少なかったこともあって、今のところはそんなに耳に入ってはいないですね。ただ、今年に関しては『お互い様だよね』と言ってくださるスポンサーさんも多いですが、コロナが長引けば、来年はどうなるかわかりません。県外で応援していただいてる企業さんで影響を受けているところは、少なからずあります。みなさん、一緒に頑張ろうとおっしゃっていただいてるので、本当ありがたく思ってます。」
 
――クラブとして、ウィズコロナへの取り組みは?

「自粛中に色々考えましたけど、コロナによって、今まで当たり前だと思っていたことが、当たり前じゃなかったんだな、と気付かされました。電車や飛行機に乗ったり、ご飯や飲みに行ったり、人と会ったり。だから、開幕して最初はリモートマッチですが、またファン・サポーターの方々が試合を見に来れるようになったら、もうそれは当たり前ではない。そこに足を運んでいただいたことに、これまで以上に感謝したいですね。

 諸外国に比べて、制限が厳しくないなかで、日本でこれだけ感染者が少ないというのは、日本人のすごさでもあると僕は思っています。なので、本当に終息したら、楽しい事をたくさんやりたいですね。クラブとしてもちろんそうですけど、クラブだけじゃなくて全体で、何ができるかを考えていきたい。ガイナーレを通して、鳥取全体で何かをやるとかね」
 

――今季のチームはどんな特徴ですか?

「非常に若いチームですね。僕はいつも『矢印を前にしろ』と言ってるんです。常にゴールに向かっていく姿勢ですよね。その中に、もちろん守備もあるんですけど、やはりボールを持った時にまず何をしなきゃいけないかと言えば、ゴールを狙うことですよね。だから、まずシュートを打てと。それができない時にパスを出す。行けるなら一人で行けと、行けないなら味方に助けてもらえと。

 僕もまだ練習試合を一回観ただけですが、どんどん前の選手を追い抜いて上がっていくサッカーをしていました。ボールを後ろに下げるんじゃなくて、前に進む。そのほうが観ている人も楽しいわけですから。今年は面白いサッカーができそうだなと。そこに、ベテランのフェルナンジーニョや新加入のジョアンデルソンがアクセントを付けてくれれば、楽しみなチームになると思います。報告を受けてる限りでは、コロナがありましたが、選手たちも前向きなみたいですし、若い選手は難しいことを考えずに思い切りやってほしいですね。

 もうひとつ、みんなでコミュニケーションを取って、どう攻めるか、どう守るかをやっていこうというのはずっとチームカラーにしてきた。木(理己)監督を中心にだいぶ浸透してきているので、その点も大事にしていきたいですね」

――岡野GMの一押し選手は?

「全選手です。もちろんジョアンデルソンはキャラクターも面白いし、ルーキーの大久保(優)君や、キャプテンの可児(壮隆)君も注目ですけど、やっぱり全員が連携しないとサッカーはできないですから。どんなに僕が足が速くたって、いいパスが出てこないと走ってるだけになっちゃいますから。

 現場だけでなく、フロントも含めて、クラブ全員が『絶対俺らは成し遂げるんだ』という同じ気持ちで戦って、点を取られても下を向くんじゃなくてやり返す、そういう姿勢を見てほしいですね。全員が活躍してくれれば、絶対に勝てる。サブの選手が途中から出てきて、結果を残してくれるようなチームだったら、最強ですよ。名前があるからどうこうじゃなくて、全員が同じ気持ちでピッチに立ち、活躍してくれるチームになってくれればと思います」 

――今シーズンの目標は?

「もちろんJ2昇格です。シーズンが再開になった喜び、試合ができる事に感謝をして、とにかく一試合一試合大事に全部決勝戦のつもりで、臨みたい。どんな試合も手を抜かなければ、自ずと結果が出てくると思う。最初はリモートマッチですけど、その後またファン・サポーターの方がいっぱい来てくれると思います。応援してくださる方がいることに、感謝をしてプレーしてほしいですね」
 
――最後に、ファン・サポーターへメッセージをお願いします。

「ファン、サポーターの方たちには、感謝しかないです。選手も僕も皆さんがいるから輝けますし、頑張れる。怒られることもありましたけど、それで育ててもらいました。プロとして勝ち負けはありますけど、一緒に喜び一緒に悔しがってくれる皆さんのおかげで、クラブは成り立っていると思います。試合を見に来たい人も多いと思いますが、もう少し我慢していただいて、またスタジアムで観られるようになった時には、思い切って発散してほしいですね。

 ガイナーレだけではなくて、J1、J2、J3の全クラブの選手たちは『やってやるぞ』と思ってるはずです。だから本当に楽しみにしてほしい。ファン・サポーターの方たちあってのJリーグですので、また制限がなくなった時には、スタジアムに足を運んでいただきたいなと思っています。よろしくお願いします」

取材・文●江國 森(サッカーダイジェストWeb編集部)
協力●DAZN
 

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