【安永聡太郎】バルサはキケ・セティエン体制でCLを獲れるのか?戴冠には「メッシ+10人」の戦術的解決法が必要だ

【安永聡太郎】バルサはキケ・セティエン体制でCLを獲れるのか?戴冠には「メッシ+10人」の戦術的解決法が必要だ

今年1月に就任したキケ・セティエン監督は難しい舵取りを迫られている。(C) Getty Images



 今シーズンもバルセロナは、レアル・マドリーと熾烈な首位争いをしてきました。しかし、チームとして安定した戦いができているのか? そう問われると答えに詰まりますし、非常に厳しい戦いを強いられています。

 シーズン途中からキケ・セティエンが監督に就任しましたが、僕はその人選に対して疑問を持っています。

 なぜなら彼を連れてきた理由は、おそらくチャンピオンズ・リーグ(CL)を獲るためだからです。しかし、キケ・セティエンはCL未経験の監督です。リーガを優勝するだけなら前任者のエルネスト・バルベルデでも良かったわけですが、フロントはそれを良しとはしない判断を下しました。それなのにキケ・セティエンを選んだわけです。

 おそらくバルベルデが解任された大きな原因は、2年連続で、CLで同じような形で去る結果になってしまったことです。スーペル・コパの準決勝もアトレティコ・マドリーに負け、昨シーズンのコパ・デル・レイの決勝もバレンシアに敗れています。それが「トーナメントに弱い=勝負弱いのではないか」「これ以上の上積みは期待できないのではないか」というイメージを、フロントをはじめ、ファンにも植え付けてしまう結果になってしまいました。

「キケ・セティエンに何を求めているのか?」

 ここが僕には不透明に見えます。たとえば、ボールを保持することに原点回帰したかったのなら前監督のバルデルベでも十分できたはずです。しかし、たぶんポゼッションだけならできるだろうけど、クラブとして目標を達成するために「メッシがいて、バルサがこの勝ち方でいいのか?」という議論がつきまとったはずです。
 
 現在のバルサの監督にとって宿命みたいなものですが、最終的には「これでCLを獲れるんですか?」という問いに行き着くので、そこからの逆算で監督選びが進みます。

 ある意味、バルサのような世界的名門クラブにとってリーグタイトル争いはノルマに近い。これを最低ラインに、クラブとして思い描くポジショナルプレーを戦略的にチームに落とし込み、戦術的にポゼッションプレーを表現させられる監督は誰なのか。そう考えたときに、シーズン途中の少ない選択肢の中でキケ・セティエンしかなかったのが本音ではないかと。

 もちろん20年前のバルサなら、キケ・セティエンを監督にしても大部分が納得できたと思います。もっと具体的に言うと、ペップ(グアルディオラ)が監督を務める前だったらOKだったと。しかし、2008〜2012年にペップはこのクラブで最高の試合とともに驚異的な数のタイトルをもたらし、選手にもファンにも最高の料理としてその味を振る舞ってしまっているのです。

 だから、その基準で「ボール保持率だけが高いキケ・セティエンを選んだ」フロントに対して、僕は疑問符を投げかけています。

 彼がラス・パラマスやベティスで表現したポゼッション率を重視したポジショナルプレーは、本当にすばらしいものでした。それがあったからバルサのフロント陣もキケ・セティエンを選んだことは間違いない。しかし、それはピッチ内での話ですし、スペインの中小クラブでの実績です。

 この世界有数の名門クラブでは、すべての言動や行動が注目され、ピッチ外も含めてあらゆる部分でのマネジメント能力が要求されます。そういう総合的な観点でいうと、僕は「キケ・セティエンがメッシを最大限に生かし、チームをCLタイトルへと導くにはまだ現状難しい」と考えています。
 

 では、僕が「キケ・セティエンではCLを獲れない」と考えるはなぜか?

 その理由は大きく二つあります。一つは、まだ彼がチームの方向性としてベストの形を見出せていないこと。もう一つは「メッシ問題」を彼だけでは解決することができないことです。後者の「メッシ問題」については、前回のコラムで紹介しました。

CL優勝を見据えるバルサが直面する「メッシ問題」。戦術をとるのか、エースをとるのか――

 今回のコラムでは、チームの方向性について戦術的に解説したいと思います。

 ベティス時代、キケ・セティエンはチームにポジショナルなプレーを求めていました。ある程度、各ポジションに制限をかけ、役割と責任を明確にすることでボールポゼション率を高めたサッカーを志向していました。

 しかし、バルセロナというクラブは選手に制限をかけることが難しいチームです。それはメッシの存在がある上に、監督以上の経験を積んでいる選手がたくさん在籍しているからです。そういう厳しい環境にいるなか、メッシに制限をかけることが難しいのは飲み込まざるをえない。

 そうなると、「メッシ以外の他の10人でどうポジショナルなプレーを実践するか」という解決をするしかありません。

 この自粛期間中、キケ・セティエンが就任してからのリーグ戦をすべて見直してみました。結論からいうと就任一戦目、ホームのグラナダ戦からずっと手探り状態が続いています。ベターな基本システムとメッシの活用術にはたどり着いたけど、彼の手応えとしては「まだベストが見出せていない」と、僕は感じています。

 初戦、キケ・セティエンは基本システムを「4-3-3」にしました。そこからボールを保持し、サリーダ・デ・バロン(直訳は「ボールの出口」。ビルドアップに似た言葉で、攻撃の始まりを表わすスペイン特有の表現)を行なうときには、ツーセンターバックのジェラール・ピケとサミュエル・ウンティティと右サイドバックのセルジ・ロベルトとで可変の3バックになります。

 そして、セルヒオ・ブスケッツがピボとしてボールの出しどころになりながらイバン・ラキティッチとアルトゥーロ・ビダルがダブル・インテリール(インサイドハーフ)を務め、その前にメッシとアントワーヌ・グリエーズマンが2トップを組むような可変の「3-1-4-2」になりました。

 この試合はジョルディ・アルバとアンス・ファティの両サイドが幅を作り、指揮官の頭の中では「サイドで違いを生めるウイング」のような役割を求めていたのだと思います。だから、上下動ができる選手としてもこの二人に期待して起用しました。
 

 実は、ベティス時代も基本フォーメーションが最終的に「3-1-4-2」に落ち着き、守備時は「5-3-2」の可変システムでうまくいった経緯があります。たぶん、それに近いイメージをしていたはずです。この戦術だと、バルサのサイドに求められる大きな仕事は「一人でも相手をはがせる」「一人でもボールを前進させられる」ことです。

 つまり、ボールを持てるウイングとしての機能もサイドの選手には大きな役割になってきます。

 ただ、左のジョルディは後ろからタイミングよく最終ラインの背後に走り込む選手。前にスペースがあり、さらに周囲に生かされてこそ力を発揮する選手です。左ウイングとして起用した場合、彼の個性はなかなか生きませんでした。一方で、逆サイドにいた右ウイングのファティはある程度機能していました。でも、本来は左サイドの選手なので、最大限に個性が生きるのは左のウイングです。

 そこで4試合目のレバンテ戦では、彼ら二人を左サイドに縦関係で並べました。ちなみに右サイドバックにはネウソン・セメドが入り、攻撃時にはツーセンターバックの間にピボのブスケッツが下がる形の「3-4-2-1」のシステムでした。
 
 きっとキケ・セティエンの中ではうまくいくイメージを持っていたはずです。しかし、結果的にジョルディとアンスのコンビネーションは散々でした。左ウイングのファティが左サイドの前線で張った状態が多いため、後方のジョルディが走り込むスペースが生まれにくい状況になってしまいました。ジョルディはバランスを取って後ろでボールをさばく、手持ち無沙汰の状態が続きました。

 ファティがもっとタイミングよく立ち位置をフリーレーン、中央レーンへと移動すれば、ジョルディが後ろから狙うスペースが空くのですが、この急造コンビですからキケ・セティエンが思うほどの補完性は生まれませんでした。二人とも「ここぞ!」という場面でボールがほしいエリアがかぶったりして相性が良くありませんでしたが、試合自体はメッシの2アシストからファティが2ゴールを奪って勝利しました。

 ポジショナルプレーの戦い方としては「幅と深さを使う」ことは生命線ですから、キケ・セティエンの監督就任後の序盤戦は基本システムも、選手の組み合わせとシステムへのはめ込みも仕方ないことですが、「うまくいっていないな」という印象の試合が多かったですね。
 

 さらに僕が気になったのは、バルサの深さの使い方です。

 ボールが横には動くし、多少縦にも入っているのですが、相手からすると縦に引っ張り出されていないから横のスライドだけで守備が対応できてしまっています。逆にバルサの立場からすると、縦にボールが出入りしないから空間として大きな隙間が生まれていない状況です。

 前回のレアル・ソシエダを取り上げたコラムでも語りましたが、彼らの良さは「ゴールキーパーを含め、自分たちがポジショナルな立ち位置を取れていないときは相手の状況に関係なく、ゲームを作り直していることが多い」ことです。GKやツーセンターバックまで戻すことで全員が立ち位置をセットアップし直しています。


 
 それはなぜか?

 それはボールを失った直後に発生する攻守の切り替えが相手からのカウンターを食らうリスクが最もあるため、その点に対するリスクヘッジする意識も同時に高いからであり、ポジショナルな立ち位置を取ることによって「再現性」の高い攻撃を仕掛けたい意図があるからです。

 そう考えてバルサとソシエダを比較すると、どうしても「認知力+運動量」という点で「メッシ問題」が無視できなくなります。

 相手を自陣に張り付かせ、後方にボールを下げてもう一度やり直す方法が効果的かどうかはわかりませんが、少なくとも深さを持ってポゼッションをするには自分たちにも走行距離が必要になります。ソシエダのピボーテ(アンカー)とインテリオールの中盤3枚はどの試合も前半だけで6キロを超えるような運動量を出しているし、必然的に相手も走らせています。

 バルサのゲームを見ていると、相手チームはイメージより走らされていません。

 縦の動きと言っても、相手にとっては押し込まれることが前提で最前線の選手がハーフウェーラインを超えずに手前の位置で動いておけばいいんですよね。自陣のゴールエリアから計算すると40メートルくらいの深さでコンパクトに保つことができるし、さらに幅68メートルを横スライドするだけなので運動量としてはそう多く求められることはありません。イコール、体力も想像以上には消耗しないから相手からすると「動かされている量が少ない」ので我慢できる展開になっています。

 ジョルディ・アルバの前への飛び出しもそうですが、攻撃時は少なからず相手を引っ張り出して背後にスペースを作り出さないとゴールに結びつけることは厳しいし、今のままならサイドには相手に脅威を与えられるウイングが必要になります。
 

 現在のバルサでは、メッシ以外の選手がどう動くかが大事になります。逆にそれ以外の選手からするとメッシを考慮してポジショナルな立ち位置を取らなければならず、「認知力+運動量」が求められるから、基本システムとメッシとの相性のいい選手の組み合わせがより重要になってきます。

 現状、試合を積み重ねて少しずつ変化してきましたが、キケ・セティエンの中で攻撃時についての基本システムは「2-1-4-1-2」がベターだという判断を下しているように思います。

 ツーセンターバックの前にブスケッツ、両サイドが幅をとってその間にインテルオール(インサイドハーフ)2枚がいて、ひし形のトップ下にメッシ、そして彼がツートップを操るような形です。メッシはサリーダ・デ・バロンにもチャンスメークにもフィニッシュにもすべてに絡むフリーマンです。守備時は両サイドが下って4バックになり、ツートップも下がってきてメッシが力一杯守備に関わらない形で守る。
 
 攻撃時についてはメッシが変則的にサリーダ・デ・バロンにも加わるし、敵陣内に入ったら相手に掴まれていない状態でチームの選択肢に後ろからも加わる。ボールに絡みながら自らがバイタルエリアにドリブルやワンツーで侵入してフィニッシャーにもラストパサーにもなる。

 これがメッシを生かせるフル活用術!

 キケ・セティエンの中では「これが一番グッド」と捉えているように気がします。しかし、僕はこの戦い方がバルサと同等以下のチームに対してしか通用しないと考えています。それは「メッシ問題」と大きく関わっており、これを解決することとセットで考えるべきテーマだからです。この問題については、もはや監督だけで解決できることではありません。

 そういう意味でも、キケ・セティエンが残りのシーズンでどんなシステム、組み合わせを作るのかが楽しみです。

分析●安永聡太郎
取材・文●木之下潤
※取材日は5月24日

【分析者プロフィール】
安永聡太郎(やすながそうたろう)
1976年生まれ。山口県出身。清水商業高校(現静岡市立清水桜が丘高校)で全国高校サッカー選手権大会など6度の日本一を経験し、FIFAワールドユース(現U-20W杯)にも出場。高校卒業後、横浜マリノス(現横浜F・マリノス)に加入し、1年目から主力として活躍して優勝に貢献。スペインのレリダ、清水エスパルス、横浜F・マリノス、スペインのラシン・デ・フェロール、横浜F・マリノス、柏レイソルでプレーする。2016年シーズン途中からJ3のSC相模原の監督に就任。現在はサッカー解説者として様々なメディアで活躍中。
 

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