東南アジア各国が目標とする2026年W杯出場。ノウハウを提供するJリーグの狙いとは?【アジア戦略のいま #2】

東南アジア各国が目標とする2026年W杯出場。ノウハウを提供するJリーグの狙いとは?【アジア戦略のいま #2】

現在Jリーグで存在感を放つタイ代表の3人衆。左からティーラトン(横浜)、チャナティップ(札幌)、ティーラシン(清水)。写真:サッカーダイジェスト写真部



 Jリーグが2012年に本格的にスタートさせた「アジア戦略」。8年の月日を経て、そのプロジェクトは今どのような展開を見せているのか。株式会社Jリーグ グローバルカンパニー部門の小山恵氏に話を伺った。

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 Jリーグが「アジア戦略」の主たるマーケットと捉えるASEAN諸国は今後も人口が増加し、2020年代半ばにはASEAN10か国の域内GDP(国内総生産)が日本を上回るという試算も出ている。しかもASEAN諸国は非常にサッカー熱が高い地域であり、今後の成長戦略を考えるうえで「東南アジアの市場を取り込むことは絶対にやっていくべき」と小山氏も想いを明かす。

 しかし、東南アジア諸国のサッカーは、その熱の高まりに対して、いまだ結果で応えられていないのが現状だ。2020年6月時点でのFIFAランキングでは、ベトナムが94位と二ケタ台に位置するが、ほとんどの国が100位以下。自国が出ていないにもかかわらず、街中が大騒ぎになるというワールドカップにもASEAN諸国の出場は叶っていない(※女子ワールドカップではタイが出場)。

 一方で日本はJリーグ開幕以前こそ、タイやマレーシアに勝てない時代があったものの、93年にプロリーグを創設して環境を整備。育成年代の強化にも取り組むと、これらが着実に代表チームの強化につながり、6大会連続のワールドカップ出場という結果をもたらした。クラブシーンでもここ3年はACL決勝に進むなど、日本はいまやアジア有数の強豪国という立ち位置にある。

「昔弱かった日本がこれだけ強くなっている。そのノウハウを教えてほしいというニーズは、東南アジアのどの国も持っているんです。Jリーグとしてはそのノウハウをどんどんシェアしていきたい」

 小山氏がこう語る根底にあるのは、アジアのサッカーマーケットそのものが大きくならなければ、Jリーグ自体の価値やマーケットも大きくはならないという考えだ。「アジアの小さなマーケットで大きくなっても意味がないので、全体を大きくした中でトップに立ちたい。そこで“アジアとともに成長”というキーワードが浮かび上がります」と語るように、将来的な展望を描くうえでも、アジア圏の中でいかにウイン・ウインの関係を築けるかがカギになると見ている。
 

 ASEAN諸国サッカー界との関係を構築するうえでキーマンとなるのが、同諸国のサッカー協会やリーグの会長などを務める人物たち。多くの場合、幹部職は財閥オーナーや政治家、王族といった有力者が務めるが、「彼らは常々Jリーグから学びたいと言ってくれていますし、こうした方々と直接つながっているのは大きい」と、協業を進めていくうえでの大きな原動力として期待されている。

 こうしてJリーグとASEAN諸国のリーグ間では、リーグの運営やマーケティング、選手育成などのノウハウの共有が定期的に行なわれるようになっている。とはいえ、双方向でさらなるリーグの活性化につなげるには、JリーグにおけるASEAN諸国プレーヤーの活躍が不可欠だろう。

 ただし、Jリーグではブラジルをはじめとした南米の選手や、同じアジアでも適応力の高い韓国人選手へのプライオリティが高い。外国籍選手枠のなかでASEANの選手たちがプレーするのは難しいのが現状だ。そうした中で、Jリーグが2016年に創設したのが提携国選手枠という制度。これはJリーグがパートナーシップを締結し、交流を図る各国サッカー協会・リーグのうち、ASEANの7か国(タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、インドネシア、シンガポール、マレーシア)の選手が日本人選手と同じ扱いとされ、公式戦に起用できるというものだ。これによって、各クラブが東南アジア選手の獲得、起用に踏み切りやすくなったのは事実だろう。

 アジア戦略がスタートした当初から今日までに、ASEAN諸国の選手をJリーグでプレーさせるまでの道のりは決して簡単ではなかった。小山氏が述懐する。
「なんとかASEANの選手にプレーしてもらいたいと思って、クラブや日本のエージェントにも働きかけたのですが、当初は戦力にならないと思われていた。ブラジル人や韓国人選手が多いなかで、3+1の外国籍枠でタイ人やベトナム人を獲るのは、なかなかハードルが高いんですよね。そういう経験を重ねながら、提携国枠という制度が設計されたり、環境が少しずつ変わってきました」

 2012年以降、ASEAN諸国からベトナム人やタイ人、インドネシア人の選手がJリーグ入りした例はあったものの、長期的なスパンでの成功事例はなかなか生まれなかった。潮目が変わったのは2017年に札幌に加入したチャナティップの活躍からだ。1年目からレギュラーの座を奪うと、翌2018年にはJリーグベストイレブンを受賞した。

 チャナティップ札幌加入の舞台裏を小山氏が明かす。
「2016年のタイ代表と日本代表のワールドカップ予選の試合をバンコクで開催されたのですが、その時に視察ツアーを組んで、Jリーグの5クラブほどの強化責任者と一緒に現地視察に訪れたんです。その時に札幌の三上(大勝)GMにも来ていただいて。元々獲得候補には挙がっていたのですが、改めて代表戦をしっかり現地視察されて獲得に繋がったので、こうした機会を創出する意義を実感しましたね」
 

 チャナティップの活躍だけでなく、その後はタイ代表の主軸であるティーラシンやティーラトンがJリーグの舞台で躍動。タイのトップ選手がJリーグでも堂々と活躍できることを証明してみせている。今季はJ1で4人となったタイ人選手だが、近年はクラブ側が直接選手を視察したり、スカウトする動きも。当然、代理人も東南アジアをマーケットとして視野に入れて動く状況となっている。

 同時にJリーグ側も視察ツアーのアレンジを継続して、ASEAN諸国での人材発掘を引き続き支援する。昨年、ベトナム代表とマレーシア代表の視察を行なった際には、15クラブほどの強化スタッフがスタンドから目を光らせた。

「2026年のワールドカップは開催国枠が48に拡大されますが、ASEAN諸国はここをひとつのターゲットとして出場を目指しています。例えば、ベトナムが初出場すれば大変な騒ぎになると思うのですが、その時に代表チームの主力の多くがJリーグでプレーしていれば、またJリーグの人気やファンの数は格段に伸びていくでしょう。そんな状況を作っていければと思っています」

 アジアでのJリーグ人気の向上やファンの増大が実現すれば、ビジネス面での飛躍も大いに期待できるだろう。次回は、すでに生まれている事象も含め、「アジア戦略」による具体的なメリットについて見ていきたい。

第3回に続く。次回は7月8日(水)に公開。

取材・文●長沼敏行(サッカーダイジェストWeb)

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