昨冬選手権4強、矢板中央の地道なスカウト活動の舞台裏。セレクションでのGPS機器導入に込めた想いとは?

昨冬選手権4強、矢板中央の地道なスカウト活動の舞台裏。セレクションでのGPS機器導入に込めた想いとは?

強豪校・矢板中央のセレクションの様子。80名ほどの精鋭が参加した。写真:松尾祐希



 全ては子供たちのために――。新型コロナウイルスの感染拡大で大会中止が相次ぎ、中学3年生は公式戦を戦わずに部活を引退する選手も少なくない。

 苦況に立たされた選手たちの可能性を広げるべく、高校サッカーの強豪校が新たな試みを取り入れてセレクションを行なっている。

 昨冬の高校サッカー選手権でベスト4に入った矢板中央。直近3年の同大会ではいずれもベスト8以上に勝ち進み、年々志望する選手が増えている。栃木県内や関東近郊に加え、全国各地から練習会に参加する者も珍しくない。しかし、今年度は前述の通り、どのチームも活動が滞った。高校の指導者も試合がない以上は選手の発掘をできず、今までとは異なるスタンスで見極めを行なわなければならない。矢板中央も例に漏れず、難しい中でのスカウトを余儀なくされた。

 とはいえ、現状を嘆いているわけにいかない。矢板中央は例年通り中学3年生を対象に練習会を行なう一方で、選手の発掘に工夫を凝らした。橋健二監督からスカウトを任されている金子文三コーチは言う。

「最初は昨年から回数をひとつ増やして、セレクションを5回行なう予定でした。ただ、われわれも大会がどうなるか分からないですし、無理に日程を組んでしまうと、開催できなかった時に迷惑をかけてしまいます。なので、回数を増やしませんでした。ただ、セレクションを開いても選手の把握が事前にできません。今年は公式戦がなくても見に行ける範囲でチームの練習を視察するようにし、個人的には選手を1回見ただけで実力をジャッジできないので、同じ選手を複数回見るようにしていました。1回見て良かったから誘いたい、1回見た時に悪かったから誘えない。そういうのはしたくないので、今年は練習に数多く足を運んだのです」

 足を使って選手を見極める。金子コーチは地道な活動で子どもたちの取り組みを具に見守ってきた。ただ、それだけでは把握しきれない。そこで金子コーチは各チームからオンラインでの説明会を依頼されれば快諾し、できる範囲で中学3年生たちに矢板中央の魅力を伝えたという。時には複数のクラブが参加し、200人ぐらいの規模になる時もあったが、丁寧に子どもたちへ言葉を紡いだ。
 

 そうした取り組みが実を結び、7月23日に開催された1回目のセレクションには、約80名の選手が参加。予防対策を取った上で、ゲーム形式のトレーニングから子どもたちの動きをチェックした一方で、金子コーチは練習会でも子どもたちに刺激を与える新たな取り組みを講じた。走行距離やスプリント回数などが計測できるGPS機器をGK以外の選手全員に身に付けさせ、新たな世界を体感させたのだ。

 矢板中央では日頃の練習で、ジェイ・エス社が販売するGPS機器・“SPT”を使用。その関係から、金子コーチは同社に協力を要請して実現した。今でこそ高体連の強豪校やJユースが使うようになっているが、中学年代でこの機器を使用する機会はほぼない。もちろん、セレクションで用いるのも前例がなかった。そうした中でも取り入れたのは、選手たちのデータを細かく取りたかったからではない。金子コーチは取り組みの狙いをこう話す。

「セレクションで使ったのは、データを活用した強化策の普及です。もちろん費用がかかるので簡単ではないのですが、新たな施策の環境作りができればいいですし、中学年代からデータの活用がスタンダートになって欲しいと思ったんです。僕たちの知識も浅く、機器が良くてもデータを効果的に落とし込めているかも分かりません。ただ、GPSの機器が導入されて選手一人ひとりの課題解決や成長に繋がるのであればいいですよね。セレクションでも機器を装着したことがない子どもたちがほとんどなので、着けてプレーすることを知るだけで意味があります。プロの選手はこれを使って練習をしています。トッププレーヤーになった時にデータを使うと理解し、知る機会も大事だと思ったんです」 

 新たな世界を知れば、結果に関係なく選手たちの刺激になる。今回のセレクションで取ったデータを直接合否に結び付けなかったのも、そのためだった。

 コロナ禍で行なわれた今回のセレクション。事前の準備と練習会当日の新たな試みは子どもたちにとって有益だったに違いない。新たな挑戦を続ける矢板中央はピンチをチャンスに変え、これからも未来ある子どもたちに寄り添っていく。

取材・文●松尾祐希(フリーライター)
 

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