“戦力外通告”からの逆転人生! 英敏腕記者が説くリバプール主将ヘンダーソンの人物像とは?【現地発】

“戦力外通告”からの逆転人生! 英敏腕記者が説くリバプール主将ヘンダーソンの人物像とは?【現地発】

プレミアリーグのトロフィーを掲げるヘンダーソン。優勝セレモニーの中心にいたのは、他ならぬ彼だった。 (C) Getty Images



 まさにファインプレーと言える振る舞いが見られたのは、現地時間7月22日に本拠地アンフィールドで行なわれた優勝セレモニーにおいて、リバプールのレギュラークラスの選手たちが、次々にプレミアリーグのトロフィーを掲げていた時だった。

 特設されたステージ上で、1月の冬の移籍市場で加入するも、自身の納得する活躍ができなかったために歓喜の輪に入れずにいた南野拓実を、主将のジョーダン・ヘンダーソンは見逃さなかった。彼は日本代表の腕を引っ張り、舞台の中央へと行かせ、歴史的なトロフィーを掲げるようにと促したのだ。

 シーズン中、抜群のキャプテンシーでチームをけん引してきたヘンド(ヘンダーソンの愛称)は、自身にとっても最高の瞬間を楽しんでいる最中も周囲に気を配り、普段と変わらぬリーダーシップを発揮したのである。

 元来、ヘンダーソンは、試合の前後に長いスピーチをするタイプではなく、激情型でもない。だが、チームスピリットを植え付け、ロッカールームを一致団結させるうえで必要不可欠な存在だ。このイングランド代表MFがいたからこそ、リバプールは30年ぶりのトップリーグ制覇を叶えたといっても過言ではない。
 
 ピッチ外での貢献度は計り知れない。新加入選手やトップチームに昇格したばかりの若手がメルウッド(リバプールの練習場)での“生活”に馴染みやすいように、積極的に助言や手助けをし、クロップ監督のモットーといえる「軋轢や派閥のない」チーム作りを率先して実践。“新入り”をチームに溶け込めるように働きかけ続けた。

 無論、ヘンドが日々の練習時から全力でプレーして仲間を鼓舞する模範的なプロフェッショナルなのは、誰も知るところだ。その背中を見ているチームメイトも、誰も手を抜けないのだ。「ジョーダンは最高のロールモデルだ」とは、トレント・アレクサンダー=アーノルドの言葉だ。

「もちろん、みんなとジョークを交わしたりするし、すべてを真剣に考えすぎるわけではない。でも、いざピッチに立ち、その時点で、本気で練習や試合に取り組んでいない選手をヘンドは滅法嫌って、叱るんだ。これが怖いんだよ(苦笑)。

 サッカーを心の底から愛しているし、クラブとファンのことを常に念頭に置いていて、正しいサッカーで、最高の結果を導き出せるように最善を尽くしたいといつも考えている。この偉大なクラブの主将という役割の重責、そしてその意味を理解しているんだよ。主役になりたいなんて思っていないだろうし、黒子としてしっかりと仕事をする。そしてチームを正しい方向に導くことだけしか頭にないと思う」

 ヘンドがリバプールのキャプテンに就任したのは、2015年の夏。14-15シーズン限りでクラブを離れたスティーブン・ジェラードの後釜として、ブレンダン・ロジャース前監督に抜擢されてのことだった。

 一時は18年の冬に加入したオランダ代表CBで、リーダーシップもあるフィルジル・ファン・ダイクにキャプテンマークが渡るのではないかとの噂もあったが、リーダーとしての資質を確信していたクロップ監督が、無意味なキャプテン交代を図ることはなく、確実に進化を続けるチームの核に据え続けた。

 クロップ監督は以前、ジェラードの後を引き継ぐことは「サッカーの世界で最も難しい仕事」と形容したことがある。名門リバプールの言わずと知れたレジェンドで、キャプテンとしての重責を担いながら異次元のプレーを見せ続けたジェラードのような選手は、唯一無二だからだろう。

 そんなドイツ人指揮官が、現キャプテンを高く評価する最大の理由は、彼の利他的なプレーや態度にある。ヘンドの頭にあるのは、あくまでチームであり、自分のことは二の次なのだ。まさしくキャプテンとは何たるかを体現している。
 

 もちろんピッチ上でのパフォーマンスも伴ってのことだ。今シーズンはプレミアリーグで30試合に出場して4ゴール・5アシスト。数字だけを見れば、突出したものではない。だが、厳しい局面で真価を発揮するイングランド代表MFが欠場した試合では、支配力を失った場面が多く、クロップ・リバプールの大黒柱としてリーグ優勝に貢献したのは確かだった。

 ただ、リバプールにやってきてからの約10年。ヘンダーソンのキャリアは全てが順調だったわけではない。2011年の夏にサンダーランドから移籍した当初は、獲得に費やされた2000万ポンド(約28億円)が「ムダ金だ」と揶揄する人間も少なくなかった。

 だからこそ、彼は自身へ懐疑的な視線を寄せる人間を、常に見返してこなければならなかった。例えば、ロジャース前政権下でヘンダーソンはフルアムから獲得の打診があった際に、指揮官から退団を容認された。事実上の戦力外通告を受けたのである。

 しかし、ヘンダーソンは自身でフルアムからのオファーを固辞して残留を決意。戦力外に近い状態に置かれながらも、着実にアピールを続けて、周囲の雑音を黙らせる活躍を見せつけると、ついには前述のように2015年にはロジャースからキャプテンの重責を任せられるまでに至ったのである。

 直向きな姿勢は、クロップ政権下においても変わらなかった。同指揮官が就任した当初は、かかとの怪我など相次ぐ故障によって出遅れたものの、実力を証明して、絶対的な地位を確立していった。

 そのキャリアは幾度となく大きな壁に阻まれてきた。しかし、ヘンドはその都度、強い気持ちで乗り越え、そして、チャンピオンズ・リーグ王者となり、ついには悲願のプレミアリーグ制覇も成し遂げたのである。

 現在、欧州のトップクラブ、いや世界一のクラブで主将の重責を担っているヘンドは、現地時間7月25日には英国人記者が選ぶ今年の年間最優秀選手にも輝き、正真正銘のレジェンドの仲間入りを果たした。
 
 おそらく彼は、ここまでの地位を築いてもなお、謙虚であり続けるだろう。キャプテンとして、仲間に集まる注目や批判を散らす言動をし、「すべての成功は、クロップ監督、チーム内のスタッフ、そしてチームメイトのおかげ」と語るはずだ。

 ジョーダン・ヘンダーソン――。彼は今のリバプールにおいて絶対に欠かせない“接着剤”であり、長きにわたってリーグタイトルから遠のいていた名門を、イングランド・サッカー界の頂点へ押し戻した文字通りの要である。

文●ジェームズ・ピアース(The Athletic記者)
翻訳●松澤浩三

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