「これでサッカー人生決まるから」Jリーガーの兄を慕う阪南大FW山口拓真がスカウトの前で誇示した異質な存在感!

「これでサッカー人生決まるから」Jリーガーの兄を慕う阪南大FW山口拓真がスカウトの前で誇示した異質な存在感!

コネクティング・サポート・セレクションin関西に参加した山口。積極的な姿勢でゴールを狙った。写真:安藤隆人



 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、今季はインターハイが中止となったり、各地区の大学リーグが延期となるなど、学生たちの活躍の場が極度に制限される異例のシーズンとなっている。とりわけ、プロ入りを狙う学生たちにとっては大きなダメージとなっているが、この現状を受けて各地ではJリーグや大学チームのスカウトを集めて合同トライアウトが開催されている。

 8月11日には、Jグリーンのメインスタジアムでコネクティング・サポート・セレクションin関西(株式会社リトルコンシェル主催)の大学生の部が、16時と18時の2回に分けて行なわれた。

 18時の部で、ひと際気合いを漲らせ、相手をなぎ倒すようなドリブルとどこからでもシュートを狙っていく果敢なプレースタイルで、異質な存在感を見せたのが阪南大のFW山口拓真だ。

 1本目は2トップの一角で出場をすると、フィジカルコンタクトを苦にしない力強いドリブルで縦への推進力を見せる。2本目も1トップに入ると、左サイドをドリブルで3人のマークを抜き去ってマイナスのクロス。さらにカウンターの際にハーフウェーライン付近でボールを受けると、鋭いターンから迷わず右足を一閃。これはブロックに入ったDFに当たったことで威力が弱まり、GKに抑えられてしまったが、ダイナミックなプレーは間違いなくスタンドに集まった28クラブのJクラブスカウトの目を引いたことだろう。

 4本目は4-1-4-1の左に入ると、鋭い出足のインターセプトからミドルシュートを放つなど、この日はゴールこそなかったが、前線とサイドで持ち前の攻撃センスを披露した。その山口に話を聞くと、プレー同様に勢いよく自らの思いを口にした。

「このトライアウトに至るまで、全体練習もなかなかできずにぶっつけ本番の状態だったので、コンディション的には難しかった。でもスカウトの人からすれば、誰が練習できている、できていないなんて関係ないですし、要は『ここで見せろ』ということじゃないですか。そこは割り切ってやりました」
 

 そう覚悟を語ったストライカーには、どうしてもプロになりたい理由がある。
「僕はサッカー選手になってサッカーでご飯を食べていきたいと思っています。それは小さい頃からの夢で、『サッカーで目立たないとダメだ』という気持ちが僕の負けん気につながっているのかなと思う。やっぱり山口家の人間として、絶対にサッカーでは負けられないメラメラ感が、兄貴に負けず劣らず僕にあると思っているので、この気持ちは失ってはいけないと思っています」

 彼の兄は、水戸ホーリーホックで10番を背負う山口一真。FC東京U-15深川から山梨学院高、阪南大に進み、2018年に鹿島アントラーズに加入。今季は水戸に期限付き移籍をしている。

「ずっと小さい頃から一緒にサッカーをしていて、兄貴の友だちともサッカーをしていました。僕の中で兄貴の存在は大きいですし、毎日『負けていられない』と思っています。兄貴が点を取っていない日は僕が点を取って、兄貴に『俺取ったぞ!』と言ってライバルとして切磋琢磨できています」

 高校は兄とは違う西武台高に進んだが、「3つ違いなので、小学校以降は一緒にプレーしたことがなかったので、もう一度兄と一緒にプレーしたい気持ちがあった」と、一真のいる阪南大に進学。1年時から出番を掴み、兄弟で攻撃のホットラインを形成した。しかし、兄が卒業すると、その負けん気の強さゆえの精神的なムラと、度重なる怪我でトップチームでの出番を失った。

「いろいろ悩んだ時期でしたし、先輩と衝突したこともありました。でも僕はサッカーが好きなので、Bチームに落ちてもサッカーをやめようとなんて一切思わなかった。プロになりたいという気持ちはぶれなかったし、精神的なムラをなくすことも意識するようになりました」

 気持ちが折れず、向上心を持ち続けられたのは兄の存在も大きい。心から尊敬している兄がプロで苦しむ姿を目の当たりにしたことで、シビアに将来を考える時間が増えた。

「兄は小学校からどのチームでも、ずっとスタメンで10番をつけてきた王様のような存在で、鳴り物入りで鹿島に入ったので、1年目から結果を出すのかなと思っていたら、プロはそんなに甘くはないなと感じました。自分にも危機感が生まれましたし、兄貴でもこうなんだから、俺もこのままじゃプロに行っても通用しないと思った。兄貴も相当な負けず嫌いなので、俺とも毎日のようにLINEをするのですが、愚痴をこぼす時もありますけど、言いっ放しではなくて、次はそれを糧に『絶対に点を取る』『活躍する』という強い気持ちを持ってプレー出来る力があるので、水戸で今躍動できていると思います。僕も見習いたい」
 
 合同トライアウトは自分が勝負する番だった。大一番に臨む弟を気に掛けた兄・一真から当日に何度も連絡が来たという。

「朝から10回くらい電話がかかってきました(笑)。始まる前にも、もう1回きました。どれだけ過保護なんだよと(笑)。『お前、これでサッカー人生決まるから、死に物狂いでやってこいよ』と同じことを何回も言われましたが、兄貴に言ってもらうことで危機感を覚えたり、気合いが入るので、言ってもらってよかったと思います」

 兄弟の深い絆がある限り、彼のプロになりたい気持ちは燃え上がる一方、自分の力で目標を掴み取るべく、これからの貪欲な成長も誓った。

「今日の感触は自分が持っている10の力のうち、6、7しか出せていません。俺はまだまだこんなもんじゃない。これからも頑張ってアピールして、明日から新たな気持ちを持ってボールを蹴りたいと思います。兄貴と必ず同じステージに立って成長していきたいと思います」

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)

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