【川崎】感慨深き“師匠”ジュニーニョ超え。指揮官も称賛する小林悠が積み重ねた112ゴールの意味

【川崎】感慨深き“師匠”ジュニーニョ超え。指揮官も称賛する小林悠が積み重ねた112ゴールの意味

札幌戦で2ゴールの活躍を見せた小林。J1での通算得点を112得点に伸ばしクラブの最多得点者だったジュニーニョの記録を更新。ジュニーニョがよく見せていたゴールパフォーマンスを披露した。(C)J.LEAGUE PHOTOS



[J1 10節]札幌1-6川崎/8月14日/札幌ド

 待望の瞬間は札幌の地で訪れた。アウェーでの10節・札幌戦、4-1のリードで迎えた87分だった。後方からのGKチョン・ソンリョンのフィードを巧みに胸で収めた小林悠は、反転しながら上手くDFふたりの間を突破し、GKとの1対1を冷静に制す。

 J1での通算111得点目。小林が「師匠」と称すレジェンド、ジュニーニョが持つJ1でのクラブ最多得点記録を更新した瞬間だった。そして後半アディショナルタイムにはこの試合2点目となる通算112ゴール目も決めてみせたのだ。

 ジュニーニョの記録に並んだ7月22日の6節・仙台戦から約1か月、祝砲を追い続けてきた。だからこそゴール後の表情には、安堵と喜びの色が浮かんでいたように見える。試合後のオンライン取材でも率直な想いを尋ねると小林は笑顔でこう答えてくれた。

「数字に並んでからが長かったので、なかなか超えさせてくれないなと思っていたんですよ。だから今日、超えられてホッとしました」

 ゴールパフォーマンスは以前から決めていたポーズ。サポーターの前でジュニーニョが何度も見せてきた両手を天に掲げるゴールセレブレーションだ。若き頃、薫陶を受けた先輩FWへの感謝の想い、そしてストライカーとしての新たな決意表明が表われていたように映る。

 2010年に川崎に入団し歩んできた道のりは、ストライカーそしてキャプテンとしての葛藤や、少なくない怪我との戦いでもあった。実際に今季も、6月に数度メスを入れてきた右膝に違和感を覚え手術。遊離体という骨の欠片を取り除き、約1か月の戦線離脱を強いられた。だからこそこれまで積み重ねてきた記録に対して、32歳の点取り屋は感慨深いものがあるのだろう。試合後にはこうも明かしてくれた。

「色んな怪我であったり、苦労もしてきましたが、ずっと貪欲にゴールを目指してやってきたのがフロンターレでのジュニーニョ超えにつながったと思っています。今日のように歳を取ってベテランと言われても、ギラギラしてゴールを目指して、相手にとって嫌な選手でいられるように頑張っていきたいなと思います」
 
 今季の開幕前には大きな転機も迎えていた。それが2017年から3年間巻いてきたキャプテンマークの継承だ。鬼木達監督は新シーズンに臨むにあたって「新しいステップへ」と、小林から生え抜き7年目のCB谷口彰悟へ、キャプテンを引き継がせる選択をしたのだ。

 その効果は谷口のさらなる責任感の向上と「悠はキャプテンの責任感を継続しつつ、得点へより貪欲になっている」(鬼木監督)と、大きくプラスに働いている。

 小林はストライカーとしての働きにより注力でき、例年以上にゴールへの感覚を研ぎ澄ませられるようになっているのだ。

 もっとも主将としての経験も、今の小林を大きく支えている。当初はリーダーとしての振る舞いに思い悩み、「自分はやっぱりゴールを決めることを考えるしかない」と、この3年は結果でチームを引っ張る覚悟を抱え続けてきた。

「僕はどちらかというと、背中で引っ張っていくタイプではあったんですが、やっぱりチームが上手く回っているか、チームのバランスは良いのかなど意識する部分はありました」

 キャプテンとして試行錯誤を繰り返し、それでも就任1年目の17年にはリーグ得点王、リーグMVPをダブル受賞し、チームを悲願のJ1初優勝へと導く。そして2018年にはリーグ連覇、19年にはリーグ3連覇こそ逃すもルヴァンカップを優勝。キャプテンを務めた3年間でトロフィーを3度も掲げたのだからこそ、不安や葛藤以上に、何物にも代えがたい貴重な経験を得たはずだ。

「責任を背負い、壁にぶつかった時に色んな人の力を借りながら乗り越えたからこそ、今の自分があります」。小林もそう感慨深く振り返る。
 

 だからこそ、今季の小林には例年以上に注目が集まる。これまで以上の“ギラギラ感”を放つゴールハンターとして、さらなる爆発が期待できるのだ。

 鬼木監督もその姿勢を称賛する。

「ストライカーだからだけではなく、向上心があり続けたからこそ記録につながったと思います。またずっとキャプテンをやってきた中で、色々なことを背負いながら挑み、今年は今まで以上にゴールに貪欲になっているので、その姿勢はひとりの指導者として尊敬します。そして先輩の姿を見て後輩たちが貪欲になるというのはこのチームの歴史みたいなところもあります。やはりやり続けることは結果につながるんだなと感じますね。だからこそ、これからも期待をしたいです」

 今季の目標はチームとしての複数タイトル獲得。そして個人としては2度目のリーグ得点王だ。

「やっぱり(17年に得点王に輝いた)あの喜びは忘れられない。毎年、言っていますが、もう一度、取りたいんです」

 112点という記録は、ゴールに心血を注ぎ、チームを引っ張るために残してきた数字だ。だからこそ、その輝きは非常に眩く、価値は高い。そしてクラブの歴史に名を残したストライカーは、さらなる記録を打ち立てるために前を向く。鋭くゴールを狙い続けるその一挙手一投足には注目だ。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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