【安永聡太郎】歴史的圧勝劇はなぜ起こったか?「ペップの遺産」を進化させたバイエルンと、食いつぶしたバルサの明暗

【安永聡太郎】歴史的圧勝劇はなぜ起こったか?「ペップの遺産」を進化させたバイエルンと、食いつぶしたバルサの明暗

メッシ(中央)頼みのバルサをバイエルンが組織力で圧倒した。(C) Getty Images



 バルサが「バイエルンに対して身体能力的に対抗できたのって誰?」という試合になってしまったのが残念。そもそも身体能力で勝負しないのがバルサだったはず。それなのにペップ(グアルディオラ)時代から時が経ち、だんだん「メッシを生かす」から「メッシ頼み」の戦いに変わってきてからの時代が終着駅を迎えた感じだよね。

 バイエルンは「ペップ時代からの変化&成長」をクラブとして上乗せできてる。たとえば、ペップ時代にたまにセンターバック(CB)に入っていたアラバがリーグでもチャンピオンズ・リーグ(CL)でもそこに定位置として落ち着き、新しい選手が他のポジションに加わってきたり。

 ロッベンとリベリの両ウイング「ロベリー」を生かすために考案した偽SBや5人のフォワードなどの戦術のベースを新しいチームにバージョンアップさせてきた。これはペップがバイエルンに残した遺産の変化&成長だと思う。彼はバルサ監督時代にも「メッシにどうボールを渡すか」を明確に整備していったけど、バルサはそこから進化できずに下降線をたどっている。

 一方、バイエルンはフロントが上手に人を入れ替えながら常に「変化&成長」の部分に手を加え、ペップが残してくれた遺産をポジティブに活用してきた。この試合はそういうところがふんだんに詰まっていた。

 バルサは「メッシが神憑る」とか「メッシが進化する」とか言われているよね。個人的には「メッシはどこまで進化するの?」と楽しみながら観ているけど、その進化論で話すならそこに付いていけない選手は滅びないといけない。

 その理論でいえば、今のバルサはまさしくそう。メッシの進化に付いていけない選手は淘汰される。

 たとえば、グリエーズマンやバイエルンの選手として2ゴール・1アシストしたコウチーニョだ。でも、進化とは長い年月をかけて行なうもので、やはりメッシは異常! それをチーム全体としても1、2シーズンで望むこと自体が厳しい。当然、メッシはクラブ育成組織出身のスーパースターだから、彼を外すかどうかの判断が非常に難しい問題だし、この議論自体が現場だけで収まらないほどのテーマになってくる。

 でも、CKをとるにあたっては、年間の戦略をもって、それぞれの試合ごとに戦術を用いることができるか、そしてそれを体現できる選手が何人いて、どのくらいのローテーションで回せるのかが必要不可欠になる。

 これが僕の感じた、バルサがバイエルンに2−8で完敗したCL準々決勝「バルセロナ×バイエルン」の大枠の印象だ。

 結局、2018年にローマに逆転負けを喫したあのシーズンから何も変わっていない。

 メッシが何かを起こさなければ何も始まらないのよ。最終ラインにしろ中盤にしろデヨングなど多少の変化はあるにせよ、「メッシ頼み」になってしまった基本的な戦術は変わっていない。ローマに負け、同じ形でリバプールにも敗れて、今回の一発勝負のスタイルでもバイエルンに大敗してしまった。

 ポジティブにとらえたら「下手に勝ち進まず、ここで終われてよかったじゃん」と思う。来シーズンのリーガが9月から始まるという話も進むなか、あと1か月しかないからね。

「監督はどうなるのか?」
「選手の補強はどうするのか?」

 フロントは本気で取り組まないといけない。バルサである以上、負けは許されず、勝ちながら成長していくしか道はないから。僕は最終ラインから見直す時期に来ていると感じてる。ブスケッツにしても、ハイプレスをかけられて相手に激しくマークにつかれる状態を作られたら厳しくなってきている。

 もともと身体能力で相手を剥がす選手ではない。今は預けられたボールに対して昔ほどターン一つで剥がしたり、「これは行っても無理だな」と思わせるだけの個人の力が弱まってきている。相手からすると「行けばとれる」になってきている。

 本当にバルサがメッシでゲームを作っていくのであれば、デヨングやテア・シュテーゲンら一部の選手以外は「0(ゼロ)」ベースで考える状態だと思う。もちろんそれができるわけもないのはわかってるけど、本気でCLをとるつもりなら、最終ラインはもうピケだけに頼れない。

 プジョールはケガもあったけど、だんだん出番を失っていった。でも、ペップも「ここぞ!」という重要な試合には起用していたし、現在のピケをそういう立ち位置に追いやるくらいのチーム力は持っていないと、CLは勝ち取れないよね。

【動画】バイエルンのバルサ対策をハイライトでチェック!
 

 スペイン好きの僕としては、CLベスト8でスペイン勢が全滅することを多少は予測していたものの、実際にバルサもマドリーも負けると複雑(苦笑)。アトレティコはチャンスがあると本気で思ってたんだけどね。

 2強がスペインを引っ張っていってくれないと、リーガは次の新しい戦術が生まれてこないから。ジダンも確かにチームマネジメントだったり、選手の特徴を生かす戦術だったりは上手だけど、純粋な戦術家、戦術研究家と呼ぶよりは勝負師に近い。

 ドイツはナーゲルスマンが出てきて、次の戦略・戦術家がどんどん育って監督として評価されてきている。

 スペインにもグラナダの監督のディエゴ・マルティネスが39歳で、ちょうど今季から久保のボスになるウナイ・エメリが頭角を現したのが35、36歳くらいだったから若い監督がもっと活躍してほしいよね。今、スペインは転換期を迎えている。リーガの解説をしてるから1部、2部といろいろな試合を見るけど、これは代表問題にもつながるスペイン全体の問題だと僕は思っている。

 さて、この試合に話を戻すと、「バイエルンもバルサも監督が変わったなかでどう進化したのか」という見方ができる。バルサはCL未経験の外部監督を招聘し、バイエルンはCL未経験の内部昇格という形でチームを知る人物を監督に選んだ。バイエルンのハンジ・フリックはドイツ代表監督ヨアヒム・レーブの右腕として2014年のワールドカップで優勝を経験している。あのときの優勝メンバーの中心には、バイエルンに関わった選手が数多くいた。

 そういう比較でいうと、バイエルンは選んだ監督によって生き返った選手がたくさん出てきた。ペップ時代の良いものを用いながら「今いるメンバーで何ができるのか」という再整理ができた。リーグ戦も途中まで苦しんでいたけど、監督がフリックに交代してからは落ち着いて、盤石な戦いをしてきた。

 国内のリーグ戦も、ベスト16のチェルシー戦も、バルサ戦もアラバをセンターバックに据えてチームとしての狙いが定まった。左SBのデイビスを成長させたのも、この監督が果たした大きな仕事の一つ。守備時のポジショニングで「んっ?」と思うときもあるけど、それを補って余りあるスピードがあるから攻撃面で大きな期待が持てる。

 キミッヒもチーム内のケガ人の影響でボランチではなく、右SBで出場したけど、ペップ時代はこのポジションでブレイクしたわけなので、ここはうまく遺産を利用してチアゴ&ゴレツカというダブルボランチの組み合わせを見出している。チアゴは見事にチームのタクトを振るうし、ゴレツカは自らの特徴を生かして身体を張って守備に奔走したり前線に飛び出したりしている。

 彼らに呼応してミュラー&レバンドフスキという縦関係もうまく機能している。なんといっても、今シーズンはミュラーがいい。スペースを見つけて、それを使うタイミングをここまで知っている選手はいない。

 あのタイプの選手を生かせるのは、やっぱり監督しかいないんだよね。彼を信頼してあげて、ある程度の自由と規律を与えて、最終的に何をしてほしいのかというメッセージを伝えたらあれだけのパフォーマンを見せてくれるから、ミュラーはすごいよ。

 バイエルンは本当にチームとして強い!

 攻守の切り替えの早さという戦術的ベースの部分から、レバンドフスキとミュラーのどちらかが必ずブスケッツを見てボールを外回りさせ、両サイドにボールが収まったときのニャブリとペリシッチの活動量で追いつめる。その隙間をゴレツカが埋め、ボールサイドではサイドバックが前に出てプレスをかけきる状態を作る。

 その守備を安定させたのは後方に構える2CBと逆サイドのSB、チアゴの4枚が前線に対するパスコースを消すこと、穴埋めをしていたから。そうすることでチーム全体が守備組織を成り立たせている。これは間違いなく監督の手腕だ。

 走ること、動くこと、汗をかくことがチームのプラスになる。選手たちがこの監督が掲げた哲学を信じてプレーできている。単純に「ハイプレス」という言い方をされているけど、バイエルンはそういう守備コンセプトが徹底できている。
 

 バイエルンの良いところは最終ラインを高く設定したときに2列目が吸収されないことだよね。

 バルサも基本はハイラインだけど、ラインアップしたときに2列目が前線に吸収された状態になるからボール保持者にプレスがかからず、後が続かない。バイエルンは2トップのどちらかが下がってくるし、ボール保持者の状態によってラインコントロールを巧みに行なう。彼らはチーム全員が味方とのつながりを考えて立ち位置をとれている。

 ラインアップの部分で後方の2ラインがしっかりと前に上げているし、バイエルンは前線のレバンドフスキとミュラーのどちらかが下りてくるから3ラインの機能性がとても高い。吸収されがちな1ラインでプレスをかけるバルサに対し、バイエルンは3ライン全体でプレスをかけている状態なので、ボールを奪ったあとの攻撃もスピードがあるし、厚みがある。

 バイエルンのカギを握っているのは2CBだけど、特にアラバだ。ボアテングもペップに鍛えられてロングキックが蹴れるようになったけど、アラバがセンターバックに落ち着いたメリットとして攻撃時はセンターバックからのパス出しのレベルが上がったこと、守備時は背後の広範囲のケアが挙げられる。

 リーグ戦でよく見られたのは、彼が左側のフリーレーンへとボールを持ち出して逆サイドのフリーレーンの選手にパスを入れたり、パス一本で逆サイドの背後を突いたりできるようになった。チームとしてその選択肢がダメでも、ボランチに入ったチアゴやキミッヒが隙間でボールを受けて試合を作ることができる。

 相手からすると、選択肢を何から消していいかがわからない。

 たとえば、アラバのパターンを選択肢として消しても、今度は同サイドで左ウイングのペリシッチが内側に入ってきて左SBデイビスが上がるスペースをうまく作り出しているんだよね。大外のサイドレーンをしっかり使っていた。そこを埋めても、またロングパス一本のパスで守備を揺さぶることができるし、バイエルンにはセンターバックにそのキックを体現できる選手がいる。たとえ、そこを潰してもミュラーがするすると隙間に入ってくるから、彼らは選択肢に困らない。

 今のバルサだったら、対戦相手としてそれを実行できる能力があるのならやるべきだと僕は思っている戦術なんだけど、レアル・ソシエダがとった戦い方がある。ボールを右に流して相手を集めておいて左で数的優位を作り、バルサの右サイドを突破する戦術。その方法が上手くいった試合では、バルサの右SBはセルジ・ロベルトだった。

 この試合のバイエルンはバルサを左サイドに寄せておいて彼らの右サイドを攻略する戦術をとっていた。もちろん「左SBデイビスのスピードを生かす」ことも重なったと思うけど、ボールの流れとしてはバイエルンから見て「右→左」で、レアル・ソシエダの戦術と類似していた。

 2点目、4点目はボアテングが持ち出してサイドチェンジをしたことから始まっている。

 ただボアテングのパス自体は通ってはいない。2点目は右SBのセメドにカットされたけど、チームとして左サイドにボールが来る準備ができていて失ったとしてもバルサの右SHセルジ・ロベルトにパスが入ることを前提に守備を行なっていたため、4人で囲って奪い返した。そこからニャブリ、ペリシッチと渡ってゴールが生まれている。4点目もボアテングが同じように持ち出してレバンドフスキへ大きなパスを展開し、彼が競ったこぼれ球から再び攻撃は始まっている。

 明らかに「右で試合を作り出しておいて左のスペースを使う」ことはチームとして狙いをもって実行していた。

 そこにはデイビスというタレントを生かす意図もあった。これは監督の考えだし、それを遂行できる選手がいた。この背景には、ペップが作り上げたベースとなる戦術を選手とフロントも学んで身につけているから。もちろんペップを経験していない選手もいるから、今いる戦力の中で取捨選択して実行可能なものを残して良いものへとつなげた。バイエルンはこの部分が長けているし、すべてメッシを経由しないとサッカーにならないバルサとは大きく違う。
 

 1点目はオウンゴールだったけど、このゴールまでの流れのように「メッシが絡まなくても、いかにチャンスを作れるか」がバルサの目指す方向性だ。

 だけど、バイエルンの守備組織は同サイズで全体が動くように機能する。ラインのアップダウンも、左右のスライドも全体で行われるから、中央にクロスを放り込まれても枚数が十分に足りている。

 選手の質が違うから一概に比べられないけど、クロスに対してチームがどうとらえているかも2列目の選手の対応を見たら一目瞭然で差がある。ブスケッツとデヨングのダブルボランチと、チアゴとゴレツカのダブルボランチはタイプが違うから比較できないけど、自分たちのストロングをどう最大限に発揮するか。

 バイエルンは誰かに頼るのではなく、戦略・戦術の中で全員が輝く集合体をものの見事に表現した。

 守備のところもしっかり中央を締める。中央でスピードに乗られたワンツーを仕掛けられたら一発で崩されるし、なかなか止めにくい。だったら、外を使わせてクロスで対応することがバイエルンは決まっていた。しかも、どのラインまで戻るかがバイエルンは明確だった。2ライン目が最終ライン前まで戻っていた。その決まりを遂行するドイツ王者らしい生真面目さも併せ持っていた。

 約束事の徹底がなされている。

 メッシを経由しないと機能しないバルサとは大違いだよね。メッシが約束事だもん。ニャブリとペリシッチのスピードを生かす、デイビスの才能を生かすための周囲のローテーションの整理はバイエルンのほうが戦術的に一枚も二枚も上手だった。

アラバ、ボアテング、チアゴの作り出し
→前線のローテーション
→幅の活用

 まるでサッカーの教科書のよう。本当に学ぶべきことが多い。当然、身体能力という視点を加えるとできるできないが発生するんだけど、「原理原則」「狙いを持った戦術的プレー」という観点では、多くのクラブが模写できるチームだ。

 正直、ペリシッチもニャブリも純粋なウイングとして定義できるのかはわからない。だけど、バルサがそこに据えたのはセルジ・ロベルトとビダルだった。ビダルの外はジョルディ・アルバ、セルジ・ロベルトの外はセメドが後ろから出てくるから彼らは内側でいい。でも、チームとして機能性、そして再現性を高めるためには配置と組み合わせは非常に大事になる。

 絶対にウイングを置かないといけないわけではないんだけど、たとえばメッシに時間を作るためにどのバランスで人を配置すればいいかでいうと、バイエルンのミュラーの位置にメッシが入っていてもサッカーとしては十分に機能する。

 これはこれでおもしろいと思う。

 今のバイエルンのまま、メッシを入れてみる。サイドにペリシッチとニャブリがいて、中央にレバンドフスキがいて、と想像するだけで僕はワクワクする。別にミュラーを否定しているわけではないよ。

 今のバイエルンをバルサのベースとしてそのまま移植しても機能するくらいすごい。それくらいバイエルンから学ぶことがある。ミュラーは守備もめちゃくちゃ走るんだけど、たとえばメッシが入って相手のピヴォさえ見てもらえたら守備も機能するよ。

 そんな想像をしたときに「メッシだったらどんな世界を魅せてくれるんだろう」と思ったから、僕的には「今シーズンのバイエルンは現代サッカーのお手本のようなチームだな」と感じたというのが、この試合の総評だ。

 戦術的にバルサ視点で解説すると問題点が多すぎて何に手をつけていいのかはお手上げでした。だから、この試合はバイエルン視点で解説してみた。バルサについては来シーズンすべての面で注目だし、大きな変化を期待している。


分析●安永聡太郎
取材・文●木之下潤
※取材は試合直後の8月15日に行なっています。

【分析者プロフィール】
安永聡太郎(やすながそうたろう)
1976年生まれ。山口県出身。清水商業高校(現静岡市立清水桜が丘高校)で全国高校サッカー選手権大会など6度の日本一を経験し、FIFAワールドユース(現U-20W杯)にも出場。高校卒業後、横浜マリノス(現横浜F・マリノス)に加入し、1年目から主力として活躍して優勝に貢献。スペインのレリダ、清水エスパルス、横浜F・マリノス、スペインのラシン・デ・フェロール、横浜F・マリノス、柏レイソルでプレーする。2016年シーズン途中からJ3のSC相模原の監督に就任。現在はサッカー解説者として様々なメディアで活躍中。
 

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