【安永聡太郎】CLでスペイン勢の躍進はしばらく見られない? 一方、ラ・リーガは“カオス”になる

【安永聡太郎】CLでスペイン勢の躍進はしばらく見られない? 一方、ラ・リーガは“カオス”になる

世代交代に迫られるマドリーも、メッシ退団騒動に揺れたバルサもCLでの苦戦は必至か。(C) Getty Images



 チャンピオンズリーグ(CL)の決勝トーナメント以降の試合を見ていて思うけど、あの舞台に立てる選手はそれぞれが何度も壁をぶち破ってきた選手とその向こう側にいる選手の集まりじゃないと勝ち上がれない。

 前回の連載コラムでは、日本のトップクラブの育成に関して意見を言ったけど、日本の教わりすぎた選手はやっぱり自分で勝手に型を作って、そこからはみ出せない選手が多い気がする。型を破れない。最近、サッカー界でもよく言われるのが、古武道の「守破離」という言葉。

一発勝負のCLを見て感じた、日本と欧州の“広がる差”。あの舞台で活躍できる選手を育てるには――

 教えてもらった型を守る時期と、破る時期と、いずれは個性を出して離れる時期、ようするに独り立ちの時期だと思うんだけど、選手の育成って「個の成長状態を見極められる」指導者の存在が大事だよね。もちろん見る目が正しい人とか、指導者もそれぞれに特徴や強みがあっていい。見る目があって、伝える力もあって、指導力も長けていてと、そんなパーフェクトな指導者が数多くいるとは思えないから。

 というか、そう思っている指導者は考え直したほうがいいと思う。

 僕は指導者として圧倒的に指導回数が足りていないし、指導方法だって長年やっている人と比べると「こういうトレーニングをしたらこういう選手が出てきた」という経験だって少ないからね。

「我慢して、これをやり続けた結果、こうなりました」

 今はそれを積み重ねている最中。中学生と大学生、朝晩2つのカテゴリーを指導できている現在の環境は、非常に幸せな経験を与えてもらっている時間になっている。この経験があるから、この連載でこれまでとは違った見方を読者に提示できていると自分では思っている。

 サッカーファンに対して解説する仕事をしながらも、現場指導もできている。その恩恵を受けているから、今大会のCLを解説するにあたって、「1つでも日本の育成にプラスになるようなことを言えないのは無責任だ」と思ったから前回に引き続き、あえて日本サッカーについて口にしている。

 基本的には、日本の育成については言わないようにしているんだけど、今は自分も指導する立場として現場経験を積んでいるので、今大会のCLに出場している選手たちを分析していてどうしても日本の育成選手とリンクさせられずにはいられなかった。

「そんなこと言いながら、自分のチームはこんなんじゃん」と後ろ指を刺されることもあるかもしれない。それでも、それが自分を変えていくキッカケになるし、僕自身も「指導者として守破離しなければいけない」という思いがある。指導者も挑戦しないと限界突破できないし、可能性を広げられないから。
 
 ここからは「国や移籍や個人の否定ではないこと」が前提であることを理解して、内容を読んでもらえるとうれしい。

 最近はヨーロッパの移籍が活発化しているよね。良いことだけど、考えることもある。たとえば、Jのトップ選手がベルギー・リーグの、しかも2部に行くことがプラスになるのか? 

 僕も選手経験があるから行く気持ちもわかるし、当然ヨーロッパにいたほうがスカウトの目に留まりやすいのは間違いない。しかし、それだけの理由で簡単に海外に出ていかれてしまうとJリーグは寂しいかぎりだよね。

 非常に難しい問題だけど、各チーム、フロント陣がどうにかしないと。ベルギーに行った。2部だったけど、活躍できずに戻ってきた。でも、Jリーグでは大活躍したーー。これは無視できない問題だよ! 外国人枠のないドイツでもあまり活躍できず、日本に戻ってきたらレギュラーで重宝されているのも然りだよね。

 日本に限ったことではないと思うけど、「この流れを、この先に何年続けていくんだろう?」と思う。このネガティブな出戻り現象を検証しなかったら、いつまでも同じことが起こる気がしてならないのは僕だけではないはずだ。

 室屋成がドイツ2部のハノーファーに移籍した。それ自体は悪いことじゃない。でも、代表の主力がそこに位置するクラブに移籍するのが、日本の現状だということ。そこはサッカー界全体で考えるところだよ。

 海外のクラブに移籍して活躍できない現状が何なのか? 

 もちろん教育の問題も含まれるから難しいところがある。言われたことだけをやったり、指示待ちだったり……。ピッチ内外で主体性を持つことに欠けていることは否めない。僕は中学生と大学1・2年生を指導していて、自分の経験を踏まえて両方に言うことがある。

 それは「海外の選手に負けない、永遠のサッカー小僧であるために大枠の練習の雰囲気とトレーニングのプランは作るけど、緊張感であったり和やかであったりするところは自分たち自身で作るものだよ」と。フットボールを楽しむことをどの水準でプレーするのかは、自分たちで決めることだから。わちゃわちゃと遊びのように練習するのか、ピリッと真剣に練習するのか。

 充実感を楽しいと思うのかどうかは中学生の子たちに言うし、大学生には「もうサッカー選手としては最終の仕上げ段階に入っているのに大人にどやされて練習の雰囲気を作っても先がないから、自分たちで作って這い上がっていかないと」と伝えている。

「練習は楽しんで」

 そう伝えると「サッカーを楽しむ」という言葉の定義を履き違えてしまう選手が多い。僕から「この雰囲気でいいの?」って促して、自分たちがこのトレーニングに自ら臨んでいるんだと再確認させている。自覚をもった上で、指導者が厳しさを要求しないと正しいトレーニングとは言えないし、方向性がいつまで経っても一方通行になる。

 指導者が厳しく練習をさせるのは、大前提が違う。僕たちは指導者だけど、叱って無理やりサッカーをさせる役割は持っていない。トレーニングの雰囲気は自分たちで作って、それが前提でフットボールに対する厳しい要求、成長のために必要なことを厳しい目線で見続けてあげるのが指導者の役割。海外では当たり前だし、もちろん教育が違うから日本ではそれが正しいとは言えないところもあるんだけど。

 自分もみんなと同じ環境で育ってきた。怖いコーチがいて、ミスをするとベンチを見る。「大丈夫、今のミス?」って。僕はガミガミと怒鳴られる選手ではなかったけど、それでもコーチを見ていた記憶はある。これを全否定していいかはわからないけど、現場から変えていくことが大事なんじゃないかな。練習の休みを選手たちが残念がるくらいの現場にね。

 別にすべてをJFAが主導するものではなく、たとえば現場レベルのコーチが自主的に「育成カンファレンス」を開いて、もっとグラスルーツレベルで活動している指導者たちから声をあげていくことが大事だと思う。もっと意見交換して熱くなっていい。
 
 日本人は人と意見が違うことを恐れるけど、違って当たり前なんだよ。どこか人にすり寄って行く傾向にあるし、僕にもそういう一面はある。だけど、影で「実はさ…」みたいなコーチもいるから。「違うなら話そうよ」って。すべてを取っ払って、各地でいろんな議論をまずは交わらせていくことが必要な気がする。

 偉そうに言える立場ではないけど、そんなことが開かれているならぜひ参加したい。今大会のCLを見て、いろんな人がいろんなことを考えて落ち込んでいると僕は思ってる。バイエルンとパリ・サンジェルマンの決勝を見て、「日本は明るい」と思う人がいたらその人とは合わんわ(笑)。

 何を足し算するとチームが強くなるか?

 Jリーグに話を戻すと、たとえば横浜F・マリノスはマンチェスター・シティと提携してから補強については外さなくなった。柏レイソルから獲得したジュニオール・サントスも4試合で5得点(取材時点)を取ってる。良い悪いは別にして、補強については他のクラブに比べて断然チームのプラスに働くことが増えた。

 柏のサポーターにしたら「何してんのよ」って話だよ。ただジュニオール・サントスが、柏のネルシーニョ監督の下で結果を出せるかはまた別問題。監督と選手の相性はあるし、チームの戦い方に合う合わないも絶対にあるから。ネルシーニョ監督の能力がどうこうの話ではなく、マリノスが自分たちのシステムの補完性をきちんと理解しているということ。どのタイプのどんな選手を獲るとハマるのか。他のJクラブは多々見習うべきことがあるよ。

 ちょっとCLの話題から離れてしまったね。

 リーガ好きとしてやっぱりスペイン勢のことを語っておかないと。来シーズン、というかしばらく、リーガ勢の躍進はないかもしれない。なんだかんだ言っても、レアル・マドリーかバルセロナが輝かないと。

 マドリーは世代交代の必要がある。バルベルデが頭角を表わしてきて、ウーデゴーを戻して、カゼミーロは変わらずどっしり構えるだろうから中盤は問題ない。中盤は色分けが出てきたけど、ベンゼマのところ(センターフォワード)がね。

 それと、やはりマドリーといえば7番だ。

 否定するつもりはないけど、クラブはあの年齢(昨夏の加入時は28歳)のアザールを引っ張ってきた。だけど、昨シーズンはケガがちで、期待したような働きができなかった。「7番」の前任者たちがクリスチアーノ・ロナウドら錚々たるメンバーだから、まずは結果がほしいところだよね。7番って重みがある存在だけど、クラブも他の選手にも着させたりしてマドリーのファンにしてみてら「意味わかんねーよ」みたいな感じもあるはず。

 マドリーは両ウイング、センターフォワードを考えると、バイエルン・ミュンヘンやパリ・サンジェルマン、そしてイングランド勢に比べると現時点では実績、経験値ともにベンゼマ以外はちょっとレベルが落ちる。バルサに至ってはもう現時点でお手上げじゃないの。
 
 そういう意味で、ラ・リーガについて言うと、新シーズンはある種「平等」にどのクラブにも優勝のチャンスがあると思う。カオス状態を楽しむ感じだよね。特に上位に位置するクラブは。

「優勝争いが混沌とする」という意味では、中位クラブの戦術的なアプローチはカギを握るだろうから、そこはおもしろいところだよね。もちろん久保建英、岡崎慎司を筆頭に日本人選手の活躍には期待したいよ。

 あと、もう一つ注目なのは奇跡的な昇格を果たしたクラブ「エルチェ」だ。

 2部の6位からの昇格なんだよね。プレーオフの準決勝では、香川真司がいるサラゴサ戦を相手に1試合目の終盤にゴールを決めてるし、決勝も深い時間に劇的なゴールを奪っている。実は、このクラブは前回2部に降格したとき、13位くらいで1部に残留できたはずなのに、財政難で落ちたんだよね。

 そのおかげで、18位で降格するはずだったエイバルが残留して、その後に乾貴士を獲得して現在に至る。そういう背景を持っているエルチェが再び上がってきた。40歳のフォワードのニノも注目だし、ぜひ楽しみにしてほしいと思う。

 再びCLに話を戻すと、優勝したバイエルンはザネがシティから加わるけど、中盤のテンポを生み出すチアゴ・アルカンタラが移籍するかもしれない。

 そうなると、右サイドバックにはパバールがいるし、キミッヒがボランチかな。ボアテングも年齢的な問題に差し掛かりつつあるし、レバンドフスキとミュラーの控えがいない課題もある。特にレバンドフスキが故障したときに「どうするの?」って部分は大きいよね。

 ここから2、3年間、黄金期が続くかと言われると「ん〜」って感じだしね。でも、バイエルンは賢いクラブなので補強を上手に進めそう。CLの舞台で「ストップ・ザ・バイエルン」とライバルたちが掲げるほどの存在になるかも見ものだね。

 アタランタやリヨンのように躍進するクラブが出て来るかも楽しみの一つだよね。19−20シーズンだとアヤックスだった。でも、難しいのは結果を残すと翌シーズンに選手を抜かれてしまうからね。

 新シーズンのCLは、南野拓実を筆頭に日本人が何人プレーして、どんな戦術を表現してくれて、どんな躍進するチームが出てくるのか。

オーソドックスな答えになっちゃうけど、僕はそこらへんのポイントを楽しみにしてるよ。想像するだけで今からワクワクするよね。

分析●安永聡太郎
取材・文●木之下潤
※取材は8月28日に行なっています。

【分析者プロフィール】
安永聡太郎(やすなが・そうたろう)
1976年生まれ。山口県出身。清水商業高校(現・静岡市立清水桜が丘高校)で全国高校サッカー選手権大会など6度の日本一を経験し、FIFAワールドユース(現U-20W杯)にも出場。高校卒業後、横浜マリノス(現・横浜F・マリノス)に加入し、1年目から主力として活躍して優勝に貢献。スペインのレリダ、清水エスパルス、横浜F・マリノス、スペインのラシン・デ・フェロール、横浜F・マリノス、柏レイソルでプレーする。2016年シーズン途中からJ3のSC相模原の監督に就任。現在はサッカー解説者として様々なメディアで活躍中。
 

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