「耐えがたいコメディー」仏版クラシコの “惨劇”を地元メディアが痛烈批判!称賛された数少ない戦士とは…【現地発】

「耐えがたいコメディー」仏版クラシコの “惨劇”を地元メディアが痛烈批判!称賛された数少ない戦士とは…【現地発】

後半アディショナルタイムに両チームの選手たちがエキサイトした結果、5人が退場という前代未聞の事態に。 (C)Getty Images



 歴史的なフランス版クラシコ(パリ・サンジェルマン対マルセイユ、0−1)から一夜明けたフランスでは、“全員ブチギレ”に、悲嘆の絶叫が相次いでいる。

 まず『L’EQUIPE』本紙に激怒の社説を綴ったのは、『ワールドサッカーダイジェスト』でもお馴染みのヴァンサン・デュリュック記者だ。

 そのタイトルは「愚か者ども」。「インテリジェンス(知性)よりテストステロン(男性ホルモン)の方が2倍も多い愚か者ども」、「5人退場と14枚のイエローカードに彩られたこの夜はわれわれに恥をかかせた」、「耐えがたいコメディー」と、両チームと審判を含む試合全体を斬りまくった。

 CF抜きの大胆な戦法を採用したアンドレ・ヴィラス・ボアス監督については「マネージメントの巨大な勝利」と称えたが、一方で「この(コロナ)期にスポーツと責任感に場を与えてやろうという考え方にとっては、深い敗北となった」と書いた。そして、マルセイユで、サポーターによるマスクも社会的距離も無視した花火と歓喜の夕べが出現したことを暗に批判した。

 とはいえ、最も厳しい裁きは、パリ・サンジェルマンの頭上に下された。

 デュリュック記者が「ピッチ上で敗北に異議をつきつけることもできなければ、試合後に敗北を受け入れることもできなかったパリジャンたち」、「糸を見失い、神経も切れてしまった」と叩けば、ダミアン・ドゥゴール記者によるメイン記事も容赦なかった。

 「試合終了のホイッスルが鳴るや否やヴィラス・ボアス監督を挑発しに来たのはヴェッラッティだった」、「投入されるや否やディミトリ・パイエにばかでかいファウルで突っかかったレアンドロ・パレデス」、「クルザワに至っては頭の中がブルース・リーの映画状態」、「とくにネイマールはこの夜を緊張した空気にひっくり返してしまった」と、パリSGのブチギレぶりに触れると、このように皮肉ったのだ。。

「凡庸さ(ネイマールとディ・マリア)と愚かしさ(パレデスとネイマール)のごった煮だったことからみて、今夜の教訓は、コロナ感染明けの選手たちを並べるべきではなかったということだ」

 ネイマールについては、夜の討論番組『L’EQUIPE DE SOIR』でも大きな話題となった。「彼にはどうも、苛立ちを抑制できないという弱さがある。まるでココット・ミニュット(蒸気を噴き出す圧力鍋)だ」(『France Football』誌のデイヴ・アパドゥー記者)といった嘆息が相次いだ。

 さらに「恥のレッド」と題した記事を執筆したメリザンド・ゴメズ記者も、「ヒロキ・サカイがチャレタ=ツァルのミスをフォローしなければならず最初のイエローを食らったが、これは言うほどのこともなかった」としたうえで、「最初の火は、その直後にネイマールとパイエの間で発火した」と指摘。

 次いでマルセイユが先制した場面では「ネイマールが38分から一気に苛立ちを募らせていた」、「ディ・マリアとアルバロ・ゴンサレスのデュエル後には、アルバロがディ・マリアから唾を吐きつけられたと主張」、「パレデスがパイエの足にスパイクを突っかけたのは、レッドにして然るべきだった」、「ダリオ・ベネデットのゴールが帳消しにされたが、VARはこれを訂正すべきだった」と全シーンを細かく振り返り、最後にネイマールの口汚いツイートが紹介された。

 それとどうやら、パリSGを率いるトーマス・トゥヘル監督まで、堪忍袋の緒が切れそうな状態だったようだ。試合後、ヴィラス・ボアス監督に「お前、ロト(賭け)をやったな」と発言したという。

 これに対し、勝利チームの指揮官は、「お前もアタランタ戦でロトをやっただろ」と返答したようだ。そして試合後の会見では、「トゥヘルをすごく評価しているんだ。僕は彼みたいにプレーできないけど、やってみたいよ。パリ・サンジェルマンは非常にいいフットボールを発展させている」と微笑みながら持ち上げる余裕を見せたのだ。

 対照的に余裕がなかったのは、パリSGのスポーツディレクター(SD)のレオナルドだ。こちらもカンカンで、審判をこっぴどくこき下ろし、この試合を担当すべきだった別の審判名まで挙げて侮辱した。このため、討論番組に出席していた、元選手のリュドヴィック・オブラニャックは、「彼がこんなことを言う権利はどこにあるんだ!」と非難した。

 選手、審判、マルセイユ・サポーター、監督、SDと、ほぼ全員がブチギレだったこの試合。その中で、黙々と大仕事をしたのは誰か――。それはマルセイユのGKステーブ・マンダンダだった。

 マンダンダは、8月中旬に新型コロナウィルスに感染(無症状)して家に籠り、すでに治癒して感染力が皆無だったにもかかわらず、フランス代表スタッフの届け出ミスで代表を離脱する羽目に。さらには、クレールフォンテーヌからマルセイユに帰ろうとして、飛行機搭乗まで拒否される憂き目に遭った。

 日ごろ穏やかな彼も、さすがに苛立ったという。だがそんな感情など全て乗り越え、この大一番で、目を見張るようなスーパーセーブを連発したのだった。

 そしてもうひとり、酒井宏樹もいた。苛立ちに巻き込まれることなく、それでいて黙々と戦士に徹し、またしてもネイマールに勝った。とりわけ10番の股抜きを見抜き、膝と地面の間にピタリと挟んでみせたシーンは圧巻だった。

 ネイマールは苛立ち始めたのは、1対1で酒井に勝てなかったからという印象さえある。思えば、これまで一度も、この日本代表DFとのマッチアップで上回ったことはないのだから、イライラするのも当然かもしれない。

 パルク・デ・プランスを舞台にしたクラシコでパリSGが敗れたのは、10年ぶり(2010年2月28日以来)。さらにシーズンを2連敗でスタートしたのは、何と36年ぶりのことだ。もちろんコロナ禍による例外とはいえ、なにやら1990年代のクラシコの雰囲気が漂った一夜だった。

 今週のパリ地方は異常な高温になる予定である。そんななかでも、ドゥゴール記者は皮肉をこめて、こう締めくくっている。「今週、首都の上空には夕立がくるとアナウンスされている」――。

取材・文●結城麻里
text by Marie YUUKI
 

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