スペインで躍動する岡崎慎司を昆虫に例えるとどうなる!? 話題の“こんちゅうクン”が私的解説!

スペインで躍動する岡崎慎司を昆虫に例えるとどうなる!? 話題の“こんちゅうクン”が私的解説!

サッカーを独自の観点から解説するこんちゅうクン(左)が日本代表FWの岡崎慎司を分析した。 (C)Mutsu FOTOGRAFIA



 幼少期の夢はサッカー選手になることだった。

 プロの試合を見ては、いつもあのピッチに立っていたら自分はどんなプレーを選択するかと想像し、その妄想の上を行くスーパースターたちのプレーに感動した。

 そんな私は、現在、幼少期にサッカーと同等に愛した昆虫に携わる仕事に就いている。「もし、私がピッチに立っていたら」と妄想していたものが、今では「もし、虫たちがピッチに立っていたら――」と考えてしまうまでになった。

 さて、本稿で取り上げるのは、2011年1月にヨーロッパに渡って以来、ドイツ、イングランドを経て、昨シーズンにラ・リーガの舞台にまで辿り着いた岡崎慎司である。泥臭く、しぶとく、変化に対応しながら生き抜いてきた彼を昆虫に例えて紹介したい。

 サッカーを見ながら昆虫を想い、また、昆虫を見ながらサッカーに想いを馳せる楽しみを少しでも知っていただければ幸いである。

―――◆―――◆―――
 

 岡崎の代名詞の一つが「ダイビングヘッド」だ。2009年6月6日、南アフリカ・ワールドカップのアジア最終予選のウズベキスタン戦でのゴールは多くの人の記憶に残っているだろう。

 中村憲剛からのスルーパスをトラップして左足でシュート。相手GKに当たって跳ね返ってきたところを勢いそのままにダイビングヘッドでゴールへねじ込んだ一撃は、美しくも、カッコよくもないが、私たちの心を揺らした岡崎らしい得点だった。

 昨シーズンにウエスカで挙げた12ゴールのうち半数の6ゴールがヘディングであり、そのうち4ゴールがダイビングヘットという事実からも、まさに十八番の得点パターンということが分かるだろう。

 そんな岡崎のダイビングヘッドを見ていて連想せざるを得ない虫がいる。漢字で「叩頭虫(ぬかずきむし)」の別名を持つコメツキムシである。

 コメツキムシは、裏返しになると死んだフリをして静止するが、その直後、頭(正確には前胸)を地面に強く打ち付けて「パチンッ」という音とともに跳ね上がる。地面の近くでこれほど頭を強く振れるのは、サッカー界では岡崎ぐらいではないだろうか。

 ゴール前で相手DFの“死”角から一瞬で飛び出してゴールを決める動きに、私は「“死”んだフリから突然跳ね上がる、まさにコメツキムシだ!」といつも感嘆してしまう。

 もちろんダイビングヘッド以外にも驚かされるプレーはある。昨シーズンのスペイン2部・第41節のヌマンシア戦で、チームの1部昇格を決定付けた技ありヒールシュートはまさにゴラッソだった。
 
 ラファ・ミルの右サイドからのマイナスのクロスをヒールでうまく流し込んだテクニックもさることながら、ゴール前に走り込む際の相手DFとの駆け引きが巧妙だった。一度ファーに行くと見せかけた岡崎は、相手の身体と意識が逆サイドに向いた瞬間、逆をついてニアに走り込んでボールを呼び込んだのである。

 駆け引き上手な虫といえば、カマキリをおいて他にいない。
 
 カマキリは、餌を捕食するためにじっと待ち伏せをして、獲物が近づいてきたところを鎌状の前脚で捕えるのだが、いつも待っているわけではない。止まっている獲物に自ら近づいて仕留める時にはこちらの動きを悟られないよう、様子を伺いながらじわじわと距離を詰める。

 この時、周りの環境を巧みに使うのだ。緑や褐色の体色が周りの景色に溶け込んで見つかりにくくなっているだけでなく、風が吹いた時には自らの身体を左右にゆらゆらと揺らし、風に揺れる枝葉に紛れて近づいていく。

 このようにカマキリが獲物を捕らえることができるのは、動体視力や鎌を繰り出すスピードがあるからだけではない。相手との距離や風の有無など、周りの状況に応じて適切な行動を選択し、鎌を繰り出せるポジショニングができているからに他ならない。

 岡崎もまさにそうだ。ヌマンシア戦のようなゴラッソを生み出す彼の巧みな駆け引きは、カマキリの獰猛さではなくしたたかさを、そして、生存競争を生き残ることの厳しさを思い起こさせるのである。

 本田圭佑がカブトムシならば、香川真司はクワガタムシだろう。秀でた能力を持つ華美なプレーでメディアを賑わし、子どもたちにも大人気だ。

 だが、競争の激しいヨーロッパで、しぶとく、変化に対応しながら生き抜いてきた岡崎も、もっと注目されていい存在だと思っている。

 彼のプレーはよく「泥臭い」と称されるが、昆虫界で「泥臭い」のはケラだろう。「泥臭い」どころかもはや「泥の中」で生活しているのである。

 ケラとは、モグラのように地中にトンネルを掘って暮らすコオロギの仲間で、童謡『手のひらを太陽に』でも歌われているように「おけら」と呼ばれる身近な昆虫だ。

 そんなケラは地面を「掘る」だけでなく、「走る」、「跳ねる」、「飛ぶ」、「鳴く」、「泳ぐ」、「登る」など多彩な能力を持つ意外なスーパー昆虫であったりするのだが、どれ一つ飛び抜けて秀でた能力がない。その様を指して、「おけらの七つ芸」という言葉も生まれるほどである。
 
 岡崎はヘディングや泥臭さ、献身性、前線で懸命に“走り回る”イメージはあるが、リオネル・メッシのように相手を置き去りにするドリブルも、セルヒオ・ラモスのような打点の高いヘディングも、ジエゴ・コスタのような圧倒的なフィジカルも持ち合わせない。それでも、ケラのようにがむしゃらに敵をかき分け、走り回り、ゴラッソを決めてしまうのだ。

 私は昆虫の魅力を伝えることを生業にしているが、常々ケラのような、地味ながら知れば知るほど魅力的な虫こそ、子どもたちに知ってもらいたいと思っている。

 岡崎はわかりやすい魅力のある選手ではないのかもしれないが、今シーズン、日本のケラがヘビやライオンのような強豪ひしめく世界最高峰のラ・リーガ1部できっと活躍してくれるはずだ。

 子どもたちにはぜひ目立った武器を持たないケラの魅力を知ってほしいし、ケラのような岡崎に対する憧れをもっともっと抱いてもらいたい。この10年間で最もコンスタントに活躍した日本人選手は、間違いなく彼なのだから。

文●こんちゅうクン

【著者プロフィール】
こんちゅうクン(北野伸雄)/1985年、静岡県浜松市生まれ。九州大学農学部生物資源環境学科で昆虫について学ぶ。チャバネアオカメムシの卵に卵を産みつける寄生バチの研究がテーマ。2014年より磐田市竜洋昆虫自然観察公園の職員として、昆虫の楽しさや面白さ、奥深さを子どもから大人まで幅広い世代に伝えている。2020年から磐田市竜洋昆虫自然観察公園の館長就任。

関連記事(外部サイト)