LFPは “危険なワナ”に陥った? 放映権「215億円」の不払い疑惑騒動でフランス・フットボール界に激震走る【現地発】

LFPは “危険なワナ”に陥った? 放映権「215億円」の不払い疑惑騒動でフランス・フットボール界に激震走る【現地発】

リーグ・アンの20-21シーズンはすでに開始し、放映もされている状態だ。(C)Getty Images



 フランスのフットボール界に激震が走っている。

 スペインのバルセロナに本拠を置き2020〜2024年のリーグアン(1部)とリーグドゥ(2部)放映権を落札した「メディアプロ」が、コロナ禍などの影響で経営難に陥り、10月5日に予定されていたフランスのプロフットボールリーグ機構(LFP)に対する1億7200万ユーロ(約215億円)の支払いを履行しなかったためだ。

 これについて「メディアプロ」のジャウム・ロウレス社長は『L’EQUIPE』紙上で、支払いの延期と契約金額の下方修正を要望。「4シーズンにわたる契約全体の見直しではないが、今シーズンの放映権の金額について値下げを交渉したい」「意見交換の結果が10月17日前に出る見込みはないだろう」と語った。

 これでフランスの各クラブはパニックに陥った。LFPは今回入金されるはずだった放映権料を、10月17日には全クラブに分配することにしていたためだ。

 すでに各クラブは、コロナ禍による無観客試合や観客数大幅制限でチケット収入とスポンサー収入の激減に見舞われており、メルカートでの選手売却益も減少、フランス政府の特別支援措置に支えられる形で銀行から借入している。多くのクラブではそのローン返却に、まさに放映権料があてられることになっていた。
 そもそも「メディアプロ」は、年間8憶ユーロ以上を4年間支払うという莫大な金額を提示し、現地局『Canal+』や『beIN Sports』ら従来メディアを出し抜く形でフランス・フットボールの放映権をサプライズ落札。8月5日(17%)、10月5日(同)、12月5日(16%)、2月5日(17%)、4月5日(同)、6月5日(16%)と、2か月に1回ずつ分割払いする契約になっていた。

 これでフランスのフットボール界はスペインと並ぶ潤沢さを誇ることとなり、この契約をまとめたLFPゼネラル・ディレクター(GD)のディディエ・キヨ氏(当時)は、声高に「勝利」を誇ったものだった。

 ところが、そこへコロナ禍が襲い掛かった。しかも「メディアプロ」にはバックに銀行ギャランティーもついていなかったため不安が漂い、最初の支払い(8月)から数日の遅延を起こして、関係者を震え上がらせた。

 また「メディアプロ」が今シーズン開幕後の8月21日に立ち上げたテレビ局『TELEFOOT』も、豪華キャストを揃えたとはいえトラブル続き。月25ユーロで最低1年契約をしない限り観戦できず、試合によって従来局にも出費しなければならないファンたちは、思ったほど申し込みに殺到しなかった。このため、『TELEFOOT』は契約獲得数も公式発表できない状態で、当初目標の150万世帯はおろか、直接契約世帯は20数万世帯がやっとではないかと推定されている。この面でも収入は、大きな見込み違いとなっているというわけだ。

 さらに、実態もだんだんと明らかになってきた。

 「メディアプロ」を包括しているホールディングは「イマジナ」というオーディオ・ビジュエル・グループで、世界中に7000人以上を雇用している。だが、2019年末時点ですでに7憶2700万ユーロもの赤字を計上。このため、世界的に有名な米信用格付け会社ムーディーズが、「イマジナ」のランキングを「B1」から「B3」に変えたという。「B」はすでに「高度に投機的」という意味で、「B3」の評価は「交わした契約をリスペクトできないリスクを抱えている状態に近い」である。
 
 そして、「イマジナ」のオーナーは、52.5%を握る主要株主は中国のオリエント・ホンタイ・キャピタルという投資ファンド。22.5%は英国に本部を置く広告企業のWPPで、残り12%が前述のジューム・ロウレスとジョゼップ・マリア・ベントという企業設立当初からのスペイン人幹部となっている。

 したがって、「どうしても契約を履行させるためには、この中国資本を動かすしかない」というのが現時点での“希望的観測”になっている。だが動かない場合は……? また投資ファンドと中国共産党が仕切る国家との関係は……? どうも不払い疑惑は晴れていない。

 つまりLFPは、コロナ禍という想定外の危機もあったにせよ、「メディアプロ」と契約した時点で“危険なワナ”に落ちてしまったと言えそうだ。年8憶ユーロ以上の放映権料を払えるほどの経営状況にあったのかどうか、大きな疑問だからだ。

 だが契約をまとめたディディエ・キヨGDはすでに身を引き、当時のLFP会長ナタリー・ボイドラトゥール女史も会長選出馬を辞退。結果、LFP会長は、ほんの1か月前からヴァンサン・ラブリュヌ氏(元マルセイユ会長)になっている。
 とんだ貧乏くじを引いた格好だが、ラブリュヌ会長は直ちに「メディアプロ」の金額値下げ要望を拒否。同時に緊急策として10月17日のクラブ分配に間に合うよう新たな銀行借入を行ない、「心配は要らない」と強調した。

 とはいえ、これですでに2度目の銀行借入となり、返済もしなければならない。まさか2か月ごとに銀行から借金を繰り返すわけにもいかない。もし「メディアプロ」も「イマジナ」も支払えない場合は、小さなプロクラブの倒産、アマチュアクラブ倒壊、ひいてはフットボール界全体での雇用破壊まで、あり得えないとは言い切れない。

 途方もない嵐に見舞われたフランス・フットボール界。事態の深刻さを受け、大統領府も「メディアプロ」問題を注視しているという。「こうなったら、エマニュエル・マクロン大統領が介入して、中国の国家元首と直接交渉するしかない」の声まで上がり、「いや政治の介入は駄目だ。LFPが間違ったのだからLFPが責任をとるべき」の反論も出ている。また楽観視して、「何とかなる」と見るクラブ会長もいる。

 フランスのフットボール界はこの問題をどう解決するのだろうか。しばらく大嵐が続きそうな気配である。

取材・文●結城麻里
text by Marie YUUKI

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