引退を発表した“不屈のMF”ガゴへの想い。取材嫌いだった男との思い出とは?【南米サッカー秘蔵写真コラム】

引退を発表した“不屈のMF”ガゴへの想い。取材嫌いだった男との思い出とは?【南米サッカー秘蔵写真コラム】

2005年にボカでキャリア初タイトルを手にし、感情を爆発させる若き日のガゴ。取材嫌いだった彼の笑顔を抑えた数少ない一枚だ。 (C) Javier Garcia MARTINO



 フェルナンド・ガゴが現役引退を表明した。

 ライバルチームの心無いファンからは「怪我ばかりする弱い選手」と揶揄されることもあったが、フェルナンドは強い男だ。プロのアスリートが5度も大手術を受け、リハビリを繰り返し、その度に復帰を遂げてくるためには一体どれほど強靭なメンタリティーが必要か。想像してみてほしい。

 そのメンタルを表すかのように彼は他人に対する警戒心も強く、やや近寄りがたい雰囲気を漂わせている。素顔の彼はとても穏やかで、若い選手たちからも敬愛される偉大なリーダーなのだが、信頼できるとわかった相手でなければ打ち解けることはない。

 今でこそフェルナンドと私は懇意な間柄にあるが、今から7年前、彼がヨーロッパからボカに戻ってきたばかりの頃は違った。私が正式にボカのオフィシャル・フォトグラファーになったのは、フェルナンドがレアル・マドリーでプレーしていた2009年のこと。そのため、古巣に帰ってきた彼は、以前まではいなかったチームフォトグラファーの存在をすぐに受け入れることができなかったのだ。

 SNSの普及に伴い、より選手に近い距離から写真を撮るようになっていた私は、以前まで選手だけの“聖域”とされていた場所でも撮影していた。だが、フェルナンドはそれが気に入ってはいなかった。
 

 監督はもちろん、他の選手たちは何の問題もなく写真を撮らせてくれるのに、彼だけはカメラを向けられることを極力避けた。クラブの広報部から頼まれてロッカールームの撮影をしていると、突然、フェルナンドが入って来て「もう十分だろう。そろそろ出て行ったらどうだ」と言われ、追い出されたこともあった。

 しかし、ブラジルで開催されたワールドカップの試合会場で出会ったり、ボカのキャンプや遠征で一緒に過ごす時間が長くなるにつれ、フェルナンドは徐々に私のことを信頼してくるようになった。彼がチームのキャプテンになってからは、日々の練習の撮影について私が彼に相談するようになり、そこから信頼関係がより一層深まったように思う。

 フアン・ロマン・リケルメと同じように、フェルナンドも一度心を開くと誰よりも人懐っこく、親身な態度で接してくる。家族の写真を撮ってほしいと頼まれて自宅に行ったことも何度かあり、その度に一緒にマテ茶を飲みながらプライベートなことやその時の心境まで、いろんな話をしてくれた。

 それだけに、2017年10月に開催されたロシア・ワールドカップの南米予選で右膝靭帯を損傷した時や、2018年12月のコパ・リベルタドーレス決勝でアキレス腱裂傷を負った時は、私も心を痛めた。

 だが、私は怪我して彼の引退説が流れる度に、「それだけは絶対にない」と知っていた。フェルナンドは元プロテニス選手の妻ジセラ・ドゥルコから「怪我をしたままキャリアを終わらせることは絶対にできない」と言い聞かされ、彼もその考えに賛同していたからだ。

 だからこそ、今年1月に再び右膝の靭帯を痛めて手術を受けることになった時も引退はありえないとわかっていた。案の定、彼は5回目の大手術を無事に終え、新型コロナウイルスによる活動休止期間にリハビリを行ない、今一度ピッチに帰って来た。

 その直前にベレスとの契約を来年12月31日まで更新していたこともあり、私はもう少しだけ、彼のプレーを見ることができるだろうと思っていた――。

 しかし、フェルナンドは「以前のようなモチベーションがない」という理由で16年の現役キャリアに終止符を打った。中途半端な気持ちのままプレーを続けるよりも次世代の選手に機会を与えたいという、彼らしい決断だったと思っている。

 今回紹介する2枚目の写真は、約2年前に、ボカの公認マガジン『Solo Boca』で掲載するために特別に撮影したものだ。
 
 取材嫌いなフェルナンドは、編集部からのインタビューの依頼を最初は断っていたが、私が仲介して実現する運びとなったのだ。「君の頼みなら仕方ない」と言ってインタビューに応じる彼を撮影しながら、ロッカールームから追い出されたエピソードが嘘のように思えてならなかった。

 最後にこの場を借りて、彼にメッセージを送りたい。

 フェル、君は偉大なサッカー選手である前に、信頼できる素晴らしい友人だ。新しいキャリアでの成功を祈っている。

文●ハビエル・ガルシア・マルティーノ text by Javier Garcia MARTINO
訳●チヅル・デ・ガルシア translation by Chizuru de

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