早大ア式蹴球部をサポートする元Jリーガー、嵜本晋輔。早大OB原博実と語る「大学サッカーの今とセカンドキャリア」

早大ア式蹴球部をサポートする元Jリーガー、嵜本晋輔。早大OB原博実と語る「大学サッカーの今とセカンドキャリア」

早稲田大学OBの原博実Jリーグ副理事長と元Jリーガーでア式蹴球部にスポンサードするバリュエンスホールディングスの嵜本晋輔代表取締役社長。写真:田中研治



12月10日発売のサッカーダイジェストでは、大学サッカー界の雄として名を馳せ、これまで数々のタイトルを獲得してきた、早稲田大学ア式蹴球部を特集。コロナ禍に見舞われた今季もチーム一丸で戦い、関東大学リーグ1部で熾烈な優勝争いを演じるア式の“今”を、あらゆる角度から伝えている。

 その中の一企画として実現したのが、2019年2月から、早大ア式蹴球部の胸スポンサーを務めている『バリュエンスホールディングス』の嵜本晋輔・代表取締役社長と、元日本代表FWの原博実氏とのスペシャル対談だ。
 
かつてガンバ大阪でプレーした元Jリーガーの嵜本社長が、大学サッカーをサポートする意義とは? Jリーガーのセカンドキャリア、アスリートとスポーツの可能性など、様々なテーマについて、早大OBでもある原博実氏と大いに語り合ってもらった。


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――原さんの頃と比べて、最近の大学生は変わったと感じますか?
 
原「大学の部活動そのものが変わってきたからね。今の学生は海外のいろんなサッカーも見ているし、昔みたいな『蹴れ、走れ』的な指導だとついてこない。選手を納得させるビジョンや練習方法を、指導者がちゃんと持っていないと」

嵜本「企業を束ねる私も、いかに現場のメンバーが腹落ちする状況を作るかを意識しています。トップダウンではなく、一人ひとりの個性を尊重しながら、私の意図や目的を分かりやすく噛み砕いてインストールしていく。今はそういったマネジメントが、もっと言えば世の中の変化に適応する『順応力』が、サッカー界も含めてあらゆる業界に求められているんです」

原「従業員はどのくらい?」

嵜本「グループ全体で800人くらいですね」

原「それはすごい。それこそマネジメントは大変でしょう」
 
嵜本「ですから、私たちの会社の人材採用要件は、『謙虚で素直な人間』なんです。自分の考えに凝り固まり、それまでの経験にしがみついている人は、世の中の変化に順応しづらいですから。我々は平均年齢が30歳くらいの若い会社なんですが、そうした若い人たちの価値観と、これまでいろんな経験をされてきた40代、50代のメンバーとのシナジーというか、噛み合わせについては、すごく意識していますね」

原「Jリーグ時代の同期は誰なの?」

嵜本「大久保嘉人、田中達也、ガンバ大阪だと井川祐輔、児玉新とかですね。ちなみに、現在香港リーグ3部で監督を務めている井川のことは、私が1年ほど前にアスリートとスポーツの可能性を広げるべく立ち上げたプライベートカンパニー、『デュアルキャリア株式会社』でマネジメントしています」

――その井川さんもそうですが、おふたりはJリーガーのセカンドキャリアについて、どうお考えですか?

原「例えば早稲田大学にも『人間科学部eスクール』という通信教育課程があるように、今は勉強しようと思えば道は数多くあるんだよね。ただ、人に言われてやるようじゃダメ。本田(圭佑)がああしていろんなチャレンジをするのも、自分自身が本当に必要だと思っているから。もちろん、カズ(三浦知良)やヤット(遠藤保仁)みたいに、サッカーだけに集中してキャリアを重ねる生き方もありだと思う。

 大切なのはプレーヤーとしての技量であったり、クラブで置かれた状況であったりを考えて、現役のうちから自分の将来像をある程度イメージしておくこと。今は俺たちの頃みたいに、大卒だ、高卒だって関係ない。仮に早稲田を出たからって、それで安心って時代ではまったくない。どこを出たかではなく、何を学んできたか、何を経験してきたか。Jリーガーになって花開く人もいれば、開かない人もいる。だからこそ大事なのは、自分で考えて、あちこちに転がっているヒントを探せるかどうかだと思う」
 

嵜本「私の場合は、ガンバ大阪から戦力外通告を受け、JFLの佐川急便に行って初めて自分を客観視できましたね。そこでサッカー以外の選択肢を見つけ、結果的に引退を決意したんです。今もまだ多くのJリーガーが、サッカー選手になったらサッカーを続けることが美徳というか、そういった暗黙のルールに縛られているように思います。

 サッカーを続けるべきか、辞めるべきかを決める際に重要なのは、そこに意図があるかどうかなんです。サッカーを続ける1年を、なんらかのリターンを得るための投資と捉えた場合、そこに明確な目的や意図がなければ、それは投資ではなく時間の浪費。例えば本田選手や長友(佑都)選手が今、デュアルキャリア的な動きで注目されているのも、彼らにはサッカーを活用して知名度を上げ、世界中にコネクションを作り上げていこうという、はっきりとした狙いがあるからだと思うんです」

原「彼らは選手でいる間のほうが、自分の商品価値が高いと分かっている。辞めてからいろんなことを発信するより、注目度も高いからね。当然、批判もあって、現役時代はサッカーだけやっていればいいという人もいる。岡崎(慎司)のような愚直な生き方もあると思うし、いろんなタイプがいていいんじゃないかな」

嵜本「原さんがおっしゃったように、自分自身がどうすべきか考えた結果、彼らはああいった現在のスタンスになっているんだと思います。いずれにしても、『サッカーしかない』から『サッカーもある』へ、考え方を変えていかないと。若い選手は年俸も低く、3年とか5年で解雇されるケースも多いですからね。そんな状況の中で私は、『デュアルキャリア』という会社を通してアスリートの価値を上げていくことを、人生のテーマとしてやっていきたいと思っているんです」
 
原「嵜本さんのように高卒3年目でプロを辞めたら、まだ21歳とか22歳。その年齢なら、なんでもやれる。逆に長く現役を続けたとしても、例えば35歳になってこれからどうするか慌てて考えるのではなく、それまでに新しい道へ進むための勉強や準備はしておかなきゃいけない。

 ただ一般的に、最初の2、3年はやっぱりサッカーに集中したほうがいいと思う。Jリーガーとして試合に出続けるのは簡単じゃないからね。もちろん、中田(英寿)のように、プロ入り前からしっかりとした将来像を持っていて、それが当たり前になっているような選手は、語学の勉強なんかも続けてやればいいと思うけどね」

嵜本「選択肢は持つべきでしょうね。今はあまりにも情報に触れていない選手が多い印象があって。やはり世の中で何が起こっているのかを知っているのと知らないのとでは、見える景色も変わってきますからね。情報に触れることで、選択肢も増える。選択肢を持つことで、サッカー以外の何かに手を伸ばすきっかけにもなる。

『サッカーだけ』の考え方は、ある意味一本足打法?に近くて、リスクが大きい。練習以外の時間をいかに有意義に、自己投資の時間に充てられるか。その積み重ねでセカンドキャリアも変わってくるんじゃないでしょうか」
 

原「ところで、どうしてア式の胸スポンサーになったの?」

嵜本「まず、私はサッカー界、スポーツ界に育てられたという思いがあって、その恩返しという意味がひとつ。それにア式の出身者には、原さんをはじめ、岡田(武史)さん、私のガンバ時代の監督でもある西野(朗)さんなど、数々のレジェンドがいますからね。日本のトップ企業を目指す『バリュエンス』が、大学サッカー界で日本一とも言われるア式の胸スポンサーを飾るということは、ある意味、当然の流れなんじゃないかと思えたんです」

原「俺が1年の時に、2年に岡田さん、3年に加藤久さん、4年に西野さん。かなりキャラクターの濃い人たちがいたね(笑)」

――厳しかったですか?

原「ある程度の上下関係はあったけど、他の学校よりは緩かったんじゃないかな。ピッチの上では公平。それはア式の伝統だったね。大学の寮に入って、先輩や同級生たちと過ごす中で、栃木から出てきた井の中の蛙が、サッカーだけじゃなく、それ以外の多くのことも学ばせてもらった。当時からラグビー部は強くて、競争部には瀬古(利彦)さんもいたし、そうした運動部仲間からも刺激をもらったね。大学の4年間は、社会勉強に近かったかもしれない」
 
――今季のJリーグは大卒選手の当たり年ですね。

原「日本の大学サッカーって、レベルが高いからね。Jリーグに行っても試合に出られないなら、大学で実戦経験を積むというのは、ひとつの選択肢だと思う。俺もFC東京の監督時代には、日本代表の加地(亮)をベンチに置いて、当時早稲田に在学中で特別指定選手だった徳永(悠平)を使ったりしたからね。ただ大学で難しいのは、3、4年生になると大学生活に馴染んでしまうのか、急に伸びが鈍ること。同世代としか試合ができない環境も影響しているんだろうけどね。それで嵜本さん、早稲田のスポンサードをされて、何かいいことありましたか?(笑)」

嵜本「実は体育会系の学生の採用応募が増えていて、これは間違いなくア式をスポンサードした成果です。サッカーやスポーツに対する理解が深い企業だと、学生も感じてくれたのでしょう。最近、アスリートのためのデュアルキャリア採用プロジェクトとして、『アスリート100人採用』というのを大きく打ち出したんですが、この2か月ほどで20名の応募をいただき、実際4名の内定が決まりました」
 

原「いいね。それはすべての競技で?」

嵜本「サッカーが一番多いんですけど、ラグビーとか陸上とか、あらゆる競技の方から応募をいただいています。本当はスポーツを続けたいんだけど、様々な事情で辞めざるを得なかったという社会人はすごく多いので、そういった方々に、練習や試合などで休まなくてはならない時は休んでいただきながら、スポーツと仕事を両立してもらうための制度を設けたんです」

原「それはいいなぁ。じゃあ、あれやってよ。選手だけじゃなくてレフェリーも。これからどんどん若い人を育てたいんだけど、レフェリーで多いのは教員とか公務員で、なかなか働き方が難しくてね。プロフェッショナルレフェリーになれる人はほんの一握りだから、ひとつの選択肢として、嵜本さんの会社で働きながらレフェリーを目指せるようになれたらいいな。真面目な人が多くて、結構優秀な人材がいるんだ」
 
嵜本「すぐにプロジェクトを立ち上げます(笑)。どんな競技もそうですが、それに夢中になれる人って、実はすごく少ないんですよね。特に今はコロナの影響があって、観客が入らずにクラブの収入が減ると、最初に手を付けられるのは人件費の部分になってしまう。そうして競技をあきらめざるを得ない人たちに、我々が手を差し伸べられたらと。アスリートというのは基本的に、自分自身を高める能力が優れているんです。だから別のフィールドでも、コツさえつかめばすぐに即戦力になれるはずなんです。社内にそういう人たちを抱えて、アスリートの可能性を証明していきたいですね」

原「確かにサッカーで一流になる人って、何かを持っているからね。スポーツって思いどおりにいかないもので、失敗したり、惨めさを味わったりしながら、人生の経験値を高めていくわけだよね。結局、そうやって人間として成長していかないと、プレーヤーとしても伸びていかない。カズがリスペクトされるのも、そういうところなんだよね。

 嵜本さんの会社で、競技を続けたいけど続けられない人たちをサポートしてくれたら、その人たちの可能性も広がるし、スポーツ界全体にとってもありがたい。俺も早稲田を出たあと、三菱重工で働きながらサッカーをやっていたけど、要するにあれの新時代バージョンだよね」
 
――原さんはOBとして、早稲田の試合や練習を見に行かれたりするんですか?

原「Jリーグと日程が重なることもあって、なかなか行けないのが現状。ただそれ以前に、中途半端な気持ちで学生と関わってはいけないし、中途半端なことは言えないと思っていてね。昔、菅平のキャンプでお手伝いしたことがあるけど、その時は学生たちのひたむきさに心を打たれてしまった。本当に、純粋に勝つためにどうするかを彼らは考えていね。ああ、こういう気持ちを忘れていたなって、思い出させてくれたんだ」

嵜本「そんなひたむきな学生たちが、安心してプレーに集中できるような環境を作れたらいいなと思っています。サッカーを通じては、もちろん『競争力』も養われると思いますが、身に付けてほしいと期待しているのは、多種多様な人たちと関わり合いながら、共にチームを創り上げていくという意味での『共創』の感覚ですね。サッカーはチームスポーツで、2軍や3軍のメンバー、指導者、そして我々のようなスポンサーなど、いろんな方に支えられて成り立っている。その感覚を4年間で養ってほしいですね」

原「ア式のサポートをして良かったと思ってもらわないと(笑)」

嵜本「それを価値あるものにするのは我々の役目だと思っているので。ただ胸スポンサーをやっているだけでは意味がありません。今後、早稲田さんとどういう取り組みをしていくかが重要だと考えています」

取材・文●吉田治良(スポーツライター)
 

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