【安永聡太郎】リーガ制覇も狙える! 注目の“ダークホース”セビージャの「補強」と「戦術」の特長を深掘り

【安永聡太郎】リーガ制覇も狙える! 注目の“ダークホース”セビージャの「補強」と「戦術」の特長を深掘り

昨シーズンにEL制覇とリーガ4位を達成したセビージャ。今シーズンもその好調を維持している。(C) Getty Images



 今シーズンのリーガも、約3分の1を消化している。マドリー、バルサの二強はなかなか調子が上がらず、久々にアトレティコが首位に立っていて混戦の様相を呈している。

 この連載で、そのアトレティコやレアル・ソシエダといった注目チームの基本的な戦術を解説してきたけど、今回は「セビージャ」について話をしていきたい。

 このクラブを語る上で、やはり選手強化で手腕を振るうモンチSDの存在は外せない。彼抜きでセビージャを語ることはできない。モンチが獲得してくる選手の質は非常に高い。その獲得方法の特徴として、大金は支払えないけど、それなりの給料で長期契約を結ぶことが挙げられる。

 資金的にトップクラブには及ばないけど、選手を信頼して長い契約をすることで安心できる環境を与える。たとえば、28歳なのに4~5年の契約を結んだりする。他のクラブだと1年とか2年とかの短期契約が多いから、選手の立場からすると即結果を出さないといけない環境にさらされる。

 ただセビージャのように契約が4年くらいあると、選手にとってはリーガに馴染む時間、チームに馴染む時間を少し余裕をもって設ける心の余裕ができる。だから、こういった契約の仕方はモンチの手腕として長けた部分だと思う。

 チームは昨シーズンからロペテギが監督になった。スペイン代表では良い結果を出しながら、ワールドカップ直前でマドリーに引き抜かれて本番を戦うことなく代表監督としての仕事は終わった。

 そして、マドリーでもスタート時の戦術はとてもおもしろかった。しかし、あのクラブは選手たちを戦術で納得させることも大事だけど、やっぱりカリスマ性が重要な部分もあって、ロッカールームの選手たちをコントロールできれば戦術は個性を生かすもので、超一流が集まっているから結果が出てしまう。

 選手たちがある程度の範囲は解決してしまうようなチームだから、細やかな要求もするロペテギはハマらなかった。もちろん彼の責任だけでなく、クリスチアーノ・ロナウドがいなくなった大変なシーズンだったこともある。ずっとチームの4割近くの得点を叩き出していた選手を急に失ったわけだから、それを補う必要があった。最初の頃はチームにゴール前の自由を与えるところがうまくいっていたけど、徐々に歯車がかみ合わなくなった。

 自由って難しいよね。規則性がなくなって、全体の動きが重くなって、リズムとタイミングがあわなくなって「ロペテギは選手をマネジメントできない」的なことを言われるようになった。
 
 モンチは一度ローマに出て行ったけど、セビージャに戻ってきたときに「ロペテギの仕事ぶりにピンときたのか」、彼に声をかけた。当時は賛否で言うと否がとても多かった。だけど、ロペテギはアンダー世代に指導していた選手やモンチが連れてきた選手をうまく形にしていった。

 基本システムは4-3-3なんだけど、選手をうまくハメて、使いこなしながら結果を出した。試合を見ていても「役割分担が上手だな」と思う。昨シーズンも最初の頃はチームがあまり機能しなかった。それは1トップのルーク・デヨングがハマらなかったから。

 彼もオランダでは結果を残したけど、アラサーのタイミングで新天地を求めてセビージャにやってきて苦労した。昨シーズンは期待されたわりに数字として散々な結果だったけど、少しずつ機能している兆しはある。

 改めてモンチの見る目、補強の仕方はすごい!

 セビージャというチームに興味があるのも確かだけど、SD的な目線でサッカーを見るのも一つの楽しみ方。日本サッカーがモンチを学ぶのは非常に大きなものかな、と。ぜひ日本に来て、一度講習を開いてほしいよ。

 選手のどこを見ているか。
 どんなネットワークを張っているのか。

 良い選手と自チームにハマる選手は違う。良い選手だけど、チームにハマらないケースをどう判断しているのか。そして、そのとき、監督とのコミュニケーションの取り方と考え方はとても重要になる。このクラブは財政的にスペインでは豊かなほうであっても、トップ・トップではない。ヨーロッパリーグ(EL)で戦ったマンチェスター・ユナイテッドなどと比べても随分劣る。他と選手の取り合いをしたら勝てる環境ではない。トップ・トップと争わず、その中でどうやってオファーを出しているのかを知りたいよね。

 知っている限りでは、声をかけるタイミングは一般的に若いか、30歳目前で他のオファーだったら1、2年契約になるような選手。そういうところに位置するプレーヤーに長期契約をオファーする。選手の安定を保証するところで勝負している。

 実際に、この選手獲得方法が現在のセビージャの選手層を作り出しているのは間違いない。スーパーな選手はいないけど、チームにとって必要な選手、必要な能力を見極め、きちんとはめ込んでいる。モンチは2シーズンほどクラブを離れてローマで仕事していたけど、昨シーズンから戻ってきてELを優勝し、チャンピオンズリーグ(CL)出場権も勝ち取った。

 セビージャは今シーズンもサイドからイケイケの仕掛けを見せる。

 ゴリゴリタイプのウインガーのオカンポスは、マドリーも注目している存在。日本では、あのサイズのウインガーはまず生まれない。きっとボランチで潰し役か、2トップのセンターフォワードかで起用すると思うけど、アルゼンチンという土壌にかかれば「オカンポス」をウインガーに育て上げてしまう。

 185センチもある選手がサイドアタッカーとして育った背景を詳しくは知らないんだけど、モンチはそういう選手を連れてきた。最近の傾向でいうと右利きの選手を左のアタッカーとして起用し、カットインからシュートを狙わせるのが主流のなか、セビージャはウイングとしての仕事を求める。このチームはサイドを切り崩して突破し、チャンスを生み出すことが好きなんだよね。

 当然、オカンポスはタッチライン際に利き足の右足がある状態でプレーしている。

 実は、彼とコンビを組むヘスス・ナバスが右サイドバックにコンバートされて調子を上げ、スペイン代表に復帰するくらいまでになった。オカンポスと縦関係のコンビは非常に相性がよく、二人とも前への推進力を生かしつつ、5レーンの外側の2レーンを二人で上手に使い分けながら違いを生み出している。

 特にヘスス・ナバスはオーバーラップしたときには「やり切る」という意志の強さが若い頃を上回る気迫でプレーしているように見える。縦の仕掛けからのクロス。グラウンダーの早いクロスだったり、巻いたファーサイドへのクロスだったり、ニアサイドを狙った絶妙なスピードボールだったり。本当にクロスのパターンも豊富で質も高く、狙いも明確だ。
 
 これが昨シーズンから披露しているセビージャのおもしろい攻撃の基軸。スペインのアンダルシアという1対1をこよなく愛する地域で、ウインガーをこよなく愛する土壌にハマるチーム構成。右サイドの構築は非常にうまくハマっている。

 一方、左サイドはマドリーからレンタルした左利きのサイドバック、レギロンが昨シーズンは力を発揮していた。

 彼はウイングを外に張らせ、自分は内側のレーンで仕事をしたいタイプ。ペナルティエリア付近で斜めからボールをもらって中へと侵入していくのが得意。だから、左サイドの攻撃は大外を撒き餌に使って内側をどう生かしていくかで構成されていた。

 中盤には、昨シーズンにエイバルから獲得したジョルダンと、バネガを配置することによってサリーダ・デ・バロン(直訳は「ボールの出口」。ビルドアップに似た言葉で、攻撃の始まりを表わすスペイン特有の表現)を引力としてボール、相手を引き付け、効果的にやってくれていた。

 どういう状態でボールを持ち出すか。どの状態でも数的優位な状態を作り出すために一枚多く確保し、自陣ではノンプレッシャーでボールを前に運び出したいけど、現代サッカーは高い位置でプレッシャーをかけ、ボールを奪ってショートカウンタ―を仕掛けることがベストで、それが一つの手段となっている。

 後ろを恐れず、前から守備をハメ込みに来るチームが増えているなか、バネガを置いておくことで、彼は引力として自分にプレスを集めることで優位にゲームを進められることを楽しんでいるタイプ。ビジャレアルのパレホも同じ。ボールが集まって、人が集まってくるからそれを利用してどんどん人を剥がしながらプレーを進めていく。「寄せさせて剥がす」を繰り返すんだ。
 
 昨シーズンのセビージャは、バネガを中心にゲームをコントロールをしていた。

 フェルナンドというピボ(アンカー)の選手もすばらしく、最終ラインのジエゴ・カルロスとクンデを含めて、いつも「こんなにいい選手がまだいるんだ」と思う選手をセビージャは見事に発掘してくる。彼らを監督のロペテギがうまく適応させて、今シーズンからバネガがいなくなって空いた穴をうまく補完性を考えながら他の選手で埋め合わせしている。

 勘違いをしてはいけないのは、バネガはパサーだけに収まっていないこと。日本で普通パサーと呼ばれる選手はボールを奪うのが下手だったりする。でも、バネガは本当にうまい。自分が勝負できる勝率の高い1対1の状況に持って行くことができる。

「ここは奪える」と思った守備では100%に近い確率で勝つことができる。

 その代わりに相手と入れ替わったりしそうになってファウルをしてしまったりするけど、「行く」という判断そのものに間違いはない。自分の特徴をよく知っている選手だから行けないときは行かない。こんなシーンを目にすると組織にハマらない、勝手に行くという見方をされるかもしれないけど、それだけを守って苦手な方向での「守備に力を使わせてしまう」と得意な部分が出せない。

 スペインの選手が上手なところはその差し引き。

 バネガの守備はこれで構わないと周囲が思っている。バネガはインターセプト率、ボール奪取率が高い。その代わりに入れ替わられることもある。自分がイケると思った場面では100%の力で潰しに行くし、フィジカル、強さが関係のない部分が非常に長けている。ボールを持っているところもそうだけど、ボールを持っていないところにも注目すべきところ。

 今シーズンはバネガが移籍し、バルサからラキティッチが加入してその役割を担い、レガネスで活躍したオスカル・ロドリゲスも少し役割は違うけど、おもしろい魅力がある新戦力だ。
 

 唯一の懸念材料は左サイドバックのレギロンが抜けた穴だ。

 現代サッカーにおいてサイドバックは幅をとったり、内側を使ったり、ゲームメイクをしたり、大きな役割を担うから。スパーズに移籍してしまったレギロンがいなくなった穴を感じる。左利きのカリム・レキクという選手ではなく、アクーニャを使っていたけど、ケガで離脱。最近はビダルを起用しているけど、右利きの選手を左サイドにあてがわなければいけない状態だ。

 これまでのチームの戦い方を考えると、左サイドで左利きの選手がオープンにボールを持ち、斜めにボールを供給できたほうがいい。特に12月5日のマドリー戦(0-1)は左サイドからの攻撃が停滞してしまって、ボールがうまく回らず、右サイドからの攻撃が多くなった。

 この試合は非常に重たいゲームだったし、CL5戦目にチェルシーにも0-4で大負けてしまった。2チームともターンオーバー制を導入していたけど、ここまでの差が開くとは思わなかった。アクーニャのケガ次第だけど、ここは対処しないといけないのかな。

 特にセビージャもポジショナルプレーとして「ウイングをどう生かしますか」、「サイドバックとのコンビでサイドをどう崩しますか」、「中央にいるエン=ネシリやデヨングというターゲットマンにどうボールを預けますか」という点が勝敗のカギを握る。でも、現状は左サイドが機能していないというか、プラスを生み出すには弱く感じる。

 それでも今のマドリーにはホームだったし、勝ってほしかった。期待するほど、いい決定機を作ることなく、オウンゴールでやられて星を落としてしまった。その原因となったのは左サイドだったと思う。左サイドの不具合が大きく響いた。
 
 サイドアタックを深い位置でどう行なうか。

 そのために、サイドバックを高い位置に取らせ、2CBが広がってピボのフェルナンドが下がってゲームを作る。インテリオール(インサイドハーフ)が右にジョルダンと左にラキティッチを置いた「サリーダ・デ・バロン」を基本としたときは、中央にラキティッチが入ってきてひし形を作りながら試合を構築していく。もちろんジョルダンが中央の位置に入ることもある。

 大きな役割としてはラキティッチがゲームコントロール、ジョルダンがバランスコントロールみたいなところで、両サイドを高い位置にキープさせる。

 右サイドのコンビは昨シーズンに築いた関係を生かしながら比較的に自由にプレーし、左サイドはウイングの選手がサイドに張って後方のサイドバックが内側をとる。これが昨シーズンまでの基本的な戦い方。今シーズン、この左サイドはレギロンの穴埋めができず、戸惑ったところがあって構築中といった感じだ。

 だから、今シーズンは目をつぶっても「こうやったらこうですよね」といった再現性の部分で言うと昨シーズンよりは減った。それは選手の入れ替わりがあるから仕方がない。得点力は減っているし、ギリギリ勝っている試合が増えているのは間違いないので、モンチとロペテギの腕の見せどころだ。

 整理すると、セビージャは自陣も含め相手陣内の3分の2エリアに入ったところで「チームとしてどうするのか」が明確だから、基本的には選手もプレーがしやすいと思う。

 1対1で仕掛けない。
 背後にランニングしない。

 これは選択肢として絶対ありえない。なぜならセビージャはこの状況を作るためにゲームをセットアップしているから。仮のこのエリアでボールを失おうが、ゴールキックになろうが、深い位置だからロングカウンタ―でやられることは少ない。

 どちらかといえば、何度もボールを戻しながらゲームメイクをやり直すのではなく、セットアップしてダメならサイドチェンジを繰り返し、そこでいい状態ができればサイドアタックを仕掛けることがチームとしてやるサッカーだ。

 当たり前のように仕掛ける。
 当たり前のように背後を突く。
 当たり前のようにクロスを上げる。

 ここが明確だから選手が入れ替わったとしてもある程度はチームが安定している。もともとセビージャはウイングで戦うチーム。そこが明確だからモンチが連れてくる選手も活躍できる。チームに溶け込むときに新しいプレーを覚えることを要求されるのではなく、これまでやってきたことを出せばいい状態だから。評価されたものをそのまま出せばいい。もちろんピッチ上の相互理解の構築には時間がかかる。

 CLでの上位進出やリーガのトップ3を倒すには、セビージャの課題は左サイドになってくる。シーズンを通して戦う中で1月後半から2月くらいで固まってくればコンスタントに勝ち点をとれるし、上位チームとも良い戦ができるんじゃないかな。

 このまま上位の混戦状態が続けば、今シーズンに限っては優勝も狙える可能性はある。

分析●安永聡太郎
取材・文●木之下潤
※取材は12月7日に行っています

【分析者プロフィール】
安永聡太郎(やすなが・そうたろう)
1976年生まれ。山口県出身。清水商業高校(現・静岡市立清水桜が丘高校)で全国高校サッカー選手権大会など6度の日本一を経験し、FIFAワールドユース(現U-20W杯)にも出場。高校卒業後、横浜マリノス(現・横浜F・マリノス)に加入し、1年目から主力として活躍して優勝に貢献。その後はスペインのレリダ、清水エスパルス、横浜F・マリノス、スペインのラシン・デ・フェロール、横浜F・マリノス、柏レイソルでプレーする。2016年シーズン途中からJ3のSC相模原の監督に就任。現在はサッカー解説者として様々なメディアで活躍中。
 

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