フライブルクの好調を支える“最高額”のフランス人MF。ブレイクの裏にある“ぶれない”クラブ哲学とは?【現地発】

フライブルクの好調を支える“最高額”のフランス人MF。ブレイクの裏にある“ぶれない”クラブ哲学とは?【現地発】

クラブ史上最高額で加入した新戦力のサンタマリア。1000万ユーロに値すると判断した理由は? (C)Getty Images



 ブンデスリーガのフライブルクの好調ぶりが、ドイツで注目されている。

 シーズン序盤はなかなか勝星に恵まれず、10節までにわずか1勝と苦しんでいたが、12節のビーレフェルト戦を2-0で勝利すると、そこからクラブ記録となる5連勝。第16節でバイエルンに敗れるまでは、順位も8位まで押し上げていた(現在は9位)。

 好調の秘密について、ドイツの地元紙はざっくりと「1、新加入のバティスト・サンタマリアやエルメディン・デミロビッチが適応し、イタリア代表ヴィンチェンツォ・グリフォが復調」「2、3バックと4バックの併用が機能」「3、特定の得点源に頼らない攻撃陣」の3つを要因として挙げている。

 それでは、これらをどのように実践したのか。語るには、クラブの確かな哲学に裏付けされた取り組みがあることを度外視して考えることはできない。

 まず、どれだけ上昇気流にのっていても、フライブルクでは監督も選手もスタッフも絶対に浮かれたりはしない。それはクラブの置かれた立ち位置と自分たちがやるべきことがはっきり、よくわかっているからだ。MFニコラス・ヘフラーは「僕らにとって一番大事な目標は降格しないこと」と言い切り、「それが達成されるまでは夢を見たり、力を温存したりする理由なんてひとつもないよ」と語っている。
 
 今シーズン開始前のフライブルクは、例年通り、主力選手を失うところがスタートだった。ドイツ代表に選出されるまで成長したFWルカ・バルトシュミートとCBロビン・コッホはそれぞれベンフィカとリーズ・ユナイテッドへ、そして正GKアレクサンダー・シュボローはヘルタ・ベルリンへ移籍した。

 失った戦力を補強するために、どのような選手をリストアップすべきか。どのクラブでも、それぞれの思惑やプランに応じて探すわけだが、その選手がチームに”ハマる”かどうかは、未知数と捉えるところが多いのではないだろうか。

 フライブルクにおいてもそれは例外ではなく、”外れ”と評される移籍話もある。それでもこのクラブの入念な分析と確固たる意図をもって選手獲得に動く姿勢は、高く評価されているのだ。

 どんな選手がチームに合うのかを分析するためには、自チームにどんなサッカーを目指し、そのためにはどんな選手が必要かという自クラブのサッカー哲学に基づいたプランがなければならないし、このクラブでプレーする意味を正しく解釈するコンセプトがなければ難しいだろう。

 フライブルクのスタイルは、ビルドアップからボールを大切にコンビネーションで丁寧に運ぶ。オフ・ザ・ボールの動きでこまめに身体の向きとポジショニングを変えながら主体的にパスを呼び込む。ショートパスだけにこだわらず、ダイナミックなサイドチェンジで一気に展開する。起点を作ったら、後ろから前のスペースに流れ込み、攻略していく。

 基本的なパスやトラップ、ドリブルという技術能力以上に、使うべきスペースをかぎわけて適切なアクションに結びつける認知能力、試合の流れを的確に読むゲームインテリジェンス、チームのために負荷の高いアクションを連続で行なうことをいとわないメンタルティ。これらが備わっていなければ、このチームではピッチに立てないし、そもそもそうした選手を補強リストにはあげないのだ。

 そして、チームにドンピシャの選手を見つけ出してくるのがSDクレメンス・ハルテンバッハだ。もとはフライブルクの育成アカデミーでチーフスカウトを長年務めており、その目利きの確かさは素晴らしい。名前で選手を選ばない。どこのリーグでプレーしているかには捉われない。選手の資質にルーペを当てて、人間性やこれまでの取り組みを調べ上げていく。

 今シーズンでいえば最大の補強ポイントにボランチがあげられていた。パスを引き出し、スペースを作り出し、攻守にカギとなるプレーをするいわばチームの心臓となるポジションにどんな選手が必要なのか。
 
 そうして補強されたのが、サンタマリアだった。フランス1部のアンジェに支払った移籍金は、クラブ史上最高額の1000万ユーロ(約12億5000万円)。これまでは、多額の移籍金で即戦力を獲得するより、まだ他クラブが目をつけていない、若くて粗削りでも、将来有望な選手を主に獲得してきたフライブルクにしては、相当思い切った手ではないか。

 このことが現地で話題になった際、クリスティアン・シュトライヒ監督が「チームにとって補強する必要なポジションがあり、どうしても必要な選手がいるのであれば、そのために投資をする。幸いにも我々は、金額を支払えるだけの経済的な地力を身につけている」と話していたのが印象的だった。

 だが、ドイツ語が一切話せないフランス人のサンタマリアは、適応に時間がかかってしまう。チームが勝てていないというのも、二重にストレスになったことだろう。真面目な選手ほど何とかしないと自分ができること以上のことをやろうとしてしまうものだ。それでも、シュトライヒ監督は一切慌てていなかった。
「言葉は大事な要素だ。特に、たくさん周りの選手に指示を出さなければならない中盤センターの選手にとっては、とても大事な要素で、試合の行方を左右するともいえる。もちろん、彼はまだドイツ語をそこまで話せるわけではない。だが、彼は勤勉にドイツ語を学び、その言葉を口にし続けている」

 サンタマリアが自身のツイッターで積極的にドイツ語を使ったりしている様子を、フライブルクファンはとても好意的に受け止めている。チームメイトもそうだろう。

 そして今、周囲のサポートを受け、サンタマリアは素晴らしいプレーでチームの勝利に貢献している。運動量が豊富で1対1に強く、ボランチの位置からでもゴール前に何度も顔を出し、精力的にゴールを狙う。まさにチームが必要とするすべての要素を還元してくれているのだ。

 クラブの礎を築いたフォルカー・フィンケが提唱した育成クラブとして生きる道。ひとりひとりの選手と丁寧に向き合い、一人一人の選手が育っていく環境を整え、そうして成熟した選手を高値でトップクラブへ売却していく。もう30年以上、フライブルクは自分たちの立ち位置を、一度も崩していない。

 以前、SDヨハン・ザイアーが「我々にとって大事なのは健全に成長していくということだ。いつでも我々らしくいなければならない。自分たちの文化を守り、謙虚であり続ける」と話していたことがあった。

 この哲学はクラブ首脳陣、運営陣、監督・コーチ・スタッフ、選手、そしてファンに至るまで浸透している。おごることなく、卑屈になることもなく、彼らは常に自分たちの全力で戦い続ける。

 筆者プロフィール/中野吉之伴(なかの きちのすけ)

ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「サッカー年代別トレーニングの教科書」「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」。WEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)を運営中

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