先発は4年で11試合、懲罰でユースに降格…神戸の新戦力・リンコンの“リアル評”。日本行きの決め手となったJリーガーの存在とは?【現地発】

先発は4年で11試合、懲罰でユースに降格…神戸の新戦力・リンコンの“リアル評”。日本行きの決め手となったJリーガーの存在とは?【現地発】

神戸への完全移籍が発表されたリンコン (C) Getty Images



 紆余曲折の末、ヴィッセル神戸に入団が決まったリンコン。日本では10年に一度の金の卵のような騒がれ方をしているようだが、ちょっと待ってくれと言いたい。それはいつの話だ、と――。

 たしかに、リンコンは有望な選手だった。16歳でトップチームに入ったのはそれに値する実力があったからだ。ブラジルU-17代表でも活躍し、フラメンゴも将来を期待して2023年までの長期契約をし、違約金5000万ドル(約50億円)を設定した。

 しかし、彼の場合は「すごい」という評判があまりにも先行しすぎた。トップチームに加入した頃をピークにそのパフォーマンスは低下してくる。それはスタッツからも明らかだ。

 彼がスタメンとしてプレーしたのは、この4年間で11試合のみ。2018年に2試合、2019年に5試合、2020年に4試合のみだ。途中出場が52試合で、そのうちの33回は後半の30分以降にのみプレーしている。つまり、彼はほとんどの試合で15分以下しかプレーしていない。一昨年のFIFAクラブワールドカップのリバプール戦でも、途中出場しているが、ごく簡単なシュートをミスして、戦犯にあげられている。

 この伸び悩みは、彼があまりにも早くトップチームに入ってしまったからとも言われている。基礎をきちんと固められなかったことで、一軍のプレーについていけず、フィジカル、テクニックの面だけでなく、メンタル面でも準備はできていなかったという指摘もある。

【動画】神戸加入が決まったリンコンのゴールシーンはこちら
 リンコンには今回3つのチームからのオファーがあった。ヴィッセル神戸、MLS(アメリカ)のシンシナティ、そしてキプロスのパフォスというチームだ。真の逸材であれば、ヨーロッパのビッグクラブが獲得に動くはずだし、そうでなくともブラジルの強豪がオファーしてくるはずだ。

 実際、彼とフラメンゴのU-17チームで一緒だったヴィニシウス・ジュニオールはレアル・マドリーの選手となっている。当時はリンコンの方が多くのゴールを決めていたのだが……。

 そのリンコンの代理人は3人いるのだが、とにかく彼らはことあるごとにチームのやり方に口を出す。なぜリンコンをもっと使わない、と。特に今シーズンの開幕前にいくつかのオファーがあったにもかかわらずフラメンゴが首を縦に振らなかったことで、代理人とチームの関係は険悪になった。代理人があまりにもうるさいので、チームはほとほと嫌気がさし、リンコンを本気で売りたいと思うようになったのだ。

 今年の8月にはヨーロッパのチーム3つからオファーが来て、10月にはウクライナの名門ディナモ・キエフからレンタルの申し出であったが、フラメンゴはこれを断った。フラメンゴは完全移籍での売却を希望していたからだ。

 11月の半ば、リンコンが酒を飲んでパーティーで騒いでいる動画を元チームメイトがSNSにアップしてしまい、ペナルティとしてベンチからも外されるようになった。これにも代理人が噛みつき、両者の関係は完全に決裂した。フラメンゴは彼が20歳になる前ぎりぎりに(12月16日が誕生日)トップチームから除名し、U-20チームに落とす。3年間トップチームにいた選手にとっては屈辱の他なかったろう。

 リンコンはU-20の初日の練習に行かず、その翌日には普通の顔をしてトップチームの練習に行ったが、そこに彼の名前のロッカーはもうなかった。

 こうして、選手、チーム、代理人、誰もが移籍を望むようになった。リンコン自身は飼い殺しにされているようなものだから別のチームに行ってプレーしたい。フラメンゴは早くリンコン(とその代理人)を厄介払いしたい、代理人は選手がチームを移ればマージンが入るので、移籍は大歓迎だ。

 行先の候補としては、パフォスがまず手をあげ、フラメンゴはこれに乗り気だったが、無名のキプロス・リーグには行きたくないとリンコンがごねてご破算となった。その後ヴィッセル神戸からオファーが来て移籍は決まりかけていたが、MLSのシンシナティが完全移籍の条件でそれより高い金額をつけてきた。チームは売却を望んでいたし、代理人は移籍金が高ければ高いほど嬉しい。

 しかしここでリンコン自身が待ったをかけた。「ヴィッセル以外には行きたくない」と言って来たのだ。その理由はアンドレス・イニエスタだ。
 
 フラメンゴの現在の監督はかつてのサントスの名GKロジェリオ・セニだが、2020年の7月31日から11月9日まではドメネク・トレントが務めていた。トレントが監督の間は、リンコンもほとんどの試合でベンチ入りをし、途中出場でプレーする機会も多かった。指揮官との関係が良好だったのは間違いない。

 トレントは、スペインのカタルーニャ出身で、2008年から2012年まではバルセロナでジョゼップ・グアルディオラのテクニカルアナリストを務めていたこともあり、イニエスタとはかなり仲がいい。彼がスペインの名手のことをリンコンに語ったとしても不思議ではないだろう。

 いずれにしても、リンコンは神戸でイニエスタと一緒にプレーをするというアイデアにかなり惹かれたようだ。神戸が約束してくれた背番号10をつけて世界的プレーヤーとプレーすることになるのだ。

 彼の父親も『グローボTV』のインタビューでこう語っていた。

「イニエスタのそばでプレーすることは、他では得られない貴重な経験だ」

 そこで代理人はヴィッセルにオファーを釣り上げるように、そしてレンタルではなく完全移籍にするように水を向けた。そうでないとアメリカに売ってしまうと。しかし神戸が値をあげるとシンシナティもあげてくる(ブラジルのクラブのやり方をよく知る者としては、本当にシンシナティが値段を釣り上げたかは疑問が残るが)。

 2日間、ヴィッセルとシンシナティの間でリンコンのオークションが繰り広げられ、結局ヴィッセルは300万ドル(約3億円)を支払って、リンコンを完全に買い取ることにした(リンコンがACLに出場権を獲得した場合にフラメンゴにボーナスが渡されることも契約に入っている)。

 これには驚きだ。それは私の周りの記者も同じだ。ブラジルにはセリエA(1部)、B(2部)合わせて1000人近くの選手がいる。トップチームでコンスタントに良いプレーをしていて、彼よりずっと安い選手は山ほどいる。

 300万ドルはトップチームでプレーもしていない選手につける値段ではない。プレーしていないのは代理人のせいもあるかもしれないが、もし彼が本当の逸材ならば、フラメンゴはいくら代理人が厄介でも使っているはずである。つまり彼らはリンコンをその程度の選手としか見ていないのだ。

 その証拠に、かつての契約時に決めた5000万ドルの違約金の話は、今回は全く出てこない。そんな大金を払ってまで、彼を欲しがるチームがあるとはもう思っていないのだ。ブラジルのスポーツ紙『ランス!』は「リンコンが至宝から、違約金の5%に満たない選手になるまで」と銘打って彼のこれまでのストーリーを綴っている。
 
 もちろんまだ若い彼が今後どうなるかは未知数だ。もともとポテンシャルはある選手だけに、イニエスタの横でビッグプレーヤーに化ける可能性はある。

 グローボTVの著名な記者であるエリック・ファリアは、「もしポテンシャルを十分発揮することができれば、今回の移籍はフラメンゴがヴィッセルに選手を寄付したのも同然となるだろう」と語っている。

 また「リンコンが出て行ってせいせいする」という論調の多いフラメンゴ・サポーターの中で、ある者はこう述べている。

「リンコンはフラメンゴを出て行った方がいい。もっと秩序ある別天地で、心を入れ替えやり直すべきだ。そうでなければ、彼は早いうちにつぶれてしまうだろう」

 ヴィッセル神戸のためにも、リンコンのためにも、今回の日本行きがすべて良い方に転ぶことを願っている。

文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。

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