「サカイ、流暢」酒井宏樹のフランス語会見に、記者団から送られた“励まし”の拍手! その様子が現地ファンの感動を呼んだワケ【現地発】

「サカイ、流暢」酒井宏樹のフランス語会見に、記者団から送られた“励まし”の拍手! その様子が現地ファンの感動を呼んだワケ【現地発】

酒井がフランス語で記者会見に臨んだ姿が、現地で称賛されている。(C)Getty Images



 そのコメントは現地時間1月23日夜、モナコ対マルセイユ戦(3−1)の真っただ中にテレビから流れてきた。

「ヒロキ・サカイがフランス語で記者会見しましたね。しかもジャーナリストたちが拍手をしましたよ」

 この日の中継局『CANAL+』で解説を担当していた元フランス代表、エリック・カリエールのコメントだった。その声にはリスペクトが籠っていた。

 フランス人ジャーナリストが記者会見で拍手することなど、まずない。フランス人とフランス・メディアは、おそらく、どこの国より批判精神が旺盛だからだ。それは民主主義とジャーナリズムの健全さを示してもいるとも思う。

 私が、記者会見でフランス人ジャーナリストたちが拍手するのを見たのは、何十年もフランス代表広報長を務めあげたフィリップ・トゥルノン氏が、2018年ワールドカップ優勝を置き土産に引退し、ロシアでキャリア最後の記者会見を仕切ったときの中継ぐらいである。
 
 それが、ローカルレベルとはいえ、日本人の酒井宏樹に拍手が送られたのだ。フランス語を披露したのは導入部だけだったが、フランスの言葉を語り始めた酒井に、現地のジャーナリストたちは、励ましの拍手を送ったのである。

「フランス語で喋ります(笑)。僕のフランス語は前よりいいと思います。前よりずっといいと思っています。ただ、記者会見用には“まだ”なんです。僕にはちゃんと答える責任があります。僕とあなた方は、友だちとかお隣さんとかではなく、プロフェッショナルな関係だからです。なので、すみません。ここからはまた日本語で話して、彼が通訳します」

 緊張して照れながらも、笑顔がこぼれていた。

 現地の反応は、「なんだ、ちゃんと話せるじゃん!」であった。ピッチ上でチームメイトと言葉を交わす雰囲気からしても、フランス語で会話ができることは分かっていたが、こんなにきちんと話せるならば、何の遠慮も要らないというもの。日本人だからでもあるだろうが、私にはアンドレ・ヴィラス・ボアス監督のフランス語の発音の方が、わかりにくいほどだ。
 

 それにしてもフランス人ジャーナリストが拍手するとは!

 これについてあるマルセイユ狂は、「どんなに疲れても、どんなに打撲を食らっても、チームメイトさえ諦めてしまっていても、サカイだけはマルセイユのために戦士となって闘い続けているんだ。ああいう選手を励まさないでどうするんだ。その努力に拍手するのは当然だよ!」と語気を強めた。こういうのを人徳と呼ぶのだろう。

 この会見映像は『L’EQUIPE』や現地メディア『LE PHOCEEN TV』などでいまも見続けられ、好感を与えている。『LA PROVENCE』では、「サカイ、(ほとんど)流暢」のタイトルまでついた。

 現在、チームの不振から、オランピック・ド・マルセイユの多国籍ぶりと言語コミュニケーションの問題が取り上げられている。「ナガトモ(長友佑都)とチャレタ=ツァルがコミュニケーションできないから失点したんだ!」(『FRANCE FOOTBALL』誌のナビル・ジェリット記者)といった声や、「だいたい英語も話せないんじゃないか?」といった辛辣な言葉も飛び出していた。
 
 一方、元フランス代表のジョアン・ミクーは、「ドイツにいたときはみなが英語を話せたので、英語でコミュニケーションした。でもイタリアではイタリア語でコミュニケーションした」と自らの経験を語り、現地の言葉を扱う困難さと重要性の双方を指摘。その後も、外国人選手のフランス語能力にスポットライトが当てられている。

 酒井はこうした批判を跳ね返すために、記者会見に臨んだのだろう。

 マルセイユはモナコ戦で、前半を0−1とリードしながらも後半に逆転され、敗北した。だが酒井はいつもどおり終始奮闘していた。

 マルセイユが3試合連続で黒星を並べたのは5年ぶり。次のレンヌ戦で流れを変えられない場合、先行きは怪しくなってくる。すでにサポーターの怒りは爆発寸前で、ヴェロドロームの観客席には恐ろしい横断幕も出現し始めた。

 相変わらず攻撃が組み立てられず、チーム内もギクシャクしている。そんな今だからこそ、謙虚なサムライに期待したい。そう、守備に貢献しつつも、攻撃をつくるのだ。新加入のCFアルカディウシュ・ミリクにクロスを積極的に出して、アシストを生む。チームが意気消沈してきたら、思い切りゴールも狙って決める。酒井にそれができれば、チームもまた回るようになるはずだからだ。
 さて、言語について言えば、ひとつ思い出すことがある。私も大昔、ソルボンヌ大学で黙していた。「発音や文法でミスしたら恥ずかしい、きちんとマスターしてから喋ろう」と思っていたからだ。

 だがある日、フランス同様ラテン語をベースにするイタリアやスペインから来た学生の発言をしっかり聞いてみて、驚愕してしまった。フランス語をペラペラと操り、止まらないほど喋っているのに、実はミスだらけだったのである!

 そこで、思い込みから解放された。「なーんだ、ミスしてもいいんだ」であった。「言語学的にミスするかしないかより、大切なのは人間であること、自分を表現しようとすることなのだ」と納得したのだ。

 経験者ならきっと、同じことを言うだろう。酒井の記者会見が一種の感動を呼んでいるのも、懸命に努力して“自分を開いた”からなのだ。

 川島永嗣、酒井宏樹、長友佑都、植田直通と、いつの間にかサムライ戦士が4人になったフランスのリーグ・アン。リヨンで活躍する熊谷紗希を入れれば、5人所帯になった。全員の活躍を、改めて期待したい。

取材・文●結城麻里
Text by Marie YUUKI

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