サッカー界からヘディングが消える!? 英国で強まる“撲滅”に向けた動き「元選手がすでに命を…」【現地発】

サッカー界からヘディングが消える!? 英国で強まる“撲滅”に向けた動き「元選手がすでに命を…」【現地発】

激しい肉弾戦が魅力の一つとされてきたプレミアリーグだが、ヘディングが消えるとなれば、その在り方も変わるかもしれない。(C) Getty Images

サッカーという競技に置いて「ヘディング」が歴史を紡いだシーンを思い返すと枚挙に暇がない。

 1998年のフランス・ワールドカップで、自国開催での戴冠に燃えていたレ・ブルー(フランス代表の愛称)の天才ジネディーヌ・ジダンが決めた2点はどちらもヘディングシュートだった。

 翌年に開催されたチャンピオンズ・リーグ(CL)ファイナルでも、1-1の同点で迎えたロスタイムにマンチェスター・ユナイテッドのオレ=グンナー・スールシャールが右足で決めた劇的な決勝弾も、ディビッド・ベッカムが蹴った左CKをニアサイドでテディ・シェリンガムが頭でフリックしていなければ、生まれてはいなかった。

 無論、ヘディングは守備面でも重要な要素である。相手FWとの空中戦での攻防やゴールライン際での決死のクリアなど、頭を使ったプレーは様々な局面でドラマチックな展開を作り出してきた。

 だが、ヘディングが将来的にはこのスポーツから消える可能性が出てきている。

 昨年2月、イングランド、スコットランド、そして北アイルランドのウェールズを除く英国の各サッカー協会(FA)は、11歳以下の選手に「練習中のヘディング指導をしない」という条項を含むガイドラインを発表した。

【動画】イングランドで「伝説」と語り継がれるヘディングが生んだマンU戦士のゴラッソシーンはこちら 同ガイドラインでは、「12歳から16歳の間も段階的にヘディング指導を行なうこと」を命じ、ヘディング練習そのものもU-18カテゴリーまでは「低プライオリティー」とした。また試合での制限は加えられていないものの、1試合に行なうヘディング数も1〜2回程度とも記されている。

 これらガイドラインは、FAとイングランドプロサッカー協会(PFA)の資金提供のもと、17年から19年にかけてグラスゴー大学の研究チームが行なった研究結果を受けて定められたものだ。

 研究は、1900〜76年に生まれたスコットランドの元プロサッカー選手7676人を対象とし、これらを英国民健康保険(NHS)に登録されている社会人口統計で一致した約2万3000人の一般人と比較して行なわれた。

 対象となった元選手のうち、すでに亡くなった1180人の死因を分析すると、神経変性疾患で死亡するリスクが一般人の3.5倍となることが判明。さらに元選手は一般人に比べ、パーキンソン病の発症率が約2倍、運動ニューロン疾患(MND)の発症率が約4倍、アルツハイマー病の発症率が約5倍も高く、その一方で、肺がんや心筋梗塞こうそくなどのリスクは一般人より低いとされた。

 イングランドFAは、「この研究によってヘディングが神経変性疾患にリンクしている証拠が出たわけではありません。しかしながら、今回のガイドラインは、潜在的なリスクを軽減するために、年内に欧州全体のガイドラインを公開する予定のUEFA(欧州サッカー連合)の医療委員会と並行して作成されました」と説明。そして、この研究結果が出た4か月後の昨年6月に、UEFAも独自の調査の結果を受けてガイドラインを発表している。
  とはいえ、この問題は、突然に浮上した問題ではない。筆者の覚えている限りでは、2000年代初頭ごろから英国内でクローズアップされてきたトピックだ。とくにここ数年は、認知症が原因で66年のワールドカップを制したイングランド代表メンバーが立て続けに他界したこともあり、より取り上げられるようになった印象である。

 レイ・ウィルソンとマーティン・ピータースは18年、19年に、さらに昨年は7月にジャック・チャールトンが、10月にノビー・スタイルスが認知症やアルツハイマー型認知症が理由で亡くなった。また11月には、あの“サー・”ボビー・チャールトンが認知症であることが公表された。

 かねてからヘディングと認知症の関係性について真剣に向き合い、問題視してきた選手もいる。元イングランド代表FWのクリス・サットンだ。

 60年代にノーリッジ・シティで活躍した元サッカー選手だった父マイクさんを、長らく認知症に苦しんだ末に、昨年12月下旬に亡くしていたサットンは、先日、英国国営放送『BBC』のラジオで感情を露わにしながら、PFAやFAを痛烈に批判している。

「彼らは十分な対応をしていない。とてつもない大問題を長年にわたって無視し、背を向けてきたのだ。私の父を含めた数百人という元選手がすでに命を落としている。早急に対応しなくてはならない問題だ。FAとPFAはまるで十分な対応をしていないのだから、政府が介入して解決すべき由々しき事態だろう」
  また、17年に『認知症、フットボール、そして私』という『BBC』のドキュメンタリー番組でパーソナリティーを務めたプレミアリーグの最多得点記録保持者で、元イングランド代表FWのアラン・シアラーも、「課題は山積み」と話していたのを筆者は記憶している。

 すでに詳細なデータも出てきてはいる。『BBC』によると、18年に米国のブリティッシュコロンビア大学の研究チームが発表した調査結果に以下の内容があったという。

「サッカーボールの重さは約500グラム。科学者たちは、ヘディングの際、この重さのボールが最高速度時速128キロで頭にぶつかるとしている。ボールが頭に当たると、頭蓋骨内で浮いている脳が後頭部の骨にぶつかり打撲傷ができる。

 またヘディングをした後には脳細胞にダメージを及ぼす、たんぱく質の血中レベルが上昇するとの結果が、研究で出た。わずか1回のヘディングで脳に大きな損傷が起こる可能性は低い。しかし、長期間にわたるヘディングが問題を引き起こす恐れはある」
  さらに、医学に携わる様々な分野のエキスパートが運営する米国のメディカルウェブサイト『Helathline.Com』でも、ヘディングが引き起こす問題点について、次のようにまとめられている。

「サッカーにおけるヘディングは、脳震盪のリスクを増大する。長期間にわたる脳震盪に至るか至らないかのけがを続けていると、それは蓄積され、やがて脳に損傷を与えることにつながる。だが、しっかりとした技術と頭を守るヘッドギアがあれば、そのリスクは軽減される」
  その米国は、世界に先駆けて、16年からユース年代におけるヘディング練習を禁止した。そして、サッカーの母国である英国、さらには欧州でも、その考え方は改まりつつある。

 ここ数年の動きを見る限り、サッカー界の流れは、確実に“撲滅”へ向かっているように見えるが、果たして、様々な歴史を描いてきたヘディングがなくなる日は訪れるのだろうか。

文●松澤浩三
Text by Kozo MATSUZAWA

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