いったい部活は誰の為のもの? 堀越高校サッカー部はなぜ選手主体の活動「ボトムアップ」方式で強くなれたのか?

プレイヤーズ・ファースト(選手第一)は、本来スポーツの原点である。まずプレーをしたい選手がいて、だからこそそれをサポートする指導者が存在する。何を目指してどんな活動をしていくのか、意思決定の主人公は当然選手であるべきなのだ。

 ところがいつの間にか日本の部活、あるいは大学や小中学生たちの現場でも、主人公が逆転するケースが多発するようになった。学校やクラブが目標を定め「ウチへ来れば勝てるようになるぞ」と勧誘を始め、指導者たちは「勝ちたかったらオレについて来い」とも黙従を強いる。実際このやり方は、対象が大所帯の若年層になるほど効率的だった。それを指導者は「チーム一丸」と都合の良い言葉で括るが、逆に個性の異なる選手たちに同じ規制をかけるのだから、当事者たちが描く明るく楽しい部活はどんどん陰っていった。
  中心的な役割を演じて栄冠に辿り着くひと握りの選手たちだけは達成感を得られるかもしれない。しかし艱難辛苦に染まった3年間を過ごす部員たちの方はどうだろうか。今までは彼らの声が外へ漏れて来ることはなかった。漏れていかないのは内部で止めておく仕組みが管理出来ていたからで、それが上からの圧力だった。監督、コーチ、上級生たちが絶対の権限を持ち、表面的な規律の維持を図る。旧来の強豪校では、いかにも軍隊的な構図が出来上がっていた。

 だが連日の長時間トレーニングやサッカー漬けの日々は、期間限定の魔法に過ぎない。ボトムアップ方式を部活に導入した畑喜美夫氏は、広島大河FCを入口とした自身の体験と照らし合わせても、とことん自由な時間を削り取り練習量ばかりを競い合う強豪校のやり方が疑問だった。

 広島大河FCを設立した浜本敏勝氏は、既に半世紀近く前から選手たちが自身の意思で例外なく楽しく参加する活動を貫いて来た。指導者も保護者も試合が始まれば「ノーコーチング」に徹し、監督は一人ひとりに丹念な目配り気配りを続けて来た。小学生時代から浜本氏の指導を受けて来た畑氏は、こうした環境から木村和司、森島寛晃、田坂昭和らの日本代表選手たちや多くのJリーガーが育ち、同時に荒んだ少年たちが立派に成長していく姿を目の当たりにして来た。だからこそ自身の実体験に経営論などを肉付けして、選手たちが全員責任を持って役割を分担しあい主体的に活動していくスタイルを編み出すことが出来たのだ。

 実はかつて堀越高校サッカー部も伝統的な上意下達方式で頭打ちの状態に陥っていた。北信越リーグのトップチームで指導歴を持つ佐藤実監督(当時コーチ)にとっても「もっと選手たちを主体的に楽しく活動させる」ことは心中で燻り続けたテーマだった。そして部活の上下関係を逆転させるきっかけを与えたのが、選手主体で全国制覇を成し遂げた畑氏率いる広島観音高の快挙だった。

「選手が主体的に考えて活動し、さらに結果も乗せて来る。まるで良いところ取りじゃないか。そんな方法があるのか」
  堀越の佐藤監督は、当時畑監督が指揮していた安芸南高を訪問し、ボトムアップ方式がどう運営され、なぜ成功することが出来たのかを学んで帰京する。

 ただし長年染みついた歴史を塗り替え、新しい道筋を切り拓くのは簡単なことではない。佐藤監督が選手主体を宣言し、キャプテンが部活を主導するようになったのは10年前の2012年だった。反感や蔑む声は、多方面から耳に入って来た。タクトを託されたキャプテンたちの立場も似ていた。選手主導なのだから、選手が選手を評価しメンバーを決めていくことになる。平等性の担保は大きな課題としてクローズアップされ、メンバーから外された保護者からは不平の声も出た。
 

 堀越では過去10年間、歴代のすべてのキャプテンがチームを前進させるために悩み考え抜いた。しかし指揮を執るのが同僚だからこそ仲間たちも放置せず、次第に手を差し伸べる輪が広がっていった。

 また成長したのは、生徒たちばかりではなかった。葛藤する選手たちから指導スタッフも多くを学び取り、より良質なサポートをするために研鑽を積んだ。選手主体のボトムアップを「放任」だと勘違いする人たちは少なくない。しかしもともと指導者の仕事とは、選手たちの希望や志向を明確に把握した上で、より良い支援をしていくことである。選手たちが「ここを改善したい」と思った時に、時宜を得たアドバイスを送り改善のための映像を手渡す。そのために佐藤監督は、寸暇を惜しむように飛び回った。ボトムアップ方式の学習を皮切りに、常にアンテナを張り巡らせ、独特のトレーニング、治療方法、さらにはセミナー開催などピッチのオンオフに関わらず、部活を通じて人間的な成熟を促すために尽力して来た。

 堀越高校が強くなったのは、全部員が当事者意識と責任を自覚し、主体的に活動するようになったからだ。ボトムアップ方式に切り替えた当初のキャプテンたちは、能力はあるのにサッカーに集中し切れない部員を真剣モードに引き込むのに苦労した。Jリーガーとして10年間のキャリアを持つ同校の藏田茂樹コーチは言う。

「今も同じような気質の選手はいます。でも以前と違うのは、個々がチームの置かれた状況を理解し責任感を持っていることです」

 入学当初から高い目標を掲げる選手たちが増え、そこに互いに高め合う相乗効果が生まれチームは強くなった。選手も指導者も明確に役割分担を意識して充実した活動を続け、何より愛されるチームに変貌した。誰かが上から強く圧力をかける部活では、こういう本質的な充足感は得られない。

「毎日の部活が高校生活で一番楽しかった」
 それは2020年度に卒業した馬場跳高くん
心からの声である。

取材・文●加部究(スポーツライター)

【著者プロフィール】
加部究(かべ・きわむ)1958年生まれ。大学卒業後、1986年メキシコW杯を取材するため、スポーツニッポン新聞社を3年で退社。その後、フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。『日本サッカー戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』『サッカー通訳戦記』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)など著書多数。今春、『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓した。

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『毎日の部活が高校生活一番の宝物』
(加部究著/竹書房/定価1,760円)

 2020年の全国高校サッカー選手権に29年ぶりの出場を果たした堀越高校。「やらされる部活」ではなく、選手が主体的に考えるボトムアップ方式へシフトチェンジし、悲願だった全国の檜舞台へと舞い戻り、初のベスト8進出を飾った。

 堀越高校サッカー部の佐藤実監督は、ボトムアップ方式で全国優勝を掴んだ畑喜美夫氏に学び、10年の歳月をかけて監督と選手の理想の形を築いていく。本書は、その試行錯誤の道のりを描いたものだ。

 本当のプレーヤーズ・ファーストとは何か? 上意下達式ではない、選手が主人公の部活動を目指す学校やクラブにも、そのヒントを教えてくれる一冊だ。

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