「暗黒の闇に落ちた兆候はない」ブラジル・メディアが改革に傾く独サッカー界に異論!?「W杯の失敗は代表チームの問題だ」
2022年12月05日 11時14分THE DIGEST

グループリーグ敗退が決まり、俯くドイツ代表の選手たち。国内では早くも改革を叫ぶ声が高まっているようだが…。(C) Getty Images
カタール・ワールドカップはここまで、すでに多くの波乱が起こっているが、そのひとつに強豪ドイツの2大会連続でのグループリーグ敗退が挙げられる。
2014年ブラジル大会の王者は、前回ロシア大会ではメキシコ、韓国の軍門に降って脱落の憂き目に遭い、今回は初戦で日本代表に逆転負けを喫したことが響き、最終戦でコスタリカ代表を4-2で破ったものの、スペイン代表に得失点差で上回られ、再び早々の帰国を強いられることとなった。
【動画】ドイツがついに本領を発揮! 圧巻ゴールラッシュを仕上げるハベルツの2点目をチェック ロシアW杯以前、ファーストラウンド敗退がW杯では1回(トーナメント方式が採られた1938年フランス大会で1回戦敗退)、EUROでは3回(1984、2000、2004年)と、長い代表の歴史の中でも非常に少ないドイツだけに、今回の連続での屈辱は、言うまでもなくサッカー大国に大きな衝撃を与え、失望をもたらしている。
サッカー専門誌『Kicker』は、「ドイツ・サッカーの『美徳』に基づくアイデンティティーを失った代表チームには、2006年ドイツ大会で優勝した後、続く2010年南アフリカ大会、2014年大会でいずれもグループリーグ敗退を喫し、さらにその後の2大会ではW杯本大会への出場権すら得られていないイタリア代表と同じ運命が示されている」と警鐘を鳴らした。
同メディアは、ドイツ代表がその歴史の中で幾度か、人材難に陥って、娯楽性に富んでなおかつ強いという「美徳」が失われ、ただ走ってフィジカルで勝負するという暗黒の時代を迎えたが、その都度、それを乗り越えてきたと紹介している。
1998年フランスW杯(準々決勝敗退)、EURO2000(グループリーグ敗退)と悪い結果と内容が続いた際には、この国は全国レベルでサッカー界全体の育成改革を行ない、代表チームも年代一貫したコンセプトの下で強化に取り組んだ結果、それは2000年代後半から効果を表わし始め、2014年には優れたタレントによるハイレベルな戦術でのサッカーでライバルを圧倒して4度目の世界制覇を果たした。
こうした過去を持つ同国では、今回の失敗を受けて、当然ながら改革の必要性を訴える声が上がっており、『Kicker』誌によれば、ウニオン・ベルリンのスポーツディレクターであるオリバー・ルーナートは、「システム全体が、もはや現状に適合しなくなっている」として、ドイツ・サッカー連盟(DFB)全体の改革を訴えているという。
悪い現状を改善するためには、時に思い切った改革は必要であり、それが効果を発揮する可能性は十分にあると言えるが、これに異なる意見を発したのが、意外にも南米ブラジルの総合メディア『globo』である。
ブラジルといえば8年前、改革によって強化されたドイツの猛威にさらされ、自国開催のW杯準決勝で1-7の屈辱的な大敗を喫し、「ミネイロッソ(ミネイロンの悲劇)」という新たな悪夢を脳裏に植え付けられることになった被害者だが、同国はそれでも自国サッカー界が“改革”を必要とすることはなかったと綴っている。
同メディアは、「W杯には、同国サッカー界のプロジェクトの成功、選手の強化と育成の能力、優れた構造、優れた国内リーグを反映される」という意見を否定しないが、現在については「W杯の世界は非常に独特である。グローバル化で実力差は狭まり、選手は国外に出ており、代表チームはほとんど練習の機会がない。そんな中では、W杯での大失敗は、その国のサッカー全体の失敗ではなく、代表チームの敗北である。W杯を勝つには不屈の精神が不可欠であり、だからこそ素晴らしいとも言えるのだが……」と指摘する。
そして2014年大会については、「もちろん、当時のブラジル・サッカーには問題があり、代表チームも史上最高の世代ではなかった。とはいえ、ブラジルとドイツに『1-7』というスコアほどの実力差はなかった。あのような残酷な敗北は、ブラジルにとっては“災害”であり、それは両国の力関係だけでなく、ネイマールの負傷、チアゴ・シウバの出場停止、メンタル面の影響など様々な要因によるものだった」と振り返った。
「ブラジルは、ミネイロッソの前後でも、世界最大のサッカー選手の輸出国であり、世界最高峰のコンペティションであるチャンピオンズ・リーグでも、絶大な存在感を示してきた。ブラジル・サッカーは2014 年に破綻していなかった」と、代表チームの勝敗と同国サッカー界の状況がリンクするわけではないことを主張した同メディアは、現在のドイツ代表についても次のように言及している。
「ドイツには、今でも世界で最も優れたコーチが何人も存在し、トレーニング、テクノロジー、育成のスペシャリスト、そして世界の主要クラブで活躍する選手の、無限のリストがある。マヌエル・ノイアー、ヨシュア・キミッヒ、レオン・ゴレツカ、イルカイ・ギュンドアン、トーマス・ミュラー、セルジュ・ニャブリ、レロイ・ザネ、そして地球上で最も有望な攻撃的MFのひとりであるジャマル・ムシアラが、グループリーグを突破できないようなチームを構成していると思えない」
「バイエルンの一強体制はドイツ・サッカーの問題と言えるかもしれないが、それがW杯2大会連続敗退に繋がるとは思えない。それより、ドイツ代表が直面しているのは、ピッチ上での具体的な問題だ。世界のサッカーは、プレッシャーが以前とは別のレベルに引き上げられており、ユルゲン・クロップ、ユリアン・ナーゲルスマン、ハンジ・フリックらが正確に相手へプレスをかける能力で知られるチームを作り上げたが、DFBの選択は逆のものだった」
「2021 年まで代表チームの指揮権を与えられ続けたヨアヒム・レーブは、ドイツをスペイン式のチームに近づけたが、プレッシングに難があり、相手の速いトランジションを封じ込めることができず、自ゴールに近い位置での守備が脆弱だった。ドイツ人監督がクラブで実践していた最先端のサッカーを、代表チームは再現できなかった」
こう指摘した同メディアは、カタールでのドイツ代表が、日本戦の前半で素晴らしいプレーを見せ、スペイン相手には美しい試合を展開し、コスタリカからは狙い通りの大量得点を奪ったことで、評価できる点は十分にあったとして、「W杯では失敗に終わったが、これは代表チームそのものの問題であり、ドイツ・サッカーが暗黒の闇に落ちた兆候ではない。それは、ブラジルがこれまでの8年間、貧困に喘ぐことなどなかったように」と締めている。
ドイツ国内でも、代表チームのゼネラルマネジャーであるオリバー・ビアホフに対しては、厳しい視線が向けられているものの、昨年9月に監督に就任したばかりのフリックに対してはさほどではないという。歯に衣着せぬ物言いで有名なローター・マテウスも、日刊紙『BILD』で「彼はまだ16か月しか在任しておらず、今後、より良い未来へ代表チームを導いてくれると確信している」と語った。
ドイツにとっての目下最大の目標は、自国開催となるEURO2024だ。これまで、ホストカントリーを務めたメジャーイベントでは、全てベスト4以上の成績を残している彼らにとって、名誉を取り戻す舞台となるだろうか。
構成●THE DIGEST編集部
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2014年ブラジル大会の王者は、前回ロシア大会ではメキシコ、韓国の軍門に降って脱落の憂き目に遭い、今回は初戦で日本代表に逆転負けを喫したことが響き、最終戦でコスタリカ代表を4-2で破ったものの、スペイン代表に得失点差で上回られ、再び早々の帰国を強いられることとなった。
【動画】ドイツがついに本領を発揮! 圧巻ゴールラッシュを仕上げるハベルツの2点目をチェック ロシアW杯以前、ファーストラウンド敗退がW杯では1回(トーナメント方式が採られた1938年フランス大会で1回戦敗退)、EUROでは3回(1984、2000、2004年)と、長い代表の歴史の中でも非常に少ないドイツだけに、今回の連続での屈辱は、言うまでもなくサッカー大国に大きな衝撃を与え、失望をもたらしている。
サッカー専門誌『Kicker』は、「ドイツ・サッカーの『美徳』に基づくアイデンティティーを失った代表チームには、2006年ドイツ大会で優勝した後、続く2010年南アフリカ大会、2014年大会でいずれもグループリーグ敗退を喫し、さらにその後の2大会ではW杯本大会への出場権すら得られていないイタリア代表と同じ運命が示されている」と警鐘を鳴らした。
同メディアは、ドイツ代表がその歴史の中で幾度か、人材難に陥って、娯楽性に富んでなおかつ強いという「美徳」が失われ、ただ走ってフィジカルで勝負するという暗黒の時代を迎えたが、その都度、それを乗り越えてきたと紹介している。
1998年フランスW杯(準々決勝敗退)、EURO2000(グループリーグ敗退)と悪い結果と内容が続いた際には、この国は全国レベルでサッカー界全体の育成改革を行ない、代表チームも年代一貫したコンセプトの下で強化に取り組んだ結果、それは2000年代後半から効果を表わし始め、2014年には優れたタレントによるハイレベルな戦術でのサッカーでライバルを圧倒して4度目の世界制覇を果たした。
こうした過去を持つ同国では、今回の失敗を受けて、当然ながら改革の必要性を訴える声が上がっており、『Kicker』誌によれば、ウニオン・ベルリンのスポーツディレクターであるオリバー・ルーナートは、「システム全体が、もはや現状に適合しなくなっている」として、ドイツ・サッカー連盟(DFB)全体の改革を訴えているという。
悪い現状を改善するためには、時に思い切った改革は必要であり、それが効果を発揮する可能性は十分にあると言えるが、これに異なる意見を発したのが、意外にも南米ブラジルの総合メディア『globo』である。
ブラジルといえば8年前、改革によって強化されたドイツの猛威にさらされ、自国開催のW杯準決勝で1-7の屈辱的な大敗を喫し、「ミネイロッソ(ミネイロンの悲劇)」という新たな悪夢を脳裏に植え付けられることになった被害者だが、同国はそれでも自国サッカー界が“改革”を必要とすることはなかったと綴っている。
同メディアは、「W杯には、同国サッカー界のプロジェクトの成功、選手の強化と育成の能力、優れた構造、優れた国内リーグを反映される」という意見を否定しないが、現在については「W杯の世界は非常に独特である。グローバル化で実力差は狭まり、選手は国外に出ており、代表チームはほとんど練習の機会がない。そんな中では、W杯での大失敗は、その国のサッカー全体の失敗ではなく、代表チームの敗北である。W杯を勝つには不屈の精神が不可欠であり、だからこそ素晴らしいとも言えるのだが……」と指摘する。
そして2014年大会については、「もちろん、当時のブラジル・サッカーには問題があり、代表チームも史上最高の世代ではなかった。とはいえ、ブラジルとドイツに『1-7』というスコアほどの実力差はなかった。あのような残酷な敗北は、ブラジルにとっては“災害”であり、それは両国の力関係だけでなく、ネイマールの負傷、チアゴ・シウバの出場停止、メンタル面の影響など様々な要因によるものだった」と振り返った。
「ブラジルは、ミネイロッソの前後でも、世界最大のサッカー選手の輸出国であり、世界最高峰のコンペティションであるチャンピオンズ・リーグでも、絶大な存在感を示してきた。ブラジル・サッカーは2014 年に破綻していなかった」と、代表チームの勝敗と同国サッカー界の状況がリンクするわけではないことを主張した同メディアは、現在のドイツ代表についても次のように言及している。
「ドイツには、今でも世界で最も優れたコーチが何人も存在し、トレーニング、テクノロジー、育成のスペシャリスト、そして世界の主要クラブで活躍する選手の、無限のリストがある。マヌエル・ノイアー、ヨシュア・キミッヒ、レオン・ゴレツカ、イルカイ・ギュンドアン、トーマス・ミュラー、セルジュ・ニャブリ、レロイ・ザネ、そして地球上で最も有望な攻撃的MFのひとりであるジャマル・ムシアラが、グループリーグを突破できないようなチームを構成していると思えない」
「バイエルンの一強体制はドイツ・サッカーの問題と言えるかもしれないが、それがW杯2大会連続敗退に繋がるとは思えない。それより、ドイツ代表が直面しているのは、ピッチ上での具体的な問題だ。世界のサッカーは、プレッシャーが以前とは別のレベルに引き上げられており、ユルゲン・クロップ、ユリアン・ナーゲルスマン、ハンジ・フリックらが正確に相手へプレスをかける能力で知られるチームを作り上げたが、DFBの選択は逆のものだった」
「2021 年まで代表チームの指揮権を与えられ続けたヨアヒム・レーブは、ドイツをスペイン式のチームに近づけたが、プレッシングに難があり、相手の速いトランジションを封じ込めることができず、自ゴールに近い位置での守備が脆弱だった。ドイツ人監督がクラブで実践していた最先端のサッカーを、代表チームは再現できなかった」
こう指摘した同メディアは、カタールでのドイツ代表が、日本戦の前半で素晴らしいプレーを見せ、スペイン相手には美しい試合を展開し、コスタリカからは狙い通りの大量得点を奪ったことで、評価できる点は十分にあったとして、「W杯では失敗に終わったが、これは代表チームそのものの問題であり、ドイツ・サッカーが暗黒の闇に落ちた兆候ではない。それは、ブラジルがこれまでの8年間、貧困に喘ぐことなどなかったように」と締めている。
ドイツ国内でも、代表チームのゼネラルマネジャーであるオリバー・ビアホフに対しては、厳しい視線が向けられているものの、昨年9月に監督に就任したばかりのフリックに対してはさほどではないという。歯に衣着せぬ物言いで有名なローター・マテウスも、日刊紙『BILD』で「彼はまだ16か月しか在任しておらず、今後、より良い未来へ代表チームを導いてくれると確信している」と語った。
ドイツにとっての目下最大の目標は、自国開催となるEURO2024だ。これまで、ホストカントリーを務めたメジャーイベントでは、全てベスト4以上の成績を残している彼らにとって、名誉を取り戻す舞台となるだろうか。
構成●THE DIGEST編集部
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