「悪しき敗者」「ニヒリストだ」 審判に激怒のモウリーニョ監督に対し各国メディアが様々な反応。渦中の主審には「英国のコッリーナ」と賛辞も

「悪しき敗者」「ニヒリストだ」 審判に激怒のモウリーニョ監督に対し各国メディアが様々な反応。渦中の主審には「英国のコッリーナ」と賛辞も

EL決勝で主審の判定に異を唱えるローマのモウリーニョ監督。(C)Getty Images

現地時間5月31日、ヨーロッパリーグ(EL)決勝がハンガリー・ブダペストで行なわれ、セビージャがローマを1-1からのPK戦で4-1と下し、最多記録更新となる通算7回目の同タイトル獲得を果たした。

 先制を許すも相手のオウンゴールで追いつき、PK戦では先行で4人全員が成功する一方で、GKボノが2人のキックを止めるという勝負強さを見せ、「ELマイスター」の本領を発揮したスペインの雄。3か月前に監督に就任し、短期間でチームを立て直してタイトルだけでなく、来シーズンのチャンピオンズ・リーグ出場権ももたらしたホセ・ルイス・メンディリバルは、試合後の会見で「まだ信じられず、実感するにはしばらく時間がかかりそうだ。ここにいられること、そしてクラブのために勝てたことは嬉しい」と喜びを表わした。

 一方で、不満を露にしたのは、昨シーズンのヨーロッパ・カンファレンスリーグに続いての欧州タイトル獲得に失敗したローマのジョゼ・モウリーニョ監督だ。彼の怒りは、試合を裁いたアンソニー・テイラー主審に向けられた。「まるでスペイン人のような主審による、激しく活気のある試合。ずっとイエロー(カード)、イエロー、イエローだった」と皮肉を込めて、選手に対して両チーム合計13回、スタッフには3回の警告を与えたイングランド人審判を痛烈に批判。さらに、具体的に判定に対して不満をぶつけている。
 「(ロレンツォ・)ペッレグリーニがボックス内で倒れてイエローカードを掲げられた。(セビージャのルーカス・)オカンポスも全く同じことをしたが、主審はビデオ判定でオカンポスに恥をかかせた(PK判定を取り消し)だけで、警告は与えなかった。これはスキャンダルだ。また、エリック・ラメラには2枚のイエローが与えられるべきだったが、主審はそうせず、ラメラはPK戦で(1番手の)キッカーを務めた」

「来シーズン、我々はチャンピオンズ・リーグ(CL)には出場しないだろうが、それは良いことだ。そして、テイラーが来シーズンは(ローマが出場する可能性がある)ELではなく、CLでのみ審判を務め、今夜、彼がしたのと同じような強気の仕事をそこで行なうことを願おう」

 この試合では、しばしば判定に対して激しく怒りを表わし、セビージャのスタッフと衝突して自チームの控え選手に制止された後に警告を受け、PK戦の前にも審判団らと口論を展開したモウリーニョ監督だが、それでも怒りはおさまらず、試合後には駐車場でテイラー主審を待ち受け、「全く恥ずべきことだ」「くたばれ」「おめでとう、このク〇野郎!」といった暴言を、英語やイタリア語で浴びせたのだった。 ここまで個人では5戦無敗だった欧州カップ戦決勝で初めて敗北を喫した名将は、「いらなかった。私は銀メダルを保管することはしない」との理由で、表彰式で受け取った銀メダルをすぐにスタンドの子どもの観客に渡したことが賛否両論を巻き起こしているが、名将を激怒させた英国人審判の判定については、ローマのスペイン人DFディエゴ・ジョレンテも「イエローカードの場面では、主審はセビージャに有利な笛を吹いた。評判の高い国際審判員だけに、驚いている」と同調している。

 イタリアのスポーツ紙『Gazzetta dello Sport』も、「危なっかしい試合管理だった。(76分の)セビージャに与えられたPKの場面では、VARに救われた。そして、フェルナンドのハンド……。延長戦でも、ロジェール・イバニェスに肘打ちのような行為を働いたラメラにはイエローカードが提示されただけだった」とネガティブ評価。ファンも怒りを隠さず、あの「バイロン・モレノ」の名を用いるなどして、テイラー主審へのバッシングを展開した。

 これに対し、セビージャの地元メディア『Diario de Sevilla』は、モウリーニョを「悪しき敗者」と表現。ポルトガル人監督のピッチ上や会見での言動を紹介した上で、「モウリーニョはセビージャを『偉大なチーム』としながらも、彼らがブダペストでローマを下したのには、別の理由があったと主張。そして、審判を攻撃している。彼は負け方を全く知らない。これほどの名声を手にした監督なのに、非常に悲しいことだ」と、敵将の姿勢に苦言を呈している。
  また、テイラー主審の母国メディアである日刊紙『The Guardian』は、プレミアリーグでのキャリアが長いモウリーニョ監督の気質や過去の振る舞いを熟知していることもあってか、かなり辛辣にこの一件を報道。「記者会見を戦場とみなした監督は、モウリーニョが初めてではない。黒が白であると主張したり、邪悪で壮大な目的のために喧嘩を仕掛けたり、挫折するたびに陰謀を叫んだりしたのも、彼が初めてではない」と綴り、以下のように続けた。

「彼はニヒリスト(虚無主義者)だ。モウリーニョにとって重要なのは、勝つことだけではない。彼とそのスタッフは、あらゆる決定に異議を唱える。FKを獲得するたびに、彼らはイエローカードという形での、さらなる報復を要求する。今シーズン、ローマのベンチメンバーには、計13枚のレッドカードが提示されている。これは偶然ではない。審判に圧力をかけ、判定のバランスを崩すための計画であり、組織化された行動だ。セビージャが決して無罪というわけではないが、彼らのスポーツマンシップは、そんなローマに対する反応であると感じられた」 同メディアはまた、審判団について「主審のテイラー、第4審判のマイケル・オリバー、そしてVARのスチュアート・アトウェルさえも、素晴らしいパフォーマンスを見せた」と主張。そんな彼らに怒りをぶつけ、当てつけとして銀メダルをスタンドに放り投げたモウリーニョを「辞任の朝のデイビッド・キャメロン(元英国首相)のようだった」と記事を締めている。

 テイラー主審については、現役時代にチャールトン、チェルシー、ベンフィカ、ウェストハムといったクラブを渡り歩いたSBで、現在はコメンテーターを務めるスコット・ミントが、スポーツ専門ラジオ局『talkSPORT』で、「テイラー主審は本当に素晴らしかったと思う。VARによって、セビージャへのPK判定を覆したのも、最終的には正しい判断だった」と称賛し、以下のように続けた。
 「あの場面を除けば、彼はほぼ全ての場面で的確にプレーを捉えて判定を下し、ある種の権威を持ってそれを行なった。それも、傲慢さというものではなく、純粋にプレーの観点からのものだった。その仕事ぶりにおいて、テイラーは『英国のコッリーナ』だったと思う」

 かつての名審判といわれたイタリアのピエルルイジ・コッリーナに例えて、ミントはテイラー主審を「この試合のマン・オブ・ザ・マッチだ」と冗談をまじえながら高く評価。『talkSPORT』も、「多くのカードを提示したにもかかわらず、44歳の審判は多くの素晴しい判断を下した」として、具体的に一つひとつの判定に言及している。

構成●THE DIGEST

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