「これは新しい旅」感覚も自信も取り戻した錦織圭が、次なる扉をこじ開けるための鍵とは?<SMASH>

「これは新しい旅」感覚も自信も取り戻した錦織圭が、次なる扉をこじ開けるための鍵とは?<SMASH>

ドバイではシードのゴファンを破るなどしてベスト8入りした錦織圭。「トップ10とも十分戦える」との手ごたえを得た。(C)Getty Images

「試合勘は、やっているうちに戻ってくると思う。いつクリックするのか、それ待ちではあります」

 彼が確かな口調でそう言ったのは、約1カ月前に行なわれた、全豪オープンの初戦後だった。試合には、敗れている。それも、5−7、6−7(4)、2−6というストレートでの敗戦だ。

 それでも、試合後の錦織の表情と言葉の端々からは、自身を信じるがゆえの、前向きな熱がにじみ出ていた。結果やスコアだけでは決して見えない、本人の中に点在する、完全復活への数々のパーツ。それらが音を立てて噛み合う日の訪れを、錦織はメルボルンで予感していた。

 その噛み合う音を聞く時は、本人の予想よりも早かっただろうか。全豪の敗戦から3週間後の、ロッテルダム。錦織は初戦で、世界19位のフェリックス・オジェ-アリアシムを7−6(4)、6−1で破り、今季初勝利をつかんだ。

 試合前に、復調の予兆はなかったという。サーフェスやボールの打感も独特な環境にやや戸惑い、練習でも良いフィーリングは得られなかった。
  それが試合が始まった途端、「突然ボールが入る気がしたし、落ち着いてプレーできた」と言う。さらには、「よりパワーを生むため」に昨年末から改善に努めてきたサービスのフォームも、かなり定着してきたようだ。

 この試合の錦織は、ファーストサービスを74%の高確率で入れ、しかも85%をポイントにつなげている。「サービスでフリーポイントを取れたおかげで、ストロークのリズムも良くなる」という好循環に心地よく身をゆだね、錦織はボールを打つたびに試合勘と自信を取り戻していた。

 ひとたび思い出したボールを打ち抜く爽快感と、相手の動きを読み種々のボールを打ち分けるリズム感を、錦織は次の試合でも継続する。2回戦では、ツアー随一のフットワークを誇るアレックス・デミノーを、2時間を超えるフルセットの激闘の末に打ち倒した。長いラリーを幾度も繰り返し、心身のスタミナを削り合うような総力戦の末に、最後は頬が紅潮し息が切れるほどの「全力攻撃」でもぎ取った、熱い熱い価値ある白星。

「ボールの感覚がないという感じはなくなったので、その言い訳は使えない」

 復調宣言とも取れる言葉を残したのも、このデミノー戦後のことだ。
  連戦の疲れを残した翌週のマルセイユでは初戦で敗れるも、続くドバイのATP500でも3つの勝利を連ね、完全復調を印象付ける。とりわけ、「自分のテニスで戦えた感はすごくあるので、自信はつく」と声に力を込めた2回戦のダビド・ゴファン戦では、全盛期を彷彿させるタイミングの早さと糸を引くような球筋の美しさ、そして新たに磨いたネットプレーをも存分に披露。

「今のレベルで、トップ10の選手とも十分に戦えると思う」と、自信のレベルをも一段階引き上げた。
 
 ロッテルダムに続き、ドバイでもベスト8に勝ち上がった錦織だが、そこで彼の行く手を阻んだものは、高まる「自分への期待感」という内なる敵だったかもしれない。ロッテルダムでボルナ・チョリッチに敗れた後は、「勝ちたいという気持ちが前に出たのか硬くなった」と敗因を分析した。
  ドバイでの、ロイド・ハリス敗戦後の「チャンスはあったので、もうちょっと上に行きたかった」の言葉にも、悔いの色が浮き上がる。第2セット以降主導権を握りながらも、ブレークポイントを逃した後の、一瞬の心のエアポケットに足を取られたかのような敗戦。それだけに、勝つべき試合を逃したとの思いは強かっただろう。

 本人が断言してきたように、ボールを打ち抜く感覚は取り戻した。連戦を勝ち抜く体力も問題ない。そのなかで今の錦織が欲するのが「安定感」だという。

「大事なところのプレーだったり、ちょっと弱気になってラケットを振り切れないタイミングがあったり……そういう細かいところは直していきたい」

 勝利は当然となったその先で、次なる扉をこじ開ける鍵を、彼はそこに求めた。

 周囲は錦織の目指す地点を、「かつていた場所」とみなしがちだ。だが当の本人は、「これは新しい旅」だと明言する。

 手のひらに刻んだ手応えと、自信を携え挑むマイアミ・オープンは、その新たな旅の序章クライマックスとなる。

取材・文●内田暁

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