「最悪の敗北はやらずに無理と決めること」王者ジョコビッチが示す“挑戦”の重要性と心構え〈SMASH〉

「最悪の敗北はやらずに無理と決めること」王者ジョコビッチが示す“挑戦”の重要性と心構え〈SMASH〉

努力の末に男子テニス界の頂点へと上りつめたジョコビッチの言葉には、仕事やプライベートでも役立つエキスがあふれている。(C)Getty Images

テニス界で長きにわたりトップランキングを維持する一流選手たち。そんな彼らが発する言葉には、テニスの上達はもちろんだが、仕事やプライベートでも役立つヒントが数多く隠されている。

 現在男子テニス界で不動の地位を築きつつあるノバク・ジョコビッチ(セルビア)。今年の全豪では3連覇を達成し、3月には1位通算在位期間311週の新記録を樹立し、フェデラーの持つ310週を抜き単独トップに立った。まさに向かうところ敵なしであるが、今から10年ほど前は、強さを維持しながらも苦しんでいた。

 ジョコビッチはプロ選手になってから順調にランキングを上げてきたが、しばしばコートで喘息のように呼吸が苦しくなる症状に悩まされていた。せっかく厳しいトーナメントを勝ち上がってきたのに、試合の最中に棄権を余儀なくされることも数多くあった。彼はその原因を必死に探した。

「当時は毎日14時間、1日も休むことなくメンタルとフィジカルの向上のためにトレーニングをしていたよ」
  ジョコビッチは心と身体を徹底的に鍛えたが、その症状はどうしても改善されなかった。しかし2010年の全豪オープンが大きな転機になる。準々決勝でツォンガと対戦していた最中、またも息が苦しくなったジョコビッチは、フィナルセット、ダブルフォールトでサービスをブレークされ力尽きた――。このダブルフォールトについて彼は振り返る。

「プロ生活最低の瞬間が、実は一番幸運な瞬間になると、誰がわかっただろうね?」

 というのも、この不幸な試合をセルビア出身の栄養学者、チェトイェビッチ博士が偶然見ていたからだ。博士はその後、ジョコビッチに「不調の原因は食事にある」ことを伝え、栄養指導を行なうことになったのだ。

 博士はELISAというアレルギーを調べるテストを行ない、ジョコビッチの身体に悪影響を与えている食べ物を徹底的に調べた。その結果、小麦と乳製品が特に身体に問題があることがわかる。

 実家がピザ屋にもかかわらず、ジョコビッチは博士のアドバイスに従ってパンやチョコレートをはじめ、それらが含まれる食べ物を摂ることをやめた。するとその後、彼の身体は徐々に改善されていった。
  2012年、全豪の決勝でジョコビッチはナダルを破って優勝を飾る。この試合は5時間53分にも及んだが、ジョコビッチはこのロングマッチを最後まで戦い抜いた。そこには息が苦しくなって棄権していた当時の姿はなかった。

 試合に勝った後、彼はロッカールームでチョコレートの小さなかけらを口に入れて、2010年以来、味わうことのできなかったその風味を楽しんだ。

「それは世界1位にたどり着くために必要な代償だった」とジョコビッチは語る。

 そして自分の食生活を大きく変えたことを振り返る。

「年齢を重ねるにつれ、これまでの食べ方や生き方にしがみついていると、様々な問題に直面することとなる。だから、食べ方を変える必要があったんだ」

 ジョコビッチは博士のアドバイスに従って好きな食べ物を我慢することができたが、それは決して簡単なことではない。そんなことを言われても、無理だと考えてしまう人は多いはずだ。
  それは食事を変えることだけではない。日々の暮らしの中には、やる前から無理だと考えて諦めてしまうことは多々ある。そのことについてジョコビッチは、「あなたはただ、やってみるだけでいい。あなたにとって最悪の敗北とは失敗そのものではない。やろうともしないで無理と決めてしまうことだ」と語っている。

文●中山和義

●プロフィール●
ノバク・ジョコビッチ/1987年5月22日生まれ、セルビア出身。188cm、77kg。隙のない守備力が最大の武器で、2016年の全仏で生涯グランドスラムを達成。以降も全豪3回、ウインブルドン2回、全米1回とコートの種類に関係なくタイトルの数を増やしている。四大大会通算18勝は、ロジャー・フェデラーとラファエル・ナダルの20回に次ぐ記録。世界ランキング:1位(2021年4月5日現在)

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