押し寄せる“パワーテニス”化の波。世界の最前線で戦う日本人選手たちに求められる変化とは?<SMASH>

押し寄せる“パワーテニス”化の波。世界の最前線で戦う日本人選手たちに求められる変化とは?<SMASH>

現代テニスに押し寄せる変化を肌で感じる西岡(左)とダニエル(右)。(C)Getty Images

「今の男子テニスでは、ボールを強く打つ能力が必須。男子テニスは変わってきている。強いボールを打てなければ戦っていけない」

 1年半前にダニエル太郎のコーチに就任した時、最初に取り組んだこととは何か――。その問いに対してスベン・グローネフェルトは、シンプルな言葉で答えを返した。

 グローネフェルトは、若き日のロジャー・フェデラーや、アナ・イバノビッチにマリア・シャラポワら、男女歴代ナンバー1選手を指導してきた熟練のツアーコーチだ。その彼が、この数年間で男子テニスは、激的に変化(進化)したと明言するのである。

 グローネフェルトが言う現代テニスの変質は、ダニエル自身が肌身で感じてきたことでもある。

「2年前ほど前に若い世代が出てきた時は、彼らが強くなるまで時間が掛かると思っていたし、実際に大雑把なミスもしていた。けれど今は、フィジカルもメンタルも若い選手はしっかりしている」

 全仏前のチャレンジャーで対戦した18歳のカルロス・アルカラスもまさに、新世代テニスの体現者だ。「とてもアグレッシブ。タッチも良いし、フォアに回り込んだ時にあそこまでのスピード感を出してくる選手は、トップでもなかなか居ない。ミスはまだ多いけれど、トップ選手よりボールを早くとらえている」と分析している。
  それら若手の急成長の理由をダニエルは「打ち続けているから、ミスも少なくしていける。それは時の流れで、レベルが上がってくるのは当然。そのことを、最近やっと受け止められるようになったんですけどね」と苦笑を浮かべながら続けた。

 ダニエルが実感する男子テニスの潮流は、上位勢の顔ぶれに克明に刻まれる。現在のトップ10のうち、25歳以下の選手のランキングと年齢、そして身長を以下に記した。

2位:ダニール・メドベージェフ(25歳・198p)
5位:ステファノス・チチパス(22歳・193p)
6位:アレクサンダー・ズベレフ(24歳・198p)
7位:アンドレイ・ルブレフ(23歳・188p)
9位:マテオ・ベレッティーニ(25歳・196p)

 今さら指摘するまでもなく、大型化は明らかだ。しかもいずれの選手も、フットワークや足元のボールの処理にも長ける。

 なおこの5人のうち、ルブレフを除く4名が今大会でベスト8へと進出。4回戦でズベレフに敗れた錦織は、「相手の守備がすごかった」と脱帽し、当のズブレフも「身長の割には、僕は良く動ける方だと思う。正直に言うと、同じの体格で僕より早く動ける選手はいないと思っている」と自負を言葉に込めた。
  19歳のロレンツォ・ムゼッティに2回戦で敗れた西岡は、彼自身もズベレフやルブレフらとともに、「ネクスト・ジェン」と呼ばれた一人。リアルタイムで時代の過渡期に身を置く彼の皮膚感覚は、さらに生々しい。

「基本的にボールを打てないと勝てないですね。ぼくが18歳でグランドスラムに出始めた頃は、正直、試合展開だけで勝てた。パワーがなくても、頭を使ってうまく勝てた。

 それが今は、全くできないです。何かしようとしても、一発で決められる。僕のベースになっているテニスがありますが、それではどうしようもないくらいボールを打たれる展開が多くて」

 自分たちの世代が持ち込んだパワーテニスを「そういうテニスが当然だと思ってやっている」とした上で、さらに先に進めたのが、ムゼッティらの世代だと西岡は見る。

「彼らは、今のテニスをやっているのかなという感じです。若い選手……。オジェ‐アリアシムもシャポバロフやチチパス選手も、今日の相手もシナーも、みんなそうなんだと思います」

 それが、かつての“新人類”である西岡の見解だ。
  コーチとして普段は輿石亜佑美ら若手を指導し、今回のクレーシーズンでは弟・良仁に帯同した兄の靖雄は、この一年で、テニスの変化は加速したと感じたという。

「コロナ禍でツアーが中断していた間、若手がフィジカルを鍛えて一層パワーテニスに磨きが掛かった。10年ほど前から、今のようなパワーテニスをしていた選手は居たのですが、ミスも多かった。そこにラケットの性能向上とフィジカル強化が加わり、高い完成度でそのテニスを体現しているのが今の若手だと思います」

 ここで言うフィジカルの向上には、身体の使い方も含まれるのだろう。本戦初戦でベレッティーニと対戦したダニエルは、「フォアハンドもあんなにテイクバックが短いのに、ほぼ手首だけでハエを叩くような打ち方をする。それでボールのスピード出せるのは、相当上半身の動きが速いから」だと分析した。

 そのテニスに対抗すべく、ダニエルはパワー向上を標榜する。一方、170センチの西岡は、「僕がルブレフみたいにエースを取れるのかと言ったら、体格もあるので無理。今の自分のテニスをどうにか攻撃化して、現代のテニスに適応していくことが大切」だと言いきっている。

 世代交代は単なる選手の年齢だけでなく、異なるテニスの波として押し寄せている。今回、世界の最前線で戦う日本の選手たちはみな、ある種の危機感とともにその実感を口にした。それら貴重な体験と声を、いかに今後に反映していくか? 日本のテニス界としても、変革が求められる時かもしれない。

現地取材・文●内田暁

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