錦織圭と、その背中を追うマクドナルド――共にケガを乗り越えて迎える3度目の邂逅で見えてくるものは?<SMASH>

錦織圭と、その背中を追うマクドナルド――共にケガを乗り越えて迎える3度目の邂逅で見えてくるものは?<SMASH>

全米オープン初戦を突破し、肩の調子も問題ないという錦織。大会4日目の2回戦ではマクドナルドと3度目の対戦を迎える。(C)Getty Images

それまで対戦のなかった2人の選手の足跡が、突如として惹かれ合うように交錯し、互いに強く影響を及ぼすことがある。全米オープンテニス2回戦で対戦するマッケンジー・マクドナルドは、今、錦織圭にとってそのような存在になりつつある選手だ。

 公式記録などを見ると、両者の対戦は、3週間前のシティ・オープンのみとなっていることが多いだろう。だが実際の初対戦は、2018年2月。テキサス州ダラス市で行なわれた、ツアー下部大会に相当する“ATPチャレンジャー”の決勝戦だ。

 手首のケガから復帰した直後の当時の錦織は、何にも増して勝利と自信を欲していた時期。一方、大学からプロに転向して2年目のマクドナルドは、トップ100を視野に捉え、躍進の季節を疾走していた。

 期待の若手として注目を集めつつあるマクドナルドが、そのプレースタイルから立ち姿まで錦織を彷彿させることは、アメリカ国内でも話題になっていた。身長178センチのアジア系。武器は軽快なフットワークと、広角に打ち分けるストローク。そして、子どもの頃から好きだった選手は、「アンドレ・アガシと、ケイ・ニシコリ」。

 その憧れの存在が、期せずしてチャレンジャー大会に出場し、しかも決勝で対戦することになったのである。
 「ケイをアイドル視してしまい、地に足がついていなかった」

 初対戦での完敗を、後にマクドナルドは、そう回想する。試合後の表彰式では、敗者は「対戦できて光栄」と顔を輝かせ、そして勝者は「優勝はうれしいけれど、この大会には、戻ってこないようにしないとね」と困ったような笑みをこぼした。

 それから3年半経った今夏、2人は2度目の対戦を迎える。戦いのステージは、ATP500であるシティ・オープンの準決勝。初対戦時より遥かにグレードアップしたが、それは単に、年月が2人を成長させたというような、一本道な物語ではない。

 2018年の錦織は、ダラスでの優勝がブースターになったかのように勝利を重ね、世界の9位でシーズンを終える。だがその翌年、今度は右ヒジに痛みを抱え、10月にはメスを入れる決断まで下した。

 復帰時期は想定よりやや遅れ、そのままコロナ禍によるツアー中断期に突入。2020年8月の復帰後も、戻り切らぬ打球勘や肩の痛みにも苦しめられたが、ようやく「この2年で、いちばん良い」と明言するまでに手ごたえを覚え到達したのが、シティ・オープンの準決勝だった。

 対するマクドナルドも、あの初対戦から紆余曲折の歳月を経て、今に至っている。2019年4月にはランキング57位を記録するも、その直後の全仏オープンで足を負傷。年内にコートに戻ることはなく、ランキングを200位台まで落とした中で、ツアーはコロナによる停止の時を迎えた。

 ツアー再開後に待っていたのは、チャレンジャー予選からの再スタートという過酷な現実。それでも1年をかけてランキングを上げ、今一度トップ100への帰還を目指すなかで迎えたのが、錦織との2度目の対戦だ。
  再びマクドナルドを迎え打つ錦織には、初対戦時の記憶がまだ強く残っていただろうか。だが、ケガからの復帰のプロセスも含む3年半の年月は、若手が成長するのに十分な時間だ。

 ヒジのケガから復帰後の錦織が、サーブ&ボレーの名手をコーチにつけ、ネットプレーを多用する攻撃テニスを標榜していることは、日本のテニスファンの間では広く知られているだろう。その錦織に少年時代から憧れ、似たプレースタイルを構築し、そして同時期にケガによる長期離脱を余儀なくされたマクドナルドもまた、錦織同様に攻撃テニスに磨きをかけていた。

 2度目の対戦でのマクドナルドは、フォアの逆クロスで錦織を押し下げると、迷わずネットに出てボレーを沈めた。あるいは、バックのクロスの打ち合いから、錦織のお株を奪うようにダウンザラインに仕掛けるウイナーを奪いもした。

 ネットを挟み、まるで写し鏡のように似たプレーを展開する両者のつばぜり合いは、ファイナルセットの第12ゲームで、錦織がブレークを許し終焉を迎える。肩に痛みを覚えていた錦織が、サービスキープで相手以上に苦しんだのは間違いない。

 ただそれでも、試合後の錦織の口をついたのは、「思っていたよりむちゃくちゃ良かった」と相手を称える言葉だ。

「想定外だったのは、攻撃的なテニスを最初から仕掛けられ、自分が下がり気味になったこと。ファイナルセットも、彼のレベルが全く落ちなかった。どちらかというと、自分が悪いというより、彼が良かったのかな」

 それが2度目の対戦を終えた、“憧れられる側”の率直な思いだった。
  それからわずか、3週間後。3度目の対戦の機会は、今回の全米オープン2回戦で巡ってくる。

 錦織は、初戦で113位のサルバトーレ・カルーゾを6-1、6-1、5-7、6-3で退けての、2回戦進出。完璧に近い第1〜2セットの後、開き直った感のある相手に押されて第3セットを失うも、第4セットでは勝負どころでの強さを発揮して突き放した。

 気になる肩の状態は万全ではないようだが、本人は「今のところは問題ないです」と語るにとどめる。テニスの状態的には、「オリンピックやワシントンDC(シティ・オープン)の方が若干良かった気がする」とは言うが、日々の環境や状況に応じて調子が変化していくのは、本人が誰より重々承知していることだろう。

 マクドナルドに関しては、「このサーフェスが好きそうな選手。ソツなく両サイドでミスなく打てるし、フラット系のショットが伸びてくる」と分析する。

 自身の背を追う後進相手に、追われる側は、いかなるプレーを披露するのか? 新たな成長過程にいる錦織にとっても、3度目のマクドナルド戦は、一つの試金石となる。

取材・文●内田暁

【PHOTO】全米オープン2021で躍進する錦織圭!
 

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