西岡良仁がマイアミ3回戦進出!失意の底から這い上がり“らしさ”を取り戻した戦術家の取り組み<SMASH>

西岡良仁がマイアミ3回戦進出!失意の底から這い上がり“らしさ”を取り戻した戦術家の取り組み<SMASH>

今年の全豪直後は苦悩を口にしていた西岡だったが、兄との取り組みによって本来のクレバーなテニスを取り戻したようだ。(C)Getty Images

「僕は、あと2年だと思っています」

 西岡良仁が、自身に課した復調への期限を口にしたのは、全豪オープン1回戦敗戦後のことだった。

 前年の夏以降、勝てない時期が続いていた。ただ、結果以上に心を苛んだのは、「自分のプレー」が見えない苛立ちと不安感。

 その原因には、いくつかの要因があったという。

 一つは、夏に右手首を痛めたこと。サウスポーの彼が、自身のプレーの一つの基軸と頼る、バックの強打が思うように打てずにいた。

 もう一つは、そのケガ再発防止の意味もあり、ストリングを変えたこと。だが大きく打感が変わったことにより、適応に苦しんだ。

「全豪では、飛ぶガット(ストリング)に変えたんです。ただそれだと、僕の持ち味の、ねじ込んで、ねじ込んで、ができなくなり、粘り強さがなくなった。自分のなかで噛み合ってなくて」

 全豪前後の数カ月の葛藤を、西岡がそう打ち明ける。ストリングを変えたことで、ボールは飛ぶようになった。だがその打感が、西岡の最大の持ち味である、精緻に精緻を重ねたボール制御力を損ねたという。
  ストリング変更の背景を、より詳細に語ってくれたのは、西岡のコーチで兄の靖雄氏だ。

「良仁はジュニアの頃から15年くらい、ずっとポリツアースピンを使っていました。このガットはやや硬くて、スピンが掛かりやすいんです。そこからボールを良く弾く、ポリツアーストライクに変えたんです」

 変更の背景には、パワーテニスに加速がつく昨今の男子テニスの潮流に、立ち向かう狙いもあった。

 ただ、今季開幕戦のクォン・スンウ戦を見たとき、「あのガットは、良仁のプレーに合ってないかも」と、靖雄氏は直感したという。

 確かに、ボールのスピードは上がった。ただ自身の打球速度が上がれば、当然ながら返球も速くなる。それは、意図的に遅いボールも混ぜ、時間を操るかのような西岡の良さを消していると、コーチの目には映っていた。

 もう一度、ストリングを変えようと兄が提案したのは、全豪後のことだという。

「今が底なら、試せることはすべて試そう。それで勝てなくても、別に今より悪くなる訳じゃないんだし、良くなったら儲けもの」

 そんな言葉を、兄は落ち込む弟にかけた。
  そこで新たに試したのが、ポリツアープロ。鮮やかなイエローカラーが人目を惹くが、性能的には「一番、標準的でバランスが良い」ものだ。

 そのストリングで挑んだ最初の試合が、「全てだった」と靖雄氏は振り返る。

 戦いの場は、アメリカ開催のチャレンジャー。大会のレベルを下げ、勝利を取りにいったその初戦で、西岡は綿貫陽介と対戦したのだ。

「良仁は口にしませんが、すごく嫌がっている感じは伝わってきました」と、兄は言う。大会会場には、多くの日本テニス関係者たちも居た。そのなかで後輩と戦うことに、重圧を感じないはずはない。

 実際に、「立ち上がりは硬かった」と兄は見る。ただ助かったのは、相手が遮二無二攻めてくれたことだった。相手が攻め急いでくれたことで、ミスを誘う策にはめることもできたからだ。

 この勝利をブースターとして、西岡は同大会で優勝。その道程では、58位のジェイソン・ブルックスビーをも破っている。さらには翌週のチャレンジャーでも、決勝へと勝ち上がった。

「アメリカシリーズに入ってガットを変えたのが、すごくフィットして。チャレンジャーを戦ったのは本当によかったです。100位より下の選手なら、まだ自分の方が強いという流れはキープできたので」

 西岡本人も、この勝利の大きさを改めてかみしめた。
  ここで自信と勢いを得た西岡は、ツアーでも勝ち始めた。特に大きかったのは、2月下旬のアカプルコ大会。予選を勝ちあがり、2回戦では当時16位のテイラー・フリッツに競り勝つ。その先で戦ったのは、世界1位到達を確定させたばかりの、ダニール・メドベージェフ。再び世界最高峰の舞台に、誰もが恐れるくせ者が戻ってきた。

 マイアミ・オープン2回戦のダニエル・エバンス戦は、西岡の完全復活を印象付ける勝利だった。過去3戦全勝という相性の良さが、迷いのなさと自信の源泉でもあっただろう。だからこそ第1セットを落としても、焦りはない。

「やることは明確で、基本的には彼のバックに打ってスライスに打たせる。あんまり力を入れずにゆるく打って、向こうに打たせることで、相手も体力がなくなる。いつも、相手が走るのを嫌がり先に打ってミスする展開なので、そこに持ち込もうと思っていました」

 その基本戦術を貫きつつ、冴えた嗅覚で鍵となるゲームやポイントを見極め、試合の流れを掌握する。
  西岡の真骨頂が発揮された最初のターニングポイントが、第3セットの第6ゲームで、ブレークポイントをつかんだバックのリターンウイナー。

 ワイドに切れるスライスサーブは、サーブ&ボレーを得手とするエバンスの生命線だ。だからこそ、「最終的にあそこに頼ってくると思っていたので、完全に読んでいた」と、西岡はしてやったりの笑みを広げる。直後のポイントで、エバンスはダブルフォールト。試合の潮流は大きく西岡に傾いた。

 もう一つの象徴的なシーンが、続くゲームの30-15で訪れる。

 セカンドサーブで、ワイドに来ると信じ大きくバックステップを踏んだエバンスをあざ笑うかのように、西岡はセンターにエースを打ち込んだのだ。
 「ぜったい決まると思ってました。回り込むのはわかっていたので」

 この場面に関しても、西岡は確信を込めて振り返る。アドサイドからセンターに打つサーブは、サウスポーの西岡にとっては「スライス回転が掛かると、甘くなる」という、リスクの高い選択でもある。

 だからこそ西岡は、もっとも効果的な場面で使うべく、最後の最後までこのカードを隠し続けた。

「ああいうのも、駆け引きですね」

 その駆け引きに、彼はことごとく勝利した。

 試合全体を一つの物語のように紡ぎ、要所要所で伏線を張り、ここぞという場面で切り札を出す西岡のテニスは、結末の読めない映画のような、スリリングな趣がある。
 
 エバンスを破った先で西岡が対戦するのは、ビッグサーバーのロイド・ハリス。

 テニス界きっての策士がどのようなシナリオを描くのか? 興味の尽きぬ一戦だ。

現地取材・文●内田暁

※マイアミ・オープン3回戦/西岡良仁―ロイド・ハリス
(現地3月28日・日本時間29日未明)

【PHOTO】日本テニス界期待の存在!西岡良仁の厳選ギャラリー
 

関連記事(外部サイト)