覚醒シフィオンテクが圧倒的な優勝候補。大坂なおみの現在地、そして注目の対抗馬は?【全仏OP展望】

覚醒シフィオンテクが圧倒的な優勝候補。大坂なおみの現在地、そして注目の対抗馬は?【全仏OP展望】

左から大坂、シフィオンテク、ジャブール。はたして今年の全仏は誰が女王に輝くのだろうか――。(C)Getty Images

今シーズンが始まったとき、現在のテニス界に広がる景色を予見出来ていた人は、どれほどいただろうか?

【動画】28連勝で全仏に飛び込むシフィオンテク、前哨戦でのプレーをチェック!

 時の世界1位のアシュリー・バーティー(オーストラリア)は、開幕戦のツアー優勝を皮切りに、全豪オープンでも頂点へと駆け上がる。その結果のみならず、あらゆるショットを操る穴のないプレーは、女子テニスを次のレベルに引き上げる魅力に満ちていた。

 女王バーティーを破るべく、後続の選手たちが切磋琢磨しその背を追う――。それが、今年2月時点で多くの人々が思い描いた、女子テニス界の勢力図だった。

 青天の霹靂とも言える事態が起きたのは、バーティーの全豪制覇の1か月半後。まだ25歳の女王は、突如として引退を表明したのだ。引退試合もセレモニーもない、発表の日をもっての決別。本人の意向で翌週には、彼女の名前は世界ランキングからも消えた。

 王位に挑戦する機会すらなく、1位へと繰り上がったのは、当時2位のイガ・シフィオンテク(ポーランド)である。もっともその時点での彼女は既に、2月末のカタール・オープン、そして3月上旬のBNP・パリバオープンで連続優勝し、バーティーのライバルとして名乗りを上げたところでもあった。

 天井が抜けたことで突如降ってきた、“世界1位”の肩書き。ただシフィオンテクは重圧を覚えるどころか、自らがその地位に相応しいことを、結果で世に知らしめた。

 バーティー引退後の最初の大会であるマイアミ・オープンでも、一つのセットを落とすことなく、決勝で大坂なおみ(フリー)を破って優勝。
 戦場をハードコートからクレー(赤土)に変えて迎えたポルシェ・グランプリ、さらにはイタリア国際でも頂点に君臨した。

 バーティーから簒奪する手がない以上、勝利こそが女王の証明だと信じるかのような、鬼気迫る疾走。その間に連ねた白星は「28」。さらにはその間、彼女は国別対抗戦にも参戦し、二つの白星を母国にもたらしている。つまりはこの3か月弱で、負け知らずの30連勝。圧倒的な運動能力を生かしたコートカバーを基盤とし、その上に豊富なショットで巧みな戦術を組み立てる。現状では、他の選手たちはその牙城を崩す策や武器を持たない。

 かくして全仏オープンでも圧倒的優勝候補と目されるシフィオンテクだが、ほころびがあるとすれば、圧倒的すぎるがゆえの重圧や心のエアポケットだろうか。

 ただ開幕前の会見を見る限り、彼女の佇まいは依然として、素朴で知的な20歳の女性そのものだ。

 現在読んでいる本について語り、市内観光に心を躍らせ、ローマで食べたティラミスの美味しさを思いだし相好を崩す。

「ティラミスをかたっぱしから食べちゃった!この大会での私の動きに影響がなければ良いんだけれど」

 なるほど、これこそが女王が抱える、唯一の不安材料かもしれない……!? では、覚醒した感の強いこの女王に、対抗しうるのは誰だろうか?

 順当なら、世界2位にして昨年全仏の単複優勝者であるバルボラ・クレイチコワ(チェコ)の名が挙がるところだ。だが彼女は、2月以降ケガでツアーを離れており、今大会が復帰戦。さすがに多くは望めないだろう。

 3位のパウラ・バドサ(スペイン)や4位のマリア・サッカリ(ギリシャ)らは、クレーとの相性も含め上位進出候補だが、現状ではやや決め手に欠ける。そこで目を引くのは、6位のオンス・ジャブール(チュニジア)だ。

 ここまでクレー4大会に出場し、優勝1回、準優勝1回。女子テニス界きっての“くせ者”として知られるチュニジアのパイオニアが、新たなステージに足を踏み入れた感がある。これまでも、絶妙なドロップショットやトリックショットで観客を沸かせ上位勢を苦しめてきたが、最後は敗れ、名脇役的な地位に甘んじてきた。そんな彼女が、勝利への執念を露わにし、接戦を勝ち切り、キャリア最大のタイトルをもマドリードでつかみ取った。

 テニスという競技の多様性……とりわけクレーコートの特性を楽しむうえでも、ジャブールは注目したい選手だ。

 優勝争いという意味では、大坂なおみの名を候補に挙げるのは、やや無理があるだろう。それでも、通常はトップシード選手のみが呼ばれる大会前会見に大坂は現れ、会見室には多くの記者が詰めかけた。例年この時期に話題になる“アスリート長者番詰”でも、全体の19位につけている。昨年の同大会での、会見拒否発言とそれに伴う騒動も、彼女に注がれる注視の理由の一つだろう。
 昨年は最終的に、うつを告白したうえで大会から身を引いた大坂が、今年の全仏オープンに懸ける想いは強かった。スペインのマヨルカ島に前入りし、1週間のクレーコート準備期間を設けたことにも、それは現れていた。

 ただ4月末のマドリード・オープンで足首を痛め、翌週のローマ大会は欠場。全仏も欠場の可能性が囁かれたが、「それだけはありえない」と、会見では断言した。痛みはまだあると言うものの、「ケガを抱えながら、良い結果を残したことは過去にもある」と自らを鼓舞する。初戦の相手は、全豪オープンで大熱戦の末に敗れた、アマンダ・アニシモワ(アメリカ)。この第一関門を突破すれば、勢いに乗る可能性もある。

 そのほか日本のシングルス勢では、土居美咲(ミキハウス)が初戦でアリゼ・コルネ(フランス)と対戦する。地元の人気選手なだけにアウェー状態は免れないだろうが、テニスの相性的にも勝機は十分。ともに長くツアーレベルで戦い、酸いも甘いも経てきた両者の対戦もまた、テニス競技を介した人生観の交錯となりそうだ。

 ここ数年流動的だった女子テニス界の勢力図は、種々の予測不能な事態を経て、一つの構図に定まりつつある。ローランギャロスの赤土の上に、最終的な全体像が描かれるかもしれない。

取材・文●内田暁

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