アルカラスによる“革命”か、ジョコビッチやナダルの“ルネサンス”か。混沌とした男子テニス界を徹底分析【全仏OP展望】

アルカラスによる“革命”か、ジョコビッチやナダルの“ルネサンス”か。混沌とした男子テニス界を徹底分析【全仏OP展望】

19歳の王者候補として全仏に乗り込むアルカラス(中央)。ジョコビッチ(左)、ナダル(右)は勢いを止められるだろうか。(C)Getty Images

いったいこの数年間で、何度、“世代交代”の言葉が叫ばれてきただろうか?

【動画】マドリードを制したアルカラスのナダル、ジョコビッチ戦をプレーバック

 ロジャー・フェデラー(スイス)とラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)にアンディ・マリー(イギリス)の「ビッグ4」がグランドスラムを独占。その支配体制は、彼らが30歳を超えても揺らがなかった。その間の男子テニス史とは、ビッグ4に新勢力が挑む構図のくり返しだった。

 錦織圭(フリー)やマリン・チリッチ(クロアチア)らが、ビッグ4に挑んだ最初の新世代だったろうか。昨年の全仏準優勝者のステファノス・チチパス(ギリシャ)らが重い扉を叩き続け、9月の全米オープンではついに、ダニール・メドベージェフ(ロシア)がジョコビッチを破って優勝した。

 それでも、今年2月の全豪オープンではナダルがメドベージェフを破り優勝。数いる“新時代の旗手”たちも20代半ばを迎え、それでも誰が頂点に立つのかは、まだ見えない。そんな混沌の中に、突如として王者候補として名乗りを上げたのが、19歳の誕生日を迎えたばかりのカルロス・アルカラス(スペイン)だ。
 数年前から関係者の間でその名を囁かれ、昨年には誰もが「新時代のテニスの体現者」と刮目していた新星が、ここに来て一気に光を増した。

 今季はここまで、28勝3敗。優勝回数は、2つのATPマスターズ1000大会を含む4回。とりわけ際立つのは、準々決勝でナダルを、準決勝でジョコビッチを破り手にした、マドリード・オープンのタイトルだ。ジョコビッチ相手に3時間越えの死闘を制し、その勝利に安堵も満足もせず決勝で快勝する姿は、確かに王者の資質を放っていた。

 オフコートでの謙虚な姿勢と、コート上の闘争心から「ナダル二世」と呼ばれるアルカラスだが、プレースタイルは、敬愛する大先輩とはかなり異なる。強打を叩き込み、相手の返球が浅くなりそうだと察知すれば、迷わず前に出てボレーも決める。ビッグサーバーではないが、サーブ&ボレーもお手の物だ。マイアミ・オープンの決勝でも、優勝を決めた最後のプレーはサーブ&ボレー。

「チャンスがあれば、どんどん挑戦し攻めなくてはいけない。それが、僕のコーチの教えなんだ」

 満面の笑みでアルカラスが語る「コーチ」とは、元世界1位のファン・カルロス・フェレーロ氏(スペイン)。ナダルもその成長に目を細めるアルカラスは、スペイン王者の系譜を受け継ぐ存在として、温かな期待を注がれながら、すくすく育ってきた悠揚たるスケール感がある。

 かくして19歳の王者候補に関心が集まりはするが、グランドスラムにおけるビッグ4の強さは異次元だ。 ただナダルに関しては、ケガという不安材料がある。今年2月の全豪は制したものの、その後は肋骨の疲労骨折でコートを離れた。前哨戦のイタリア国際では、古傷の足の痛みが再発し、足を引きずりながらの敗戦を喫している。

 もっともナダルは、「そんなのは、自分にとっては普通のこと」と、ことさら悲観視はしない。過去13回優勝している全仏のコートに立った時、ナダルの全身にみなぎる力は未知数だ。たとえ、今季のクレーでタイトルがなくても、ナダルを優勝候補から外すことはできない。

 そのナダルと並ぶ優勝候補は、もちろん、前年優勝者にして現世界1位のジョコビッチだ。

 今季は、ワクチン未接種のために全豪オープン、さらには3月に北米で開催されたマスターズ2大会にも出場できず。ジョコビッチといえど実戦不足による体力や試合勘の低下はいかんともしがたく、今季最初の3大会では無冠だった。

 ただ直近のイタリア国際では、全盛期を彷彿させる強さを発揮し頂点へ。勝ち方を思いだしたジョコビッチの視界には、ナダルに並ぶ通算21回目のグランドスラム優勝が見えているだろう。
 そのジョコビッチと初戦で当たるのは、日本の西岡良仁(ミキハウス)だ。両者は過去に2度対戦し、西岡はまだジョコビッチから、1セットあたり4ゲーム以上取れていない。2年前の全豪オープン3回戦時の対戦後には、「認めたくないですが、今の僕ではまだジョコビッチ選手に勝てない」という、実直で印象的な言葉も残している。

 それから2年。すでに「どんなボールでも返してくる、サウスポーの戦略家」の評判をツアーに轟かせる西岡が、王者相手にいかなる戦術を仕掛けてくるか? 彼のジャイアントキリングにも注目したい。

 もう一人の日本人シングルス勢は、29歳にして成長著しいダニエル太郎(エイブル)。現在のランキングこそ105位だが、今季の獲得ポイントの累計で見る“レース”順位では69位。

 サーブの大幅強化と攻撃的なプレースタイルへのシフトを成した、この1年。さらに最近では、スポーツサイコロジストを“コーチ”とし、データを分析する“アナリスト”をチームに加える新体制を確立した。新たな試みでさらなる革新を目指すダニエルの姿勢は、今後の日本テニス界に道を示す可能性もある。その意味でも、彼がどんな戦いを披露してくれるか楽しみだ。

 世代交代と超攻撃化が進む男子テニス界の趨勢にあって、今年の全仏が内包するテーマは二つ。新たな世代が革命を成すのか? あるいは、ジョコビッチやナダルによる“ルネサンス”が起こるのか? のちに歴史の転換期として語られる大会になる気配が漂っている。

取材・分●内田暁

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