ルードが父親と二人三脚で追ってきた頂点への夢。多くの覇者を輩出する全米は「自分にもチャンスがあるはずだ」<SMASH>

ルードが父親と二人三脚で追ってきた頂点への夢。多くの覇者を輩出する全米は「自分にもチャンスがあるはずだ」<SMASH>

ベレッティーニを破り全米ベスト4入りしたルード。決勝に進出し、アルカラスより成績が上回れば、ルードがランキング1位となる。(C)Getty Images

ロッカールームの“チャンピオンウォール”に並ぶ歴代優勝者の写真を眺めながら、彼はふと、「ここには他のグランドスラムに比べ、たくさんの顔がある」ことに気付いたという。

 確かに、例えば2010年以降の優勝者を大会ごとに比べてみても、その傾向は明らかだ。この間ウインブルドンでは、いわゆる“ビッグ4”以外の優勝者はいない。全仏オープンならラファエル・ナダルとノバク・ジョコビッチ、そしてスタン・ワウリンカの3選手のみがトロフィーを掲げている。全豪オープンでもその3選手に、ロジャー・フェデラーが加わるだけ。

 ところが全米オープンでは、過去12大会で7名のチャンピオンが存在する。しかもそのうち、アンディ・マリーを含む4名が、この大会でキャリア初のグランドスラムタイトルをつかみ取っていた。

「ならば、自分にもチャンスがあるはずだ」。壁に並ぶ歴史に触れ、キャスパー・ルードは、そんなことを思ったという。
  4回戦でフランシス・ティアフォーがナダルを、ニック・キリオスがダニール・メドベージェフを、そしてカルロス・アルカラスがマリン・チリッチを破った時点で、“新グランドスラムチャンピオン”が誕生することが確定した今年の男子全米オープンテニス。さらには2名の選手には、今後の結果次第で世界1位への道も拓けた。

 そのうちの1人が、アルカラス。そしてもう1人が、ルードである。

 ルードはジュニア時代、そしてツアーを回り始めた頃から、周囲の温かな視線に迎え入れられていたように思う。それは彼の父親、クリスチャンの人柄や功績に拠るところが大きいのだろう。

 クリスチャンがツアーを転戦した1990年代は、スウェーデンが隆盛だったが、隣国ノルウェーはテニスの世界では目立たぬ存在。その中でパイオニアとして活躍し、同国選手史上最高位の39位に到達した彼は、多くの関係者の記憶に「好青年」の印象と共に刻まれていたようだ。

 ちなみに父が打ち立てたその記録は、14年半後の2020年に息子によって更新される。その後も上昇曲線を描き続けたルードのランキングは、今年6月に5位にまで至った。
  ジュニアの頃は、ネットプレーも頻繁に行なっていたというルードが、今のようにベースラインからのスピンショットを主体とするようになったのは、幼少期からの「アイドル」を追い、ナダルアカデミーに移った影響が大きいだろう。ただ、16歳から19歳までの2年半を除けば、ルードのコーチは基本的に、常に父親だ。

 親子関係に師弟関係を持ち込むと、感情がノイズとなり、冷静さや客観的視点を曇らせてしまいがちだ。だがルードは、「父とはそんなことは、ほとんどなかった」と穏やかに言う。

「19歳になる直前に、前のコーチと終了することになり、父親と話し合った。僕は、父に指導してほしいと言った。ただ同時に、異なる視座からの助言と、トップ選手とも練習できる拠点が必要だとも思った。そこでマヨルカのラファのアカデミーに行くことで合意したんだ」
  そう語るルードと父クリスチャンとの信頼関係は、2人が同じ事象について話す時、まるで打ち合わせをしたかのように言葉が合致することからもうかがえる。

 ルードの世界1位の可能性について問われた時、父は「そのことは記事で知ったが、まだまだ遠い道。一歩ずつ進まないと」と地に足をつけながらも、こう続けた。

「でも実現できたら、素晴らしい。世界1位は、キャスパーが子どもの頃から目指していた究極の目標だからね」

 息子が見たその夢は、いつからか父の夢でもあっただろう。親子二人三脚で、頂点への道を進む。

現地取材・文●内田暁

【PHOTO】ルードをはじめ全米オープン2022で熱戦を繰り広げる男子選手たちの厳選写真!
 

関連記事(外部サイト)

  • 記事にコメントを書いてみませんか?