車いすテニス、ジュニア、プロが垣根を越えてガチで対決!無限の可能性を秘めた『WJPチャレンジテニス』<SMASH>

車いすテニス、ジュニア、プロが垣根を越えてガチで対決!無限の可能性を秘めた『WJPチャレンジテニス』<SMASH>

車いすテニス女子世界2位の上地結衣や同男子5位の小田凱人をはじめ現役プロの加藤未唯やジュニア選手ら『WJPチャレンジテニス』出場選手たち。写真:内田暁

「トライ・アンド・エラー、アンド、エラー、アンド・トライ……って感じでやってきてますよ」 

 コートを見ながら松井俊英はそう言うと、隣に立つ“実行委員”の美濃越舞に「ねっ」と賛同を求めた。 

 10月21日に、千葉県柏市の吉田記念テニス研修センター(TTC)で開催された「WJPチャレンジテニス」は、今年が第3回目。その開催と継続は、イベント主催者たちにとっても、多様なるチャレンジのプロセスだった。

 WJPチャレンジの第1回大会が開催されたのは、2020年の秋。新型コロナ感染拡大のため、多くの競技会やあらゆる娯楽が停止した時だった。テニスももちろん、例外ではない。とくにコートに立つ機会が失われたのが、ジュニア選手や学生、そして車いすテニス競技者たちだった。

「だったらプロも交えて、みんなが参加できるイベントをやろうか」

 自身も、活躍の場を奪われたプロプレーヤーの一人である松井は、そう思い立つ。そこで日ごろ拠点とするTTCの人々や、車いすテニス競技者の荒井大輔らにも声を掛け、自らが実行委員としてこのイベントを企画した。
 “WJP”の3文字が意味するのは、Wheel chair(車いす)、Junior(ジュニア)、そしてProfessional(プロフェッショナル)。それぞれの選手たちが垣根を越えて交流し、競い合うことがイベントのコンセプトとして据えられた。それは、あらゆる競技者が同じコート、同じ用具、そしてほぼ同一ルールで競い合えるテニスの魅力が、自ずと立ち上がった帰結でもある。

 その第1回目“WJPチャレンジテニス”では、参加者たちを「千葉県ゆかりの選手」と規定することで、地元振興の意味合いを強く打ち出した。

「ダイバーシティ(多様性)」をテーマに掲げた第2回目では、BNPパリバの協賛を得て、参戦選手や対戦カードもさらなる拡張を見せる。

 それら多様性を増した昨年の顔合わせのなかで、松井がとりわけこだわったのが、“車いすテニス選手対ジュニア選手”のカード。対戦したのは、当時15歳で、車いすテニスJr.世界1位の小田凱人。そして地元千葉でトップクラスのジュニア選手である、当時14歳の佐川永遠だった。

 このカードの実践に関しては、当初は実行委員会の間でも意見が割れたという。

「さすがに勝負にならないのでは?」「小田選手の相手の小学生が良いのではないか?」

 それら、主たる声だった。

 だが松井は、断固反対した。

「小田君はジュニアの世界1位。年下では彼に失礼だ。仮に大差になっても良い。その後、2人が仲良くなれたりしたら、熱いじゃないですか! そういう場を作ってあげたかった」

 昨年のイベント後、松井は熱く語っていた。

 実際にその時の対戦では、小田は敗れ、「障がい者と一般の壁はないと証明したかったのに、僕のスコアが悪く、それができなかった」と悔しがる。 それから1年後―。16歳にして世界ランキング4位となり、小田はこのイベントに戻ってきた。船水梓緒里と組んだ車いす混合ダブルスでは上地結衣/荒井組に敗れるも、同世代の中新ゆずりはと組んだニューミックスダブルスでは、斎田悟司/小野田倫久に完勝。今や、国枝慎吾が自ら後継者と認める16歳は、3回目の開催にして実現した有観客たちの前で、その実力とこの1年の成長をいかんなく発揮した。

「あれは苦しい敗戦でした」

 そう1年前を振り返る小田は、「去年対戦した佐川君とは同じ歳ということもあり、連絡を取り合ったり、お互い凄く良い刺激を受け合っています」と明るい笑みを広げる。昨年、松井が確固たる決意で灯した火種は、2人の胸に情熱として宿っていた。

 毎回、対戦カードのバリエーションも増やしているこのイベントで、今回新たに加わったのが、男子対女子のプロプレーヤー対決だ。

「人選は色々とすごく考えた」と荒井が明かす選考の末に、実現したのが加藤未唯と小野田の対戦である。加藤は、現在ダブルスの世界51位。44歳の小野田は元単世界301位で、現在はコーチとして活動中だ。
  その2人のシングルス対決は、サービスに顕著な小野田のパワーに、加藤がスピードとショットバリエーションで立ち向かうという、魅力ある対立構図に。タイブレークにもつれ込む一進一退の攻防は、観客が声も忘れて見入り、ウォームアップのため隣のコートに居た上地も「いい試合で、思わず最後まで見てしまった」と言ったほどだ。

 久々にシングルスを戦い、試合後には観客から「かっこよかったです」と多く声を掛けられた加藤は「やっぱりシングルスをやりたいな、シングルスで勝つとうれしいなと感じた」と言う。

「来年はシングルスも考えてスケジュールを組んでいきたい。後悔して引退したくない」の言葉は、この試合が新たな始まりになることを予感させるものだ。

 昨年までの基本フォーマットだったチーム戦形式を排し、一戦ごとの濃度と「ガチな戦い」をテーマとした今大会。その結果、多様なプレースタイルや人生観が交錯して帯びた熱は、チャレンジの火種となり、ここから燃え広がっていくはずだ。

取材・文●内田暁

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