王者ナダルと互角の勝負を演じた24歳、西岡良仁が得た世界トップの「イメージ」と全豪の焦点

王者ナダルと互角の勝負を演じた24歳、西岡良仁が得た世界トップの「イメージ」と全豪の焦点

全豪オープン前のヨネックスのパーティーでATPカップのナダル戦について詳しく話してくれた西岡良仁。写真:山崎賢人(THE DIGEST写真部)

「自分で考えることがすごく大事。練習も、どうしたら球が入るのか、どのコースに打つのがいいかというのを、自分でイメージしながらすること」 
 
 この言葉は約1年前、西岡良仁が地元で開催したテニスクリニックで、小学生たちに伝えていた“西岡流テニス上達法”だ。それは「究極の負けず嫌い」を自認する彼が、幼少期から多くの試合をこなすなかで、勝つために培ってきた「考え方の癖」でもある。

 1年3か月前にツアー優勝を果たし、世界のトップレベルで戦う今もなお、この「考え方の癖」は、彼の強さの根幹を成している。

 全仏オープンでのホアン・マルティン・デルポトロとの死闘に、尊敬する錦織圭からの勝利――。多くの経験を得た昨シーズンの最後に、西岡が戦った相手は、ノバク・ジョコビッチだった。スコアは、1−6、2−6。本人曰く「こてんぱんにやられた」試合ではあったが、西岡がこの試合から持ち帰った最大の収穫は、世界最強選手の「イメージ」である。
 「ジョコビッチ選手とやったイメージを持ったまま、日本で2〜3週間の練習ができたわけじゃないですか。シーズンの最後があの試合だったのはメチャメチャラッキーだし、メチャメチャ良かったんです。抽象的なイメージですが、それでも大きかった」
 
 昨年末のオフシーズン中、西岡は「ジョコビッチ選手が相手だったら、こんなに浅いボールは叩かれる」、「彼だったら、もっと速いタイミングでボールが返ってくる」と、自身により高いハードルを課して、コートを駆けボールを打った。たとえ日本で練習していようとも、彼がネットの向こうに見ていたのは、あの時に戦ったジョコビッチの姿だ。

 そのイメージこそが、新シーズンで最高のスタートが切れた要因だと、西岡は明言する。日本のエースとして出場した今季開幕戦のATPカップでは、初戦で世界45位のパブロ・クエバスを6−0、6−1で圧倒。2試合目でも、ニコロズ・バシラシビリから6−2、6−3の完勝を手にした。
  そして迎えた、現世界1位のラファエル・ナダル戦――。西岡はナダルと互角以上の打ち合いを展開し、第1セットでは2度までも先にブレークする。ただ同じ数だけのブレークを許し、もつれこんだタイブレークの末にこのセットを失うと、第2セットは見せ場を作りつつも最後は王者に突き放された。

「今回のナダル選手との試合は、正直勝ちにいったし、勝ちたかった……」。試合から1週間以上たった今も、あの戦いを思い出すと、西岡の胸には悔いがこみ上げる。それは絶対的な手応えの裏返しであり、だからこそ、彼我の戦力差を正しく図ることもできた。

「ナダル選手とやるときは、基本、フォアの高いところを狙おうとしています。彼のフォアは下からこするので、速くて低いボールを待ってダウンザラインに打ちたがる。僕もそれが好きなので、わかるんです。バックサイドに打つ時は、フォアに回り込まれないよう、しっかり振っていくことを心掛けました。バックのクロスコートの打ち合いで、うまくカウンターでダウンザラインに打てるかがキーだと思っていて、そこの展開はうまくハマったんです」
  同じサウスポーとして、幼少期から憧れ「他の選手よりたくさん試合も見てきた」ナダルのプレーパターンは、西岡の脳裏に焼き付いている。それが有効な戦略を立てる上で、役立ったのは間違いない。

 では、最終的に試合を分けたものとは何だったのか? 

「やっぱり、(第1セットのゲームカウント)5−4で攻めるべきだったと思います。あのゲームで攻めきれなかった。めっちゃ攻めたいと思ったんです。でもあの場面で、それまでできていたことができなくなった。ナダル選手から勝てるチャンスが出てきた、行けるかもしれない、本当に勝てるかもしれないと思った時に、気持ち的に引いてしまった。そこが差ですね」

 そう明瞭にターニングポイントを分析する彼に、「その差を埋める要素とは何か?」と問うと、「経験です」と即座に返ってきた。
 「やり続けるしかないと思います、ああいう選手と。慣れだと思うので。僕が今、20位くらいの選手に勝てると思えるようになったのも、勝った実績があるから。現に勝っているので、だいたい相手の力がわかるんです。でもトップ選手とは数回しかやたことがないし、勝ちきるとかセットを取った経験もまだないので……。そこを今回は、すごく良い経験ができました」
 
 真のトッププレーヤーが、ここぞという場面で出してくる実力とはどれほどのものなのか? それに対抗するには、自分はどれほどのリスクを負うべきなのか? それらを見極めるためには、ジョコビッチやナダルら相手に、緊迫の試合を繰り返していくしかない。だからこそ今回の全豪でも、西岡は3回戦進出に焦点を当てる。その地点で彼を待ち受けるのは、恐らくは、ジョコビッチだ。
 「もちろんジョコビッチ選手が上がってくるかわからないけれど、上がってきたら、大きなコートでの試合になる。そのなかで、またどうできるか? もし勝てなかったとしても、何ができたかが次のステップだと思うので、そこが大切だと思います」

 昨年11月に、自身を「こてんぱん」に倒したジョコビッチのイメージを指標として、彼はこの約2か月間、自分を押し上げ続けてきた。その相手との再戦が実現すれば、それは、自身の現在地と目指す地点までの距離を測る、これ以上にない羅針儀となる。

文●内田暁
取材協力●ヨネックス株式会社
 

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