全仏オープン延期で開催が危ぶまれる『レーバー・カップ』の比類なき魅力とは【男子テニス】

全仏オープン延期で開催が危ぶまれる『レーバー・カップ』の比類なき魅力とは【男子テニス】

フェデラーをはじめナダルやティームなど超一流選手が集うビッグマッチが、今年は見られないかもしれない。(C)GettyImages

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、世界4大大会のひとつ『全仏オープン』の日程が9月20日〜10月4日に延期された。この決定には、一部のファンから不満の声も上がっている。なぜなら同じ時期に『レーバー・カップ』(9月25日〜27日)の予定が入っていたからだ。ファンはもちろん、選手からも高評価を受けるレーバー・カップとは、果たしてどんな大会なのか…。

 大会の重要度と魅力がアップするためには何が必要か。この問いに対する答えは「ポイントを増やす」「賞金を増額する」と、だいたいは同じになる。そのロジックを通すとなれば、世界ランキングに繋がるポイントが得られないレーバー・カップは、スポーツ的には価値がなく、単なるショーマッチに過ぎないといった結論になりかねない。私も実際、よく耳にするしメディアで読む記事の一部にもそうした主張があるのを知っている。

 レーバー・カップの第1回目は2017年にチェコのプラハで、第2回目は18年にアメリカのシカゴで開催された。欧州選抜と欧州以外(ワールド)選抜が6人ずつに分かれて行なう男子の団体戦。第3回目の19年はスイスのジュネーブが会場となり、結論から言えばまたもや大成功を収めた。スタジアムを埋めた観客とテレビ視聴者の多さだけでなく、参加選手のハイパフォーマンスと両チームのキャプテンの顔合わせが見る者をとても喜ばせたものだ。

 特別に改装されたジュネーブのアリーナは、5度も17,000人の観客で埋め尽くされた。結果は欧州選抜が3連覇を飾るが、途中まで7―11とリードされており、最後の2試合を勝たなければ勝利できない状況だった。ロジャー・フェデラーとアレクサンダー・ズベレフの奮闘により欧州選抜が逆転したわけだが、選手の心意気といい、チームの一体感といい、誰もがこれまでのテニスであまり体験してこなかった別次元の興奮を覚えたものだ。
  ワールド選抜を率いたジョン・マッケンローの悔しさぶりも強い印象を残した。1度でもこの大会を目にしたら、「どうせ、ショーマッチ」とは言えなくなる。広告や宣伝といった概念からではなく、純粋にスポーツのエキスが凝縮されたハイレベルな大会であるのは疑う余地がないからだ。

 また「スポーツ的に価値がない」とする意見に対して、参加選手はイライラを隠さない。ズベレフは「ロジャー(フェデラー)とラファ(ナダル)が同じチームでダブルスを組んでプレーするんだぜ。2人とも燃え盛る勢いでボールに食らいつく。お互いにコーチし合ってプレーのクオリティーを極限まで上げている。これって、テニスファンじゃなくても絶対に見たいシーンじゃないのかな」と語る。

 ドミニク・ティームは別の観点から分析する。「レーバー・カップのレベルは部分的には世界ツアーよりも上だ。(ニック)キリオスと(ジャック)ソックが、あんなに必死にプレーする姿を見たことがない。この大会は選手に特別な感情を掻き立てるのさ。だからスポーツ的にどうこう言うのは完全な見当違いだね」。
  今年アメリカのボストンで開催される第4回大会に向け、出場契約を更新したビヨン・ボルグとマッケンローは、自らもレーバー・カップのファンだと公言する。「年間で最高の1週間だ」とボルグが語れば、マッケンローも「過去20年間でのベスト企画だ」と同調する。

 成功の秘訣は意外にシンプルだ。まず、選手が受けるプレッシャーの強さ。普段から“自分のため”にプレーする彼らが、ライバル選手と一緒になって「フォア・ザ・チーム」に徹する。自分のミスが仲間に悪影響を与えないため、体験したことのない感情と気持ちを切り替えることになる。しかも自分たちのプレーを見ているのは、少し前まで世界を制していたボルグとマッケンローだ。それだけでも余計に力が入る。

 そしてもう1つは、大会名にもなっているロッド・レーバー氏の存在だ。1960 年から69年にかけて4大大会を11回制し、そのうち2度(1962年と69年)も年間グランドスラムを達成した唯一の選手。81歳にしてなお存在感はとてつもない。

 フェデラーは、いわゆる主催者でもあった。元々この大会は彼の発案により誕生したもので、エージェントの『Team8』と彼のマネジャーを務めるトニー・ゴッドシックにより運営されている。オーストラリアとアメリカの協会の支援を受けていたが、今年からは新たにATPツアーがこの大会をカレンダーに加えた。
  気持ちのアップダウンが激しいことで有名なキリオスは、『バッドボーイ』なるあだ名を頂戴しているが、レーバー・カップの最中だけは模範的な選手として行動した。フェデラー相手に熱いプレーで圧倒、欧州選抜を敗戦の瀬戸際まで追い込んだ。

「チームで戦うのって本当に楽しい。友だちが近くにいて、テニスも選手のこともよくわかるキャプテンが見守っている。それに俺たちって(欧州以外の)世界を代表しているんだ。これ以上の価値がある大会はないと思うね。俺にとっては究極の参加動機だよ」。

 スポーツの世界は賞金とポイントだけで価値が決まるわけではない。名誉や野心はもちろんのこと、自分のベストパフォーマンスを示したい、そのための意欲を刺激したいといった部分を含んでいなければ成り立たないものではなかろうか。それらの要素を全て表していたのがフェデラー、ナダル、キリオス、そしてチームプレーヤー全員だったのだ。

文●レネ・シュタウファー
ITWA(国際テニスライターズ連盟)正会員で、経験豊富なスイス人ジャーナリスト。ヨーロッパを中心に第一線で活躍しており、フェデラーやヒンギスとも親交が厚い。2018年に発刊されたフェデラーをテーマにした著書は、スイスでベストセラーとなっている。

構成・翻訳●安藤正純

※『スマッシュ』2019年12月号より再編集・再掲載

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