選手経験なしのチチパスの父親が、息子を世界6位にまで導いたコーチングポリシー【男子テニス】

選手経験なしのチチパスの父親が、息子を世界6位にまで導いたコーチングポリシー【男子テニス】

2019年ATPファイナルズで優勝したチチパス。左から2番目が父親のアポストロス。(C)GettyImages

21歳のギリシャ人選手、ステファノス・チチパスの躍進は目を見張るものがある。2018年にツアーで活躍し始めると、翌年にはランキング上位8名に出場権が与えられる年末の「ATPファイナルズ」に出場しただけでなく、ロジャー・フェデラーやドミニク・ティームを退けて優勝を果たした。21歳でツアータイトルを5つ手にし、現在6位にまでランキングを上げているのだ。

 長髪をなびかせる193センチのギリシャ人を、ここまでコーチとして導いてきたのは、父親のアポストロス・チチパスである。ATPファイナルズで優勝した際に、ATPが父親を特集していたのでここで紹介しよう。他のコーチとは異なる経歴の持ち主なのだ。
  現在、元トップ選手がコーチになるレジェンドコーチの数が増えている。また、元トップ選手でなくても、コーチになるのは元プロが多い。実際、今のトップ8のコーチを見ると、現役時代にトップ10に入っていたものが4名おり、ほとんどが元選手である(下記参照)。そんな中、アポストロス・チチパスは世界ランキングに入るどころかプロ選手としてのキャリアもない。

【順位 選手名/コーチ名(最高ランキング)※(−)はランキングなし】
1位 N・ジョコビッチ/M・バイダ(34位)、G・イワニセビッチ(2位)
2位 R・ナダル/C・モヤ(1位)、F・ロイグ(60位)
3位 D・ティーム/N・マスー(9位)
4位 R・フェデラー/I・リュビチッチ(3位)、S・ルティ(622位)
5位 D・メドヴェージェフ/G・セルバラ(−)
6位 S・チチパス/A・チチパス(−)
7位 A・ズベレフ/A・ズベレフSr.(175位)
8位 M・ベレッティーニ/V・サントパドレ(100位)、U・リアナ(−)

 アポストロス自身は、テニスは遊びでする程度で、サッカーやバスケットボールに打ち込んでおり、ギリシャのサッカー代表に選ばれたこともある。アテネ大学でスポーツサイエンスを専攻しテニス指導の道に進んだ。
  その後、後に妻となるユリア(元WTAランキング194位)と2年間遠征をし、ボリス・ベッカーとステフィ・グラフが男女共に世界トップだったドイツテニス黄金期の90年代はじめに、ウィーンとベルリンでさらに3年間テニス指導を学んでいる。

 カントリークラブのコーチの仕事を受けアテネに戻ったアポストロスは、息子のステファノスが3歳の時にテニスを教え始めている。父が技術を教え、母は「常に最善を尽くしなさい」と心得を教えていた。

 このような彼の経歴が、「アスリートとしての身体を鍛え、精神を発達させ、技術も上達させないといけない。若い選手の育成には、5、6年はかかる」という考えの礎になっている。だが、実際のところ人々は、早く結果を求めて、時間とお金を十分に投資するほど忍耐強くはないそうだ。
  ステファノスが12歳でテニスの道に真剣に進むと選んだ後は、アポストロスは専任コーチになり、世界中のジュニア大会へ同行した。それはグレイヘアになった9年後の今日も続き、コーチングボックスから21歳の息子を導き励まし拍手を送っている。

「たくさん学んできたが、まだ少しのことしか知らないように感じている。常に心を開き、学ぶ準備をしておくことが大切だ。息子は、私にその機会を与えてくれた」とアポストロスは言う。

 結果より、まずはその過程、身体、精神、技術を優先して育てたことが、ギリシャのテニス史上前例のない業績の達成に導いたのだろう。そしてさらに学び続ける、この師弟に今後ますます注目したい。

文●東真奈美

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